1.2節 可測関数と積分
著者:梅谷 武
語句:可測写像,可測関数,定義関数,特性関数,単関数,可積分,ほとんど至る所,σ-有限,直積測度空間
一般の集合上の可測空間における可測関数とその積分について述べる。測度さえあれば、位相構造が無くても積分が定義できることを学ぶ。
作成:2011-12-09
更新:2012-02-11

定義1.2.1.1 可測写像

(Ω,F),(X,G)を可測空間とするとき、写像f:Ω → XF-G可測写像かそくしゃぞう, mesurable mappingであるとは、任意のA ∈ Gに対し
f-1(A) = { ω ∈ Ω | f(ω) ∈ A } ∈ F
が成り立つことである。
 特に値域が(,B1)あるいは(,B())である可測写像をF-可測関数かそくかんすう, mesurable functionという。

補題1.2.1.3 可測関数の条件

 可測空間(Ω,F)上の値関数fF-可測であるための必要十分条件は、任意のa ∈ に対して、f-1([-∞,a]), f-1([-∞,a)), f-1([a,∞]), f-1((a,∞]))のいずれかがFに含まれることである。

証明

演習とする。■

命題1.2.1.5 可測関数の合成

 可測空間(Ω,F)上のF-可測関数g1,⋯,gd(d,Bd)上のBd-可測関数fに対して、その合成関数
F(ω) = f(g1(ω),⋯,gd(ω))
F-可測である。

証明

演習とする。■

命題1.2.1.7 可測関数の構成(Ⅰ)

 可測空間(Ω,F)上のF-可測関数f,gに対して、
af+bg, fg, |f|, max(f,g), min(f,g), a,b ∈
F-可測である。

証明

演習とする。■

命題1.2.1.9 可測関数の構成(Ⅱ)

 可測空間(Ω,F)上のF-可測関数fに対して、
f(ω) max( f(ω), 0 ), f(ω) max(-f(ω), 0 ), ω ∈ Ω
F-可測である。

証明

演習とする。■

命題1.2.1.11 可測関数の構成(Ⅲ)

 可測空間(Ω,F)上のF-可測関数列{ fn }n ∈ に対して、
 
sup
n ∈
fn
,
 
inf
n ∈
fn
,
 
limsup
n ∈
fn
,
 
liminf
n ∈
fn
,


n = 1
fn
F-可測である。

証明

演習とする。■

定義1.2.2.1 定義関数

 可測空間(Ω,F)が与えられたとき、任意のA ∈ Ωに対し、
1A lc72
1,
ω
A
0,
ω
A
を部分集合A定義関数ていぎかんすう, defineing functionまたは特性関数とくせいかんすう, characteristic functionという。

定義1.2.2.2 単関数

 可測空間(Ω,F)上の実数値関数f単関数たんかんすう, simple functionであるとは、Ωの有限分割
Ω =
n

k = 1
Ak
, AkF, Ak ∩ Al = ∅, k,l = 1,⋯,n
と定数a1, ⋯, anにより、次のように表現できることである。
f(ω) =
n

k = 1
ak 1Ak(ω)
, ω ∈ Ω
 単関数の表現は一意ではない。

補題1.2.2.4

 可測空間(Ω,F)上の単関数はF-可測である。

証明

演習とする。■

定理1.2.2.6 非負可測関数の特徴付け

 可測空間(Ω,F)上の非負値関数fF-可測であるための必要十分条件は、単調増加非負単関数列n}n∈, 0≦φ1≦⋯≦φn≦⋯が存在して、
f(ω) =
 
lim
n→∞
φn(ω)
, ω ∈ Ω
となることである。但し、極限はとなる場合を含む。

証明

演習とする。■
 非負可測関数に収束する単関数列を近似単関数列と呼ぶことにする。一般の可測関数fは非負値関数の差
f = f - f
と分解できるため、上の定理は次のように拡張することができる。

定理1.2.2.9 可測関数の特徴付け

 可測空間(Ω,F)上の値関数fF-可測であるための必要十分条件は、近似単関数列n}n∈が存在して、
f(ω) =
 
lim
n→∞
φn(ω)
, ω ∈ Ω
となることである。但し、極限は±∞となる場合を含む。

証明

演習とする。■

定義1.2.3.1 非負単関数の積分

 測度空間(Ω,F,μ)上の非負単関数
φ(ω) =
n

k = 1
ak 1Ak(ω)
, ak ≧ 0, Ak ∈ Ω
に対して、その可測集合A ∈ F上の積分を次のように定義する。
 
 
A
φ(ω)μ(dω)
n

k = 1
ak μ(A ∩ Ak)

補題1.2.3.2

 上の積分の定義は単関数の表現によらず一意的に定まる。

証明

演習とする。■

命題1.2.3.4 非負単関数の積分の性質

 測度空間(Ω,F,μ)上の非負単関数φ, ψについて、次が成り立つ。a, b ≧ 0, A,B ∈ F, A ∩ B = ∅とする。
(ⅰ)
φ ≦ ψ ⇒
 
 
Ω
φ(ω)μ(dω)
 
 
Ω
ψ(ω)μ(dω)
(ⅱ)
 
 
Ω
(aφ(ω)+bψ(ω))μ(dω)
= a
 
 
Ω
φ(ω)μ(dω)
+ b
 
 
Ω
ψ(ω)μ(dω)
(ⅲ)
 
 
A∪B
φ(ω)μ(dω)
=
 
 
A
φ(ω)μ(dω)
+
 
 
B
φ(ω)μ(dω)

証明

演習とする。■

補題1.2.3.6

 測度空間(Ω,F,μ)上の単調増加非負単関数列n}, {ψn}が同じ極限を持つ、すなわち、
 
lim
n→∞
φn(ω)
=
 
lim
n→∞
ψn(ω)
, ω ∈ Ω
ならば
 
lim
n→∞
 
 
Ω
φn(ω)μ(dω)
=
 
lim
n→∞
 
 
Ω
ψn(ω)μ(dω)

証明

演習とする。■
 この補題により、非負可測関数の積分を定義することができる。

定義1.2.3.9 非負可測関数の積分

 測度空間(Ω,F,μ)上の非負F-可測関数fに対して、それを近似する単調増加非負単関数列n}により、その可測集合A ∈ F上の積分を次のように定義する。
 
 
A
f(ω)μ(dω)
 
lim
n→∞
 
 
A
φn(ω)μ(dω)

定義1.2.3.10 可積分関数の積分

 測度空間(Ω,F,μ)上のF-可測関数fΩ可積分かせきぶん, integrableであるとは、
 
 
Ω
|f(ω)|μ(dω)
< ∞
となることである。このとき、f = f - fと非負可測関数の差に分解すると、それぞれ可積分で積分は有限値となる。そこで可積分関数fの可測集合A ∈ F上の積分を次のように定義する。
 
 
A
f(ω)μ(dω)
 
 
A
f(ω)μ(dω)
 
 
A
f(ω)μ(dω)

命題1.2.3.11 積分の性質

 測度空間(Ω,F,μ)上の可積分関数f,gについて、af+bgも可積分で次が成り立つ。a, b ∈ , A,B ∈ F, A ∩ B = ∅とする。
(ⅰ)
 
 
Ω
(af(ω)+bg(ω))μ(dω)
= a
 
 
Ω
f(ω)μ(dω)
+ b
 
 
Ω
g(ω)μ(dω)
(ⅱ)
 
 
A∪B
f(ω)μ(dω)
=
 
 
A
f(ω)μ(dω)
+
 
 
B
f(ω)μ(dω)

証明

演習とする。■

定義1.2.3.13 複素関数の積分

 測度空間(Ω,F,μ)上の複素数値関数fF-可測とは、その実部、虚部がF-可測であることをいう。|f|Ω上可積分であるとき、可測集合A ∈ F上の積分を次のように定義する。
 
 
A
f(ω)μ(dω)
 
 
A
Re f(ω)μ(dω)
+ i
 
 
A
Im f(ω)μ(dω)

命題1.2.3.14

 測度空間(Ω,F,μ)上の複素数値可積分関数fについて、次が成り立つ。
 
 
Ω
f(ω)μ(dω)
 
 
Ω
|f(ω)|μ(dω)

証明

演習とする。■

定理1.2.4.1 級数

 測度空間(Ω,F,μ)上の非負可測関数列{fn}について、次が成り立つ。
f(ω) =


n=1
fn(ω)
, ω ∈ Ω ⇒
 
 
Ω
f(ω)μ(dω)
=


n = 1
 
 
Ω
fn(ω)μ(dω)

証明

演習とする。■

定理1.2.4.3 単調増加列

 測度空間(Ω,F,μ)上の単調増加非負可測関数列{fn}について、次が成り立つ。
 
 
Ω
 
lim
n→∞
f
n(ω)μ(dω)
=
 
lim
n→∞
 
 
Ω
fn(ω)μ(dω)

証明

演習とする。■

命題1.2.4.5 集合列

 測度空間(Ω,F,μ)上の可積分関数fと可測集合列{An}, A = ∪n Anについて、次が成り立つ。
(ⅰ)
 
 
A
f(ω)μ(dω)
=


n = 1
 
 
An
f(ω)μ(dω)
, Ak ∩ Al = ∅, k ≠ l
(ⅱ)
 
lim
n→∞
 
 
An
f(ω)μ(dω)
=
 
 
A
f(ω)μ(dω)
, A1 ⊂ ⋯ ⊂ An ⊂ ⋯

証明

演習とする。■

定理1.2.4.7 Fatou

 測度空間(Ω,F,μ)上の非負可測関数列{fn}について、次が成り立つ。
 
 
Ω
 
liminf
n→∞
fn(ω)
μ(dω)
 
liminf
n→∞
 
 
Ω
fn(ω)μ(dω)

証明

演習とする。■

定理1.2.4.9 Lebesgue

 測度空間(Ω,F,μ)上の可測関数列{fn}が、非負可積分関数gにより、
|fn(ω)| ≦ g(ω), ω ∈ Ω
と値が抑えられており、かつその極限
f(ω) =
 
lim
n→∞
fn(ω)
, ω ∈ Ω
が存在するならば、次が成り立つ。
 
 
Ω
f(ω)μ(dω)
=
 
lim
n→∞
 
 
Ω
fn(ω)μ(dω)

証明

演習とする。■

定義1.2.4.11 ほとんど至る所

 測度空間(Ω,F,μ)上のある性質が測度0の集合を除いた集合上で成立するとき、ほとんど至る所ほとんどいたるところ, almost everywhere, a.e.成立するという。
 積分の収束定理は、収束をほとんど至る所収束と置き換えても成り立つ。
 可測空間1,F1),⋯,(Ωd,Fd)が与えられたとき、σ-加法族の直積を
F1×⋯×Fd σ[ { A1×⋯×Ad | AkFk, k=1,⋯,d } ]
と定義することにより、可測空間の直積1×⋯×Ωd, F1×⋯×Fd)を定義する。

補題1.2.5.2

Bd = B1 × ⋯ × B1 (d個)

証明

演習とする。■

定義1.2.5.4 σ-有限

 測度空間(Ω,F,μ)σ-有限しぐまゆうげん, σ-finiteとは、次のような部分集合列{Ak}k ∈ , AkFが存在することである。
μ(Ak) < ∞, A1 ⊂ A2 ⊂ ⋯ Ak ⊂ ⋯, Ω =


k = 1
Ak

定理1.2.5.5

 σ-有限な測度空間1,F11),⋯,(Ωn,Fdd)が与えられたとき、σ-加法族の直積F1×⋯×Fd上の測度で
μ1×⋯×μd(A1×⋯×Ad) = μ1(A1)⋯μd(Ad), AkFk
となるものが一意的に存在する。

証明

演習とする。■
1×⋯×Ωd,F1×⋯×Fd1×⋯×μd)直積測度空間ちょくせきそくどくうかん, product measure spaceという。

補題1.2.5.8

 直積測度空間1×⋯×Ωd,F1×⋯×Fd1×⋯×μd)において、F1×⋯×Fd-可測関数は、その第k成分以外を固定したときFk-可測である。

証明

演習とする。■
 上の補題の逆は成り立たない。すなわち、各成分について可測であっても、直積測度で可測とは限らない。
 非負可測関数に対するFubiniの定理をd = 2の場合に述べる。

定理1.2.5.12 Fubini(非負)

 σ-有限な測度空間k,Fkk), k=1,2の直積空間1 × Ω2,F1 × F21 × μ2)上の非負F1×F2-可測関数fについて、次が成り立つ。
(ⅰ)
 
 
Ω1
f(ω121(dω1)
は非負F2-可測
(ⅱ)
 
 
Ω1×Ω2
f(ω12)(μ1×μ2)(dω12)
=
 
 
Ω2
lb48
 
 
Ω1
f(ω121(dω1)
rb48μ2(dω2)

証明

演習とする。■

定理1.2.5.14 Fubini(可積分)

 σ-有限な測度空間k,Fkk), k=1,2の直積空間1 × Ω2,F1 × F21 × μ2)上の複素μ1×μ2-可積分関数fについて、次が成り立つ。
(ⅰ)
 
 
Ω1
f(ω121(dω1)
はμ2-可積分
(ⅱ)
 
 
Ω1×Ω2
f(ω12)(μ1×μ2)(dω12)
=
 
 
Ω2
lb48
 
 
Ω1
f(ω121(dω1)
rb48μ2(dω2)

証明

演習とする。■
 一般にF1 × F2F1 × F2であり、完備化した直積空間においては次が成り立つ。

補題1.2.5.17

 完備化直積測度空間1×⋯×Ωd,F1×⋯×Fd,μ1×⋯×μd)において、F1×⋯×Fd-可測関数は、その第k成分以外を固定したときFk-可測である。

証明

演習とする。■

定理1.2.5.19 Lebesgue-Fubini

 σ-有限な測度空間k,Fkk), k=1,2の完備化直積空間1 × Ω2,F1 × F2,μ1 × μ2)上の複素μ1 × μ2-可積分関数fについて、次が成り立つ。
(ⅰ)
 
 
Ω1
f(ω121(dω1)
はμ2-可積分
(ⅱ)
 
 
Ω1×Ω2
f(ω12)(μ1×μ2)(dω12)
=
 
 
Ω2
lb48
 
 
Ω1
f(ω121(dω1)
rb48μ2(dω2)

証明

演習とする。■
数  学
可測写像 かそくしゃぞう, mesurable mapping
可測関数 かそくかんすう, mesurable function
定義関数 ていぎかんすう, defineing function
特性関数 とくせいかんすう, characteristic function
単関数 たんかんすう, simple function
可積分 かせきぶん, integrable
ほとんど至る所 ほとんどいたるところ, almost everywhere, a.e.
σ-有限 しぐまゆうげん, σ-finite
直積測度空間 ちょくせきそくどくうかん, product measure space