1.3節 Lebesgue積分
著者:梅谷 武
語句:外測度,有限加法族,Jordan測度,完全加法的,Lebesgue-Stieltjes測度,Lebesgue測度,Haar測度
Riemann積分は不連続点が測度0であるような区分的連続関数に対して定義されるが、Lebesgue積分はこれをはるかに拡大したクラスである可測関数に対して定義される。ここではCarathéodoryの方法により、Lebesgue測度を与える。Lebesgue積分とは前節の意味でのLebesgue測度上の積分のことである。
作成:2011-12-21
更新:2012-02-11

定義1.3.1.1 外測度

 集合Ωの全部分集合族上の関数Γが次の性質を満たすとき、外測度がいそくど, outer measureという。
(ⅰ) 0 ≦ Γ(A) ≦ ∞, A ⊂ Ω, Γ(∅) = 0
(ⅱ) A ⊂ B ⇒ Γ(A) ≦ Γ(B), A,B ⊂ Ω
(ⅲ) Γ( ∪n An ) ≦ ∑n Γ( An ), n ∈

定理1.3.1.2 測度の構成

 集合Ωの外測度Γが与えられたとき、
FΓ { E ⊂ Ω | A ⊂ E, B ⊂ Ec ⇒ Γ(A) + Γ(B) = Γ(A ∪ B) }
とおくと、(Ω,FΓ,Γ)は完備な測度空間である。

証明

演習とする。■

定義1.3.1.4 有限加法族

 集合Ωの部分集合族Fが次の性質を満たすとき、有限加法族ゆうげんかほうぞく, finite additive classという。
(ⅰ) ∅, Ω ∈ F
(ⅱ) A ∈ F ⇒ Ac ∈ F
(ⅲ) A, B ∈ F ⇒ A ∪ B ∈ F

定義1.3.1.5 Jordan測度

 集合Ωとその有限加法族Fが与えられたとき、F上の関数m:F → [0,∞]が次の性質を満たすとき、Jordan測度じょるだんそくど, Jordan measureという。
(ⅰ) 0 ≦ m(A) ≦ ∞, A ∈ F, m(∅) = 0
(ⅱ) A, B ∈ F, A ∩ B = ∅ ⇒ m(A ∪ B) = m(A) + m(B)
Jordan測度が完全加法的かんぜんかほうてき, completely additiveであるとは、次を満たすことである。
An ∈ F, n = 1,2,⋯, An ∩ Am = ∅, A =


n = 1
A
n ∈ F ⇒ m(A) =


n = 1
m(An)

定理1.3.1.6 E.Hopf

 Jordan測度空間(Ω,F,m)において、
Γ(A)
 
inf
En
{


n = 1
m(En)
|


n = 1
En
⊃ A, En ∈ F }
Ω上の外測度になる。さらにmが完全加法的ならばF ⊂ FΓであり、F上ではm = Γとなる。

証明

演習とする。■
 この定理により完全加法的なJordan測度は完備な測度に拡張できることがわかった。

命題1.3.1.9

 σ-有限な完全加法的Jordan測度空間(Ω,F,m)において、mσ[F]への測度としての拡張は一意的である。

証明

演習とする。■

命題1.3.1.11

 Jordan測度空間(Ω,F,m)から構成される外測度をΓとすると、Fを含む 任意のσ-加法族F上でΓが測度になれば、 FFΓとなる。

証明

演習とする。■

命題1.3.1.13

 σ-有限な測度空間(Ω,F,μ)から構成される外測度をΓとすると次が成り立つ。
FΓ = F

証明

演習とする。■

命題1.3.2.1

上の有限なBorel測度μが与えられたとき、
φ(x) = lc72
μ((0,x]),
x
0
μ((x,0]),
x
0
とおくと、φ上右連続かつ単調非減少であり、有限区間において次が成り立つ。
μ((a,b]) = φ(b) - φ(a), a, b ∈

証明

演習とする。■

定理1.3.2.3 測度の存在

上右連続かつ単調非減少な関数φが与えられたとき、
λφ((a,b]) = φ(b) - φ(a), a, b ∈
となるBorel測度が一意的に存在する。

証明

概略を記す。(,J1)上のJordan測度m
m((a,b]) φ(b) - φ(a), a, b ∈
により定義する。これが完全加法的であることが証明できる。これにより、(,J1,m)はσ-有限かつ完全加法的なJordan測度空間となる。したがって、E.Hopfの拡張定理により、Borel測度を完備化したものに一意的に拡張することができる。■
 上の命題における測度をLebesgue-Stieltjes測度るべーぐすちるちぇすそくど, Lebesgue-Stieltjes measureという。特にφ(x) = xのとき、Lebesgue測度るべーぐそくど, Lebesgue measureという。Lebesgue-Stieltjes測度という言葉は、原則として(d,Bd)上の完備な測度を意味するが、(d,Bd)に制限したものに対しても使う。
 Lebesgue-Stieltjes測度は直積をとることにより、(d,Bd)上に拡張することができる。Lebesgue測度はdを加法に関する局所コンパクト位相群と考えたときの加法に関する不変測度すなわちHaar測度はーるそくど, Haar measureになっている。

命題1.3.2.7

(d,Bd)上のLebesgue測度μは次を満たす。
a ∈ d, A ∈ Bd ⇒ A + a ∈ Bd, μ(A + a) = μ(A)
逆にこの条件を満たすBorel測度で測った単位体積がLebesgue測度で測ったものと一致すれば、そのBorel測度はLebesgue測度である。

証明

演習とする。■

定理1.3.2.9 非可測集合の存在

上にLebesgue測度に関して非可測な集合が存在する。

証明

演習とする。■

定理1.3.2.11 Riemann積分との関係

 有界閉区間[a,b]上の有界関数がRiemann可積分ならばLebesgue可積分であり、積分値は一致する。

証明

演習とする。■
 関数が有界でないとき、あるいは無限区間のときは、Riemann積分は広義積分として定義されるが、この場合はLebesgue積分と一致するとは限らない。実際、広義積分としてRiemann可積分であり、Lebesgue可積分でない例がある。
数  学
外測度 がいそくど, outer measure
有限加法族 ゆうげんかほうぞく, finite additive class
Jordan測度 じょるだんそくど, Jordan measure
完全加法的 かんぜんかほうてき, completely additive
Lebesgue-Stieltjes測度 るべーぐすちるちぇすそくど, Lebesgue-Stieltjes measure
Lebesgue測度 るべーぐそくど, Lebesgue measure
Haar測度 はーるそくど, Haar measure