関・ベルヌーイの冪和公式
著者:梅谷 武
語句:ファウルハーバー,ヤコビ,関孝和,ヤコブ・ベルヌーイ,推測法,冪和,ベルヌーイ数
関・ベルヌーイの冪和公式について述べる。
作成:2006-05-25
更新:2021-03-17
 一般に自然数kに対して自然数列のk次の冪和べきわ, sum of powers
(4.1)
Pk(n) =
n

i=1
ik
によって定義されます。k=0のときは単位数の和です。
P0(n) =
n

i=1
i0
= 1+1+1+⋯+1 (n個の和) = n
k=1のときは自然数の和です。
P1(n) =
n

i=1
i1
= 1 + 2 + 3 + ⋯ + n =
n(n+1)
2
k=2のときは平方数の和です。
P2(n) =
n

i=1
i2
= 12 + 22 + 32 + ⋯ + n2 =
n(n+1)(2n+1)
6
k=3のときは立方数の和です。
P3(n) =
n

i=1
i3
= 13 + 23 + 33 + ⋯ + n3 =
n2(n+1)2
4
 第1章において平方数や立方数の和の公式を比較的簡単な方法で得ることができましたが、任意に与えられた自然数kに対してk次の冪和公式を求めることはかなりやっかいな問題です。
 この一般公式を求めようとした最初の仕事は1631年にファウルハーバーFaulhaber, Johann, 1580-1635が出版した『Academia Algebrae』に見ることができます。これはPk(n)kが奇数のときにはP1(n)の多項式で書け、kが偶数のときにはP1(n)の多項式とP2(n)の積で書けるというものです。これは後にヤコビJacobi, Carl Gustav Jacob, 1804-1851が再発見して、厳密な証明を与えています。
 パスカルは1665年に出版された『算術三角形論』においてk次の冪和をk-1次以下の冪和を使って計算する公式を与えています。
 冪和の一般公式がベルヌーイ数べるぬーいすう, Bernoulli numberと呼ばれている数を使ってnの多項式として明示的に書き下されたのは1712年の関孝和Seki, Takakazu, 1642?-1708の遺稿集『括要算法』においてでした。これは関孝和の遺稿を、荒木村英とその弟子である大高由昌がまとめて出版したものですが、建部賢弘・賢明兄弟がまとめた『大成算經』にも同じ内容が含まれています。
 その翌年にまったく同じ公式がヤコブ・ベルヌーイBernoulli, Jacob, 1654-1705の遺稿集『推測法Ars Conjectandi』において発表されています。これはヤコブ・ベルヌーイの遺稿を甥のニコラウスがまとめて出版したものです。

パスカルの冪和公式

 パスカルは自然数列の冪和の概念を等差数列にまで拡張して考えました。自然数kに対して初項a、公差dの等差数列(ai)i=1,2,3,⋯k次の冪和を、
(4.2)
Pk(n,a,d) =
n

i=1
aik
=
n

i=1
(a + (i-1)d)k
と定義します。自然数列は初項1、公差1の等差数列ですからPk(n)=Pk(n,1,1)となります。
 まず、ai+1k+1 - aik+1 = (ai + d)k+1 - aik+1を二項定理を使って展開します。
ai+1k+1 - aik+1 =
k

j=0
(k+1
j
)
dk+1-jaij
これをi=1からnまで加えます。
               
an+1k+1 - a1k+1
=
k

j=0
(k+1
j
)
dk+1-jPj(n,a,d)
=
(k+1
k
)
dPk(n,a,d) +
k-1

j=0
(k+1
j
)
dk+1-jPj(n,a,d)
これより次の公式が得られます。

命題4.3.9 パスカルの冪和公式

 正の整数kに対して初項a、公差dの等差数列のk次の冪和は次のように表すことができる。
          
Pk(n,a,d)
=
1
(k+1)d
lc36
(a+nd)k+1 - ak+1 - 
k-1

j=0
(k+1
j
)
dk+1-jPj(n,a,d)
rc36
特にa=d=1の場合、
(4.3)
Pk(n) =
1
k+1
lc36
(n+1)k+1 - 1 - 
k-1

j=0
(k+1
j
)
Pj(n)
rc36

関・ベルヌーイの冪和公式

 パスカルの冪和公式により、Pk(n)nに関するk+1次の多項式で、最高次の項は
1
k+1
nk+1
となっていることがわかります。しかし、これを展開して実際にnの多項式として書き下すのはかなり大変です。ここではこれを微分することによって、各係数を求めて関・ベルヌーイの冪和公式を導きます。
 有理数体上のn次多項式
f(X) =
n

i=0
aiXi
が与えられたときに、a0 = f(0)です。さらにこの多項式を微分して0を代入する操作を続けることによって、
      a1
=
f'(0)
a2
=
f''(0)
2
a3
=
f'''(0)
3 ⋅ 2
ai
=
f(i)(0)
i!
an
=
f(n)(0)
n!
というようにすべての係数を微分の形で表わすことができます。このことを補題としてまとめておきます。

補題4.3.12

 有理数体上のn次多項式f(X)は次のように表すことができる。
(4.4)
f(X) =
n

i=0
f(i)(0)
i!
Xi
 正の整数kについて
Pk(X) =
k+1

i=0
ai(k)Xi
として、その係数を微分によって求めていきましょう。冪和の定義により、a0(k)=0です。また、任意の正の整数nについて Pk(n + 1) - Pk(n) = (n+1)kが成り立つので、系3.6.59より両辺はnの多項式として等しいことがわかります。これを
Pk(X + 1) - Pk(X) = (X+1)k
と書くことにしましょう。まず、両辺を微分します。
Pk'(X + 1) - Pk'(X) = k(X+1)k-1
これにX = 0,1,2,⋯,n-1を代入して加えます。
Pk'(n) - Pk'(0) = k
n

i=1
ik-1
= k Pk-1(n)
この式は任意の自然数nについて成り立つので、多項式として
Pk'(X) = k Pk-1(X) + a1(k)
となります。これを微分していくことで、k+1 ≧ i ≧ 2なるiについて
Pk(i)(X) = k(k-1)⋯(k-i+2) Pk-i+1'(X)
が得られます。これに0を代入すると
Pk(i)(0) = k(k-1)⋯(k-i+2) a1(k-i+1)
となり、これを
Pk(X) =
k+1

i=0
Pk(i)(0)
i!
Xi
に代入し、さらにPk(0)=0, Pj'(0)=a1(j)を使うと
          Pk(X)
=
k+1

i=1
1
k+1
(k+1
i
)
a1(k-i+1)Xi
=
k

j=0
1
k+1
(k+1
k+1-j
)
a1(j)Xk+1-j
=
k

j=0
1
k+1
(k+1
j
)
a1(j)Xk+1-j
=
k

j=0
1
k+1-j
(k
j
)
a1(j)Xk+1-j
となり、Pk(X)のすべての係数はPj(X), j=0,⋯,kの一次の係数a1(j)によって定まることがわかります。
(4.5)
Bj = Pj'(0),  j∈ℕ
によってベルヌーイ数べるぬーいすう, Bernoulli numberを定義します。上の多項式にX=1を代入することでベルヌーイ数が満たすべき漸化式が得られます。
(4.6)
k

j=0
(k+1
j
)
Bj
= k + 1
 ここまでの議論によって関・ベルヌーイの冪和公式が得られました。

命題4.3.15 関・ベルヌーイの冪和公式

 自然数列のk次の冪和はベルヌーイ数を使って次のように表すことができる。
(4.7)
          Pk(n)
=
1
k+1
k

j=0
(k+1
j
)
Bjnk+1-j
=
k

j=0
(k
j
)
Bj
nk+1-j
k+1-j
[1] D.Knuth, Johann Faulhaber and sum of powers, Math. Comp., vol.61, no.203, 277-294, 1993
[2] 荒川恒男, 金子昌信, 伊吹山知義, ベルヌーイ数とゼータ関数, 牧野書店, 2001
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[3] 関 孝和(平山諦・下平和夫・広瀬秀雄編), 関孝和全集, 大阪教育図書, 1997
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[4] 加藤 平左エ門, 算聖関孝和の業績―解説, 槇書店, 1972
[5] 沈 康身(王青翔訳), 関孝和,李善蘭と自然数累乗の和に関する公式, 数学史研究, vol.115, 21-36, 1987
[6] 安島 直円(平山諦・松岡元久編), 安島直円全集, 富士短期大学出版部, 1966
[7] 梅谷 武, ベルヌーイ数の物語, 算円舎, 2013
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人  物
ファウルハーバー Faulhaber, Johann, 1580-1635
ドイツの数学者。
ヤコビ Jacobi, Carl Gustav Jacob, 1804-1851
ドイツの数学者。
関孝和 Seki, Takakazu, 1642?-1708
和算の創始者。
ヤコブ・ベルヌーイ Bernoulli, Jacob, 1654-1705
スイスの数学者。ベルヌーイ家が輩出した数学者8名のうちの最年長者。
 
物  品
推測法 Ars Conjectandi
 
数  学
冪和 べきわ, sum of powers
関孝和は中国数学の用語である方垜を使用していたが、安島直円の「冪和開方無有奇生数術」(1791年)等に冪和という用語が使われている。
ベルヌーイ数 べるぬーいすう, Bernoulli number
ベルヌーイ数という命名は、ド・モアブル(de Moivre, 1667-1754 フランスの数学者)による。
ベルヌーイ数 べるぬーいすう, Bernoulli number
日本では関・ベルヌーイ数と呼ばれることがある。
 
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