1.4節 Lebesgue空間
著者:梅谷 武
語句:半ノルム,ノルム,ノルム空間,Banach空間,線形作用素,双対空間,線形汎関数,強収束,弱収束,Banach環,内積,内積空間,直交,Hilbert空間,正規直交系,完全正規直交系,可分,Lp空間,本質的に有界,概収束,測度収束,Lp収束,p次平均収束,完全加法的集合関数,上変動,下変動,絶対連続,特異
関数解析の基礎概念を整理し、可測関数の収束性とRadon-Nikodymの定理について述べる。
作成:2011-12-23
更新:2012-02-11

定義1.4.1.1 ノルム

K = またはとする。K上の線形空間V上の関数
  
:V longrightarrow ,  f longmapsto
f
半ノルムはんのるむ, seminormであるとは、次の性質を満たすことである。
(ⅰ) f0
(ⅱ) λ f = λ f,  λ ∈ K,  f ∈ V
(ⅲ) f + gf + g,  f,g ∈ V
さらに次の性質を満たすとき、 ノルムのるむ, normという。
(ⅳ) f = 0 ⇔ f = 0, f ∈ V
 ノルムが定義された線形空間をノルム空間のるむくうかん, normed spaceという。ノルム空間において
ρ(f,g)
f - g
は距離になる。ノルム空間にはこの距離により距離空間としての位相を入れる。
 慣習として関数解析においては、線形写像を線形作用素せんけいさようそ, linear operatorと呼ぶ。

命題1.4.1.5

 ノルム空間(V,   V),(W,   W)が与えられているとき、線形作用素T:V → Wについて次は同値である。
(ⅰ) Tは連続である。
(ⅱ) TfW ≦ C fV, ∃ C > 0, f ∈ V

証明

演習とする。■
 (ⅱ)の条件を満たす線形作用素を有界であるという。B(V,W)で有界線形作用素全体を表わす。
T
 
sup
fV = 1
Tf
W
B(V,W)上のノルムとなる。

命題1.4.1.8

WがBanach空間ならばB(V,W)はBanach空間である。

証明

演習とする。■
V' B(V,K)V双対空間そうついくうかん, dual spacel、その元を線形汎関数せんけいはんかんすう, linear functionalという。Vの点列{fn}n ∈ Vのノルムにより収束するとき、
fn - f
V → 0 (n → ∞)
強収束きょうしゅうそく, strongly convergeするという。
Tfn - Tf
→ 0 (n → ∞), ∀ T ∈ V'
が成り立つとき、弱収束じゃくしゅうそく, weakly convergeするという。

定義1.4.1.11 Banach環

 Banach空間上に積が定義され、それにより多元環になっており
fg
f
g
が成り立つとき、Banach環ばなっはかん, Banach ringという。

定義1.4.2.1 内積

 複素線形空間H内積ないせき, inner productとは写像
〈  ,  〉:H × H longrightarrow
で次を満たすもののことである。
(ⅰ) 〈 f, f 〉 ≧ 0, f ∈ Hかつ〈 f, f 〉 = 0  ⇔ f = 0
(ⅱ) 〈 f, g 〉 = 〈 g, f 〉, f,g ∈ H
(ⅲ) 〈 af + bg, h 〉 = a〈 f, h 〉 + b〈 g, h 〉, a,b ∈ , f,g ∈ H
 内積が定義された複素線形空間を内積空間ないせきくうかん, inner product spaceという。内積空間の零でない二元f,g直交ちょっこう, orthogonalするとは、内積が零となること、すなわち、
〈 f, g 〉 = 0
となることである。

命題1.4.2.3

 内積空間Hにおいて、
f
〈 f, f 〉, f ∈ H
はノルムになる。

証明

演習とする。■

命題1.4.2.5

 内積空間Hにおいて次が成り立つ。f,g ∈ H
(ⅰ) (Schwarzの不等式)
〈 f, g 〉
f
g
(ⅱ) (中線定理)
f + g
2 +
f - g
2 = 2 (
f
2 +
g
2 )
(ⅲ) (分極公式)
〈 f, g 〉 =
1
4
(
f + g
2
f - g
2 ) -
1
4i
(
f + ig
2
f - ig
2 )

証明

演習とする。■

定義1.4.2.8 正規直交系

 Hilbert空間Hの点列{ei}i ∈ が次の条件を満たすとき正規直交系せいきちょっこうけい, orthonormal systemという。
(ⅰ) ei = 1, i ∈
(ⅱ) 〈 ei, ej 〉 = 0, i ≠ j, i,j ∈
さらに次の条件を満たすとき完全正規直交系せいきちょっこうけい, complete orthonormal systemという。
(ⅲ) ∀ f ∈ H:
f -
N

j = 1
〈 f, ej 〉 ej
→ 0 (N → ∞)

命題1.4.2.9

 Hilbert空間Hの正規直交系{ei}i ∈ について次が成り立つ。f ∈ H
(ⅰ) (Besselの不等式)


j = 1
〈 f, ej
2
≦  
f
2
さらに{ei}が完全であれば次が成り立つ。
(ⅱ) (Parsevalの等式)


j = 1
〈 f, ej
2
=  
f
2

証明

演習とする。■
 一般に位相空間が可分かぶん, separableであるとは、稠密な可算部分集合が存在することである。

定理1.4.2.12

 可分なHilbert空間には完全正規直交系が存在する。

証明

演習とする。■

定理1.4.2.14 Reisz

HをHilbert空間、H'をその双対空間とする。任意のT ∈ H'に対して、gT ∈ Hが一意的に存在して次が成り立つ。
Tf = 〈 f, gT 〉, f ∈ H
さらにこのとき、TH' = gTHであり、
H' → H, T longmapsto gT
は共役線形で等長な全単射である。

証明

演習とする。■
 測度空間(Ω,F,μ)が与えられたとき、p ≧ 1に対し、
f
p lb48
 
 
Ω
f(ω)
p μ(dω)
rb48
1
p
< ∞
なる複素数値F-可測関数全体の集合をLp(Ω,F,μ)で表し、Lp空間えるぴーくうかん, Lp spaceという。Lp空間において、ほとんど至る所等しいという同値関係による同値類全体の集合も同じ記号で表わす。以後、慣例に従って関数と同値類を文脈により暗黙裡に使い分けることにする。

命題1.4.3.2 Hölderの不等式

p,p' > 1, 1/p + 1/p' = 1, f ∈ Lp, g ∈ Lp'ならばfg ∈ L1であり、
fg
1
f
p
g
p'

証明

演習とする。■

定理1.4.3.4

LpはBanach空間である。

証明

演習とする。■
L2(Ω,F,μ)において、f,g ∈ L2に対し、
〈 f, g 〉
 
 
Ω
f(ω)g(ω) μ(dω)
は内積であり、L2ノルムを生成する。

定理1.4.3.7

L2はHilbert空間である。

証明

演習とする。■
 複素数値F-可測関数f本質的に有界ほんしつてきにゆうかい, essentially boundedとは、その絶対値がある定数により上から押さえられること、すなわち
∃ α > 0 :  
f(ω)
≦ α a.e.
となることである。
f
 
inf
α
{ α∈ |
f(ω)
≦ α }
なる複素数値F-可測関数全体の集合をL(Ω,F,μ)で表わす。

定理1.4.3.10

LはBanach空間である。

証明

演習とする。■

定理1.4.3.12

 有限な測度空間(Ω,F,μ)において、1≦p<q<∞ならばLq ⊂ Lpであり、f ∈ ∩Lpに対し次が成り立つ。
 
lim
p → ∞
f
p
=
f
但し、f ∈ Lとは限らない。

証明

演習とする。■

定理1.4.3.14 Riesz

 σ-有限な測度空間(Ω,F,μ)において、1≦p<∞, 1/p+1/p'=1とするとき、任意のT ∈ Lp(Ω)'に対して、gT ∈ Lp'(Ω)が一意的に存在して次が成り立つ。
Tf =
 
 
Ω
f(ω)gT(ω) μ(dω)
, f ∈ Lp(Ω)
さらにこのとき、TLp(Ω)' = gLp'(Ω)であり、
Lp(Ω)' → Lp'(Ω), T longmapsto gT
は等長な線形同型写像である。

証明

演習とする。■
 測度空間(Ω,F,μ)上のF-可測関数の収束概念について考える。

定義1.4.4.2 概収束

F-可測関数列{fn}F-可測関数fにほとんど至る所で各点収束するとき、すなわち
 
lim
n → ∞
fn(ω) - f(ω)
= 0 a.e.
が成り立つとき、概収束がいしゅうそく, almost everywhere convergentするという。

定義1.4.4.3 測度収束

F-可測関数列{fn}F-可測関数f測度収束そくどしゅうそく, convergent in measureするとは、任意のε>0に対し、
 
lim
n → ∞
μ( {ω ∈ Ω|fn(ω) - f(ω)>ε} )
= 0
が成り立つことをいう。

定義1.4.4.4 Lp収束

Lp空間において関数列{fn}が関数fLp収束えるぴーしゅうそく, convergent in Lpあるいはp次平均収束ぴーじへいきんしゅうそく, convergent in the mean of order pするとは、Lpノルムにより収束すること、すなわち
 
lim
n → ∞
fn - f
p
= 0
が成り立つことをいう。

命題1.4.4.5

 有限な測度空間(Ω,F,μ)上のF-可測関数列の収束について次が成り立つ。
(ⅰ) 概収束 測度収束
(ⅱ) 測度収束 ある部分列が概収束
(ⅲ) Lp収束 測度収束

証明

演習とする。■
 測度は非負完全加法的集合関数であったが、ここでは非負性を仮定しない完全加法的集合関数について考える。

定義1.4.5.2 完全加法的集合関数

 可測空間(Ω,F)上の 完全加法的集合関数かんぜんかほうてきしゅうごうかんすう, completely additive set functionとは、次の性質を満たすF上の関数Φ:Fのことである。
(m.2) AnF, n = 1,2,⋯, An ∩ Am = ∅ (n ≠ m) ⇒ Φ( ∪n An ) = ∑n Φ( An )

命題1.4.5.3

 可測空間(Ω,F)上の完全加法的集合関数Φには次の性質がある。A,B ∈ F, AnF, n = 1,2,⋯
(m.4) Φ(∅) = 0
(m.5) A ⊂ B ⇒ Φ(A) ≦ Φ(B)
(m.6) Φ(A ∪ B) = Φ(A) + Φ(B) - Φ(A ∩ B)
(m.7) Φ( ∪n An ) ≦ ∑n Φ( An )
(m.8) A1 ⊂ A2 ⊂ ⋯ ⊂ An ⊂ ⋯ ⇒ Φ( ∪n An ) = limn→∞ Φ( An )
(m.9) A1 ⊃ A2 ⊃ ⋯ ⊃ An ⊃ ⋯ ⇒ Φ( ∩nAn ) = limn→∞ Φ( An )

証明

演習とする。■

命題1.4.5.5 Jordan分解

 可測空間(Ω,F)上の完全加法的集合関数Φについて
Φ(A)
 
sup
 
{Φ(E)|E ⊂ A, E ∈ F}
, Φ(A)
 
inf
 
{Φ(E)| E ⊂ A, E ∈ F}
により上変動うえへんどう, upper variation下変動したへんどう, lower variationを定義すると、それらはF上の測度であり、Φ = Φ-Φとなる。

証明

演習とする。■

定義1.4.5.7 絶対連続

 測度空間(Ω,F,μ)上の完全加法的集合関数Φμに対して絶対連続ぜったいれんぞく, absolutely continuousであるとは、μ(E) = 0, E ∈ FならばΦ(E) = 0が成り立つことである。Φμに対して特異とくい, singularであるとは、N ∈ Fが存在し、μ(N) = 0, E ⊂ Nc, E ∈ FならばΦ(E) = 0が成り立つことである。

定理1.4.5.8 Radon-Nikodym

 σ-有限な測度空間(Ω,F,μ)上の完全加法的集合関数Φ
Φ = Φ1 + Φ2, Φ1:絶対連続, Φ2:特異
と一意的に分解され、Φ1は次のように表現される。
Φ1(E) =
 
 
E
g(ω) μ(dω)
, ∃ g ∈ L1(Ω,μ)

証明

演習とする。■
数  学
半ノルム はんのるむ, seminorm
ノルム のるむ, norm
ノルム空間 のるむくうかん, normed space
Banach空間 ばなっはくうかん, Banach space
線形作用素 せんけいさようそ, linear operator
双対空間 そうついくうかん, dual spacel
線形汎関数 せんけいはんかんすう, linear functional
強収束 きょうしゅうそく, strongly converge
弱収束 じゃくしゅうそく, weakly converge
Banach環 ばなっはかん, Banach ring
内積 ないせき, inner product
内積空間 ないせきくうかん, inner product space
直交 ちょっこう, orthogonal
Hilbert空間 ひるべるとくうかん, Hilbert space
正規直交系 せいきちょっこうけい, orthonormal system
完全正規直交系 せいきちょっこうけい, complete orthonormal system
可分 かぶん, separable
Lp空間 えるぴーくうかん, Lp space
本質的に有界 ほんしつてきにゆうかい, essentially bounded
概収束 がいしゅうそく, almost everywhere convergent
測度収束 そくどしゅうそく, convergent in measure
Lp収束 えるぴーしゅうそく, convergent in Lp
p次平均収束 ぴーじへいきんしゅうそく, convergent in the mean of order p
完全加法的集合関数 かんぜんかほうてきしゅうごうかんすう, completely additive set function
上変動 うえへんどう, upper variation
下変動 したへんどう, lower variation
絶対連続 ぜったいれんぞく, absolutely continuous
特異 とくい, singular