2.2節 Starlingの公式
著者:梅谷 武
語句:部分積,無限乗積,広義一様収束,ζ関数,Γ関数,Β関数,Gaussの公式,Weierstrassの公式,Eulerの定数,二重階乗,Wallisの公式,Starlingの公式
無限乗積を定義し、その収束性について述べる。関数を無限級数でなく無限乗積で表現した方が都合がいいときがある。関数項級数の収束判定のためのWeierstrassのM-判定法とその応用例としてRiemannのζ関数の収束性について述べる。Bernoulli数、Bernoulli多項式、ζ関数はさまざまな局面に現れる。Γ関数とΒ関数を定義し、その性質をまとめる。最後にEuler-Maclaurinの公式を使ってStarlingの公式を証明する。
作成:2012-01-17
更新:2021-04-03
すべての項が
0でない無限乗積に関するCauchyの収束条件は
∀ ε > 0, ∃ N ∈ ℕ:m > n ≧ N ⇒
| | = | | | < ε
|
となり、
{pn}は有界であるから、
an → 1 (n → ∞)となることがわかる。このことから無限乗積を
という標準形にして考えることができる。
証明
an>0より
したがって、
1 + | | < | | <
| | = exp | |
|
■
証明
級数が発散するとき、
| < exp - | |
|
より、部分積が
0に収束するので無限乗積は
0に発散する。
級数が収束するときは、部分和が減少列であるから、下から押さえられることを示せばよい。ある
Nが存在して
となる。このとき次が成り立つ。
級数が収束することから
も収束し、したがって
も収束する。ゆえに部分積には下限があり、収束する。■
無限乗積
が絶対収束するとは、無限乗積
が収束することである。
無限乗積
が絶対収束することと、無限級数
が絶対収束することは同値である。
複素領域
D上の正則関数列
{fn(z)}n∈ℕが
D上で優級数
をもつとき、無限級数
は
D上で一様収束し、正則関数となる。さらにこのとき項別微分可能である。
証明
演習とする。■
証明
r > 1, Mn = n-rとすると
| = n-Re(s) ≦ Mn, Re(s) ≧ r,
| | < ∞
|
したがって、
ζ(s)は
{ s ∈ ℂ | Re(s) ≧ r }で一様収束する。■
ζ関数は全平面に解析接続され、
s ≠ 1で正則であり、次が成り立つ。
証明
Euler-Maclaurinの公式を使って証明することができる。■
複素領域
D上の正則関数列
{fn(z)}n∈ℕが
D上で優級数
をもつとき、無限乗積
は
D上で一様収束し、正則関数となる。さらにこのとき次が成り立つ。
(ⅰ)
| f(z) = 0 ⇔ ∃ n ∈ ℕ:1 + fn(z) = 0
|
|
(ⅱ)
| |
証明
演習とする。■
証明
演習とする。■
証明
演習とする。■
証明
演習とする。■
x > 0, n ∈ ℕについて次が成り立つ。
(ⅰ)
| Γ(x) > 0 |
(ⅱ)
| Γ(x + 1) = xΓ(x) |
(ⅲ)
| Γ(1) = 1 |
(ⅳ)
| Γ(n + 1) = n! |
証明
演習とする。■
証明
演習とする。■
証明
演習とする。■
証明
演習とする。■
(ⅰ)
| |
(ⅱ)
| |
(ⅲ)
| sin πx = πx | ∞ ∏ n = 1 | 1 - | | |
|
| ,
x ∈ ℝ
|
|
証明
演習とする。■
(ⅰ)
| ∞ ∏ n = 1 | 1 - | | |
|
| = | |
|
|
(ⅱ)
| |
証明
演習とする。■
Γ(x) ∼ √2πxx-1/2e-x, (x → ∞)
|
証明
Gaussの公式を使って
logΓ(x)を展開する。
対数部分を展開する。
f(t) ≡ log t - log (t+x-1)にEuler-Maclaurinの公式を適用する。
| | ∫ | n 1
| ( log t - log (t+x-1) )dt |
|
| |
|
| | + | | ( -log x + log n - log (n+x-1) ) |
|
| | |
| | |
右辺1行目は次のようになる。
t log t - (t+x-1) log(t+x-1) | | =
n log n + (n+x-1) log(n+x-1) + x log x
|
3以上の奇数
nでは
Bn = 0であるから、右辺3行目は
と書ける。
C3は定数項をまとめたものである。右辺4行目は、
B5(t-[t])が積分区間で有界であることから
| | | =
C4 + O | |
|
と書ける。ここまでの結果をまとめる。
| | |
| | (x-1)logn+nlogn+(n+x-1)log(n+x-1)+xlogx+ | | (-logx+logn-log(n+x-1))
|
|
| | + | | - | | + C3 + C4 +
O | | +
O | | + O | | |
|
| | - log 1 + | | n
1 + | | x-1/2 +
x - | | log x
|
|
| | + | | - | | + C3 + C4 +
O | | +
O | | + O | | |
|
ここで
n → ∞とし、定数項を
C ≡ 1 + C3 + C4とまとめると
| | - x + x - | | log x +
| | - | | + C |
|
となり、
a ≡ eCとおいて
Γ(x) ∼ axx-1/2e-x, (x → ∞)
|
が成り立つ。
定数
aを求めるためにWallisの公式に
n! = Γ(n+1) = nΓ(n) ∼ nann-1/2e-n
|
2n! = Γ(2n+1) = 2nΓ(2n) ∼ 2na(2n)2n-1/2e-2n
|
を代入する。
したがって、
a = √2πである。■
n! ∼ √2πnnne-n, (n → ∞), n ∈ ℕ
|
証明
n! = Γ(n+1) = nΓ(n)■
Starlingの公式における誤差評価については次が成り立つ。
Γ(x) = √2πxx-1/2e-xeμ(x), x > 0
|
但し、
証明
演習とする。■
√2πnnne-n < n! < √2πnnne-ne1/12n,
n ∈ ℕ
|
[
2] 杉浦 光夫,
解析入門Ⅰ, 東京大学出版会, 1980
数 学
部分積 ぶぶんせき, partial product
無限乗積 むげんじょうせき, infinite product
広義一様収束 こうぎいちようしゅうそく,
uniform convergence in the wider sense
ζ関数 ぜーたかんすう, ζ function
Γ関数 がんまかんすう, Γ function
Β関数 べーたかんすう, Β function
Gaussの公式 がうすのこうしき, Gauss's formula
Weierstrassの公式 わいえるしゅとらすのこうしき, Weierstrass's formula
Eulerの定数 おいらーのていすう, Euler's constant
二重階乗 にじゅうかいじょう, double factorial
Wallisの公式 うぉりすのこうしき, Wallis's formula
Starlingの公式 すたーりんぐのこうしき, Starling's formula