1.1節 可測空間と測度
著者:梅谷 武
語句:σ-加法族,可測空間,測度,確率測度,測度空間,Borel σ-加法族,Borel集合,Borel測度,完備,完備化
一般の集合上に測度を定義し、その性質について述べる。また、位相空間上の測度、ℝd上のBorel測度、測度の完備性、実数のコンパクト化について述べる。
作成:2011-12-08
更新:2012-02-15

定義1.1.1.1 σ-加法族

 集合Ωの部分集合族FΩ上のσ-加法族しぐまかほうぞく, σ-algebraであるとは、次の条件を満たすことである。
(σ.1) ∅, Ω ∈ F
(σ.2) A ∈ F ⇒ AcF
(σ.3) AnF, n = 1,2,⋯ ⇒ ∪n AnF

定義1.1.1.2 可測空間

 集合Ωとその上のσ-加法族Fの組(Ω,F)可測空間かそくくうかん, measurable spaceという。

定義1.1.1.3 測度と確率測度

 可測空間(Ω,F)上の測度そくど, measureとは、次の性質を満たすF上の関数μ:F∪{∞}のことである。
(m.1) 0 ≦ μ(A) ≦ ∞, A ∈ F
(m.2) AnF, n = 1,2,⋯, An ∩ Am = ∅ (n ≠ m) ⇒ μ( ∪n An ) = ∑n μ( An )
測度Pがさらに次の性質を満たすとき確率測度かくりつそくど, probability measureという。
(m.1') 0 ≦ P(A) ≦ 1, A ∈ F
(m.3) P(Ω) = 1

定義1.1.1.4 測度空間

 可測空間(Ω,F)上の測度μが与えられたとき、(Ω,F,μ)のことを測度空間そくどくうかん, measure spaceという。
 一般に集合列{Ak}, k∈に対して、その上極限と下極限を次のように定義する。
 
limsup
k→∞
Ak


n=1


k=n
Ak
 
liminf
k→∞
Ak


n=1


k=n
Ak

命題1.1.1.6 集合列の上下極限

 集合列{Ak}, k∈の上極限と下極限について、次が成り立つ。
(ⅰ) a ∈ limsupk→∞Ak ⇔ aは無限個のAkに含まれる。
(ⅱ) a ∈ liminfk→∞Ak ⇔ aは有限個を除くすべてのAkに含まれる。
(ⅲ) liminfk→∞Aklimsupk→∞Ak

証明

演習とする。■
liminfk→∞Ak = limsupk→∞Akのとき集合列{Ak}は収束するといい、次のように書く。
 
lim
k→∞
Ak
 
liminf
k→∞
Ak
=
 
limsup
k→∞
Ak

命題1.1.1.9 σ-加法族の性質

 集合Ω上のσ-加法族Fの集合列AnF, n = 1,2,⋯において次が成り立つ。
(σ.4) n AnF
(σ.5) limsupk→∞AkF
(σ.6) liminfk→∞AkF

証明

演習とする。■

命題1.1.1.11 測度の性質

 可測空間(Ω,F)上の測度μには次の性質がある。A,B ∈ F, AnF, n = 1,2,⋯
(m.4) μ(∅) = 0
(m.5) A ⊂ B ⇒ μ(A) ≦ μ(B)
(m.6) μ(A ∪ B) = μ(A) + μ(B) - μ(A ∩ B)
(m.7) μ( ∪n An ) ≦ ∑n μ( An )
(m.8) A1 ⊂ A2 ⊂ ⋯ ⊂ An ⊂ ⋯ ⇒ μ( ∪n An ) = limn→∞ μ( An )
(m.9) μ(A1) < ∞, A1 ⊃ A2 ⊃ ⋯ ⊃ An ⊃ ⋯ ⇒ μ( ∩nAn ) = limn→∞ μ( An )

証明

演習とする。■

補題1.1.1.13 Fatou

 測度空間(Ω,F,μ)上の集合列AnF, n = 1,2,⋯において、μ( ∪n An ) < ∞ならば
μ(
 
liminf
n→∞
An
) ≦
 
liminf
n→∞
μ(An)
 
limsup
n→∞
μ(An)
≦ μ(
 
limsup
n→∞
An
)

証明

演習とする。■

補題1.1.1.15 Borel-Cantelli

 測度空間(Ω,F,μ)上の集合列AnF, n = 1,2,⋯において、


n=1
μ( An )
< ∞   ⇒   μ(
 
limsup
n→∞
An
) = 0

証明

演習とする。■

定理1.1.2.1 σ-加法族の生成

 集合Ωの部分集合族Sが与えられたとき、
σ[S] = ∩ { M | SM, Mはσ-加法族 }
とおくと、σ[S]Sを含む最小のσ-加法族となる。

証明

演習とする。■

定義1.1.2.3 Borel集合

 位相空間Xが与えられたとき、その開部分集合全体をOとする。このとき、B(X) σ[O]Borel σ-加法族ぼれるしぐまかほうぞく, Borel σ-algebraといい、その元をBorel集合ぼれるしゅうごう, Borel setという。

定理1.1.2.4 ℝdのBorel集合

Jd { (a1,b1) × ⋯ × (ad,bd] の有限和 | -∞ ≦ ak ≦ bk ≦ ∞, k = 1,⋯,d }
dのBorel集合Bd B(d)を生成する。但し、(an,∞](an,∞)と置き換える。

証明

演習とする。■

定理1.1.2.6 ℝd上のBorel測度

(d,Bd)上の測度はJd上で一致すれば等しい。

証明

演習とする。■
(d,Bd)上の測度をBorel測度ぼれるそくど, Borel measureという。

定義1.1.2.9 測度の完備性

 測度空間(Ω,F,μ)完備かんび, completeであるとは、Fの測度0集合の部分集合がすべて測度0となることである。

定理1.1.2.10 測度空間の完備化

 測度空間(Ω,F,μ)において
F = { A ⊂ Ω | B1 ⊂ A ⊂ B2, μ(B2-B1) = 0, ∃ B1, B2F }
μ(A) = μ(B1), A ∈ F
とすると(Ω,F,μ)は完備な測度空間となる。 ここで、FFであり、μF上でμに一致する。

証明

演習とする。■
(Ω,F,μ)(Ω,F,μ)完備化かんびか, completionという。
= ∪{±∞}に次のような演算を定義する。a∈, a > 0のとき
a + ±∞
=
±∞                 
-a × ±∞
=
∓∞
(+∞) + (+∞)
=
+∞
(-∞) + (-∞)
=
-∞
(+∞) × (+∞)
=
+∞
(-∞) × (-∞)
=
+∞
0 × (±∞)
=
0
この演算は値関数の和・差・積を定義するための形式的なものであり、これによりを代数系として扱うわけではない。
(0,1)と同相であり、にはその同相写像を拡張し[0,1]と同相になるような位相を入れる。これにより、はコンパクト位相空間となる。
数  学
σ-加法族 しぐまかほうぞく, σ-algebra
可測空間 かそくくうかん, measurable space
測度 そくど, measure
確率測度 かくりつそくど, probability measure
測度空間 そくどくうかん, measure space
Borel σ-加法族 ぼれるしぐまかほうぞく, Borel σ-algebra
Borel集合 ぼれるしゅうごう, Borel set
Borel測度 ぼれるそくど, Borel measure
完備 かんび, complete
完備化 かんびか, completion