微分と代数方程式
著者:梅谷 武
語句:導関数,微分する,微分作用素,微分,二階導関数,n階導関数,有理関数体,形式的ローラン級数,代数方程式,根,解,零点,連立代数方程式,重複度,k重根,k位の零点,単根,重根,ルジャンドルの多項式
微分と代数方程式について述べる。
作成:2006-05-21
更新:2013-06-17
 この節では可換環や整域・体上の多項式や形式的冪級数の微分を定義してその性質を調べます。本書では実数については触れませんが、実係数多項式を実関数と考えたときに極限の概念を使って定義される微分と、本節の代数的な性質だけで定義される微分とは代数的な議論をしている限りにおいてまったく同等です。歴史的に見れば形式的冪級数の収束性が議論されるようになって近代の解析学が誕生したという経緯もあり、多項式や形式的冪級数の微分を学ぶことは、代数計算の道具を準備するだけではなく、解析学を学ぶ準備という意味もあります。

多項式の微分

 可換環R上の一変数多項式f(X) = a0 + a1X + a2X2 + ⋯ + anXnRの任意の元αについて、Xαに置き換えることによって、Rの元f(α) = a0 + a1α + a2α2 + ⋯ + anαnを定めることができます。これをαf(X)に代入するといいます。αに対してf(α)を対応させることによりf(X)R上の関数と考えることができます。
 また、Xを別の多項式g(X)に置き換えることによって、多項式f(g(X)) = a0 + a1g(X) + a2g(X)2 + ⋯ + ang(X)nを定めることができます。これをg(X)f(X)に代入するといいます。これはfgR上の関数と考えたときに関数の合成f∘gになっています。
 同じようにn変数多項式f(X1,⋯,Xn)Rの元のn個の組1,⋯,αn)について、Xiαiを代入することでRの元f(α1,⋯,αn)を定めることができます。1,⋯,αn)f(α1,⋯,αn)を対応させることによりf(X1,⋯,Xn)Rn個の直積Rn上の関数と考えることができますし、各変数を別の多項式に置き換えることによって、多項式の代入を定義することができます。
f(X)=
n

i=0
aiXi
R[X]の多項式とします。別の不定元hR[X,h]の多項式X+hf(X)を代入し、これをR[X]上の多項式と考えるとhに関するn次多項式
f(X+h) = f(X) + f1(X) h + f2(X) h2 + ⋯ + fn(X) hn
になります。この1次の係数f1(X)f(X)導関数どうかんすう, derived function, derivativeといい、f'(X)と書きます。f(X)からf'(X)を求めることをf(X)微分するびぶんする, differentiateといいます。また、f(X)に対してその導関数f'(X)を対応させることによってR[X]上の写像を考えることができますが、この写像を
∂X
あるいはと書き、微分作用素びぶんさようそ, differential operatorあるいは微分びぶん, derivationといいます。
 多項式f(X)の導関数f'(X)をさらに微分して得られる導関数をf''(X)f(2)(X)あるいは
2
∂X2
f(X)
と書いて、f(X)二階導関数にかいどうかんすう, second derivativeといいます。同じようにして任意の自然数nについてn階導関数nかいどうかんすう, n-th derivativef(n)(X)あるいは
n
∂Xn
f(X)
を定義することができます。ここで
          f(0)(X)
=
f(X)
f(1)(X)
=
∂X
f(X) = f'(X)
と考えます。

例題3.6.7

a,b,c∈Rのとき、次を示せ。
∂X
(aX + b)
=
a                    
∂X
(aX2 + bX + c)
=
2aX + b

解答

a(X+h)+b = (aX + b) + ah,
(a(X+h)2 + b(X+h) + c) = (aX2 + bX + c)+(2aX + b)h + ah2.
 次の二つの多項式の和と積に関する微分の公式は基本的です。

命題3.6.10

 可換環上の任意の一変数多項式f,gについて次が成り立つ。
(和) (f + g)' = f' + g'
(積) (fg)' = f'g + fg'

証明

 (D1) f(X+h) + g(X+h) = (f(X)+g(X)) + (f'(X)+g'(X))h + (⋯)h2,
 (D2) f(X+h)g(X+h) = (f(X)+f'(X)h)(g(X)+g'(X)h) + (⋯)h2 = f(X)g(X) + (f'(X)g(X)+f(X)g'(X))h + (⋯)h2.
 これより任意個の多項式の和と積に関する微分の公式が導かれます。

系3.6.13

 可換環上の任意の一変数多項式f1,⋯,fnについて次が成り立つ。
(和) (f1 + ⋯ + fn)' = f1' + ⋯ + fn'
(積) (f1 f2 ⋯ fn)' = f1'f2 ⋯ fn + f1 f2' ⋯ fn + ⋯ + f1 f2 ⋯ fn'
 これを適用すると次の形の単項式の微分が計算できます。

系3.6.15

a,b ∈R, n > 0のとき、次が成り立つ。
(3.1)
∂ X
aXn = naXn-1
 さらに、例題3.6.7を一般の多項式に拡張することができます。

系3.6.17

 可換環上の任意の一変数多項式f=∑i=0naiXiについて次が成り立つ。
(3.2)
f'(X) =
n

i=1
iaiXi-1

証明

 各項について積の微分公式を適用して(aiXi)'=iaXi-1、全体を和の微分公式に当てはめれば結論が得られる。■
 また多項式を代入した形の微分公式も得られます。これは解析学における合成関数の微分公式に相当します。

系3.6.20

 可換環上の任意の一変数多項式f,gについて次が成り立つ。
(代入) (f(g(X))' = f'(g(X))g'(X)

証明

f(X)が単項式の場合に示せば、和の公式から一般の場合が得られる。f(X)=aXnとする。積の公式より(a (g(X))n)' = na(g(X))n-1g'(X)が成り立つ。■
 これらの系において、添え字や指数のiは自然数ですが、係数のiは自然数ではなく係数環の単位元1i回足したものを意味しています。これは場合によっては係数環の0となることもあります。n次多項式の微分はn-1次以下の多項式になりますが、ちょうどn-1次 になるかどうかはわかりません。
 多変数の多項式環R[X1,⋯,Xn]においても、一つの変数Xiに着目して、R[X1,⋯,Xi-1,Xi,Xi+1,⋯,Xn] = R[X1,⋯,Xi-1,Xi+1,⋯,Xn][Xi]と一変数多項式環と考えることによって、微分作用素
∂Xi
を定義することができます。
 例えばaX2 + bXY + cY2∈R[X,Y], a,b,c∈Rについて、変数Xに関する微分をしてみます。
∂X
(aX2 + bXY + cY2)
=
2aX + bY               
2
∂X2
(aX2 + bXY + cY2)
=
2a
変数Yに関する微分をしてみます。
∂Y
(aX2 + bXY + cY2)
=
2cY + bX               
2
∂Y2
(aX2 + bXY + cY2)
=
2c
となります。変数Xに関する微分と変数Yに関する微分を組み合わせてみます。
2
∂Y∂X
=
∂Y
∂X
,
2
∂X ∂Y
=
∂X
∂Y
とすると
2
∂Y∂X
(aX2 + bXY + cY2)
=
b                    
2
∂X∂Y
(aX2 + bXY + cY2)
=
b
となります。この二つの微分作用素は、多項式に作用する順番が違っています。
 体k上の多項式環k[X]は整域ですから、その商体を考えることができます。それをk(X)と書き、k上の有理関数体ゆうりかんすうたい, rational function fieldといいます。これはk[X]の元を分母と分子とする分数全体の集合
Frac(k[X]) = lc36
f(X)
g(X)
 | f(X),g(X)∈k[X], g(X)≠0
rc36
においてfg1=f1gのとき
f
g
f1
g1
とする同値関係を考え、その同値類の集合k(X) = Frac(k[X])/∽において、f∈k[X]
f
1
と同じとみなすことによってk[X]⊂k(X)と考え、k(X)上に次のような加法と乗法を定義したものでした。
f(X)
g(X)
+
p(X)
q(X)
=
f(X)q(X)+g(X)p(X)
g(X)q(X)
,
f(X)
g(X)
p(X)
q(X)
=
f(X)p(X)
g(X)q(X)
多項式環k[X]における微分の定義を有理関数体k(X)へ、
(3.3)
lb36
f(X)
g(X)
rb36
'
=
f'(X)g(X) - f(X)g'(X)
g(X)2
によって拡張します。これについて次の微分公式が成り立ちます。

命題3.6.26

 体k上の有理関数体k(X)の任意の元f,gについて次が成り立つ。
(和) (f+g)' = f'+g'
(積) (fg)' = f'g + fg'
(商)
lb36
f(X)
g(X)
rb36
'
=
f'g - fg'
g2

命題3.6.27

 体k上の有理関数体k(X)の任意の元f1,⋯,fnについて次が成り立つ。
(和) (f1 + ⋯ + fn)' = f1' + ⋯ + fn'
(積) (f1 f2 ⋯ fn)' = f1'f2 ⋯ fn + f1 f2' ⋯ fn + ⋯ + f1 f2 ⋯ fn'

命題3.6.28

 体k上の有理関数体k(X)の任意の元f,gについて次が成り立つ。
(代入) (f(g(X))' = f'(g(X))g'(X)

形式的冪級数の微分

 整域R上の形式的冪級数環R[[X]]を考えます。0でないRの元aについて
(1-aX)


i=0
(aX)i
=


i=0
(aX)i


i=0
(aX)i+1
= 1
より、(1-aX)R[[X]]の可逆元であり、その逆元はi=0(aX)iです。同じようにして定数項が0であるような多項式f(X) ∈R[X]に対して
(1-f(X))


i=0
(f(X))i
=


i=0
(f(X))i


i=0
(f(X))i+1
= 1
より、(1-f(X))R[[X]]の可逆元であり、その逆元はi=0(f(X))iです。それではf(X)が定数項が0であるような形式的冪級数である場合はどうでしょうか。 この場合、各項が多項式ではなくて形式的冪級数となりますので、


i=0
(f(X))i
という表現が本当に意味をもつのかどうかということが心配になりますが、f(X)の定数項が0であることから(f(X))ii次より小さい項はすべて0となり、任意の自然数 nに対してn次の項をもつ可能性があるのは(f(X))i, i=0,1,⋯,nだけですから問題ありません。一般に次のことが成り立ちます。

命題3.6.30

 整域R上の形式的冪級数環R[[X]]において、定数項が0でない形式的冪級数f(X)について(1-f(X))R[[X]]の可逆元であり、その逆元はi=0(f(X))iである。
 この命題によって、定数項a0が可逆元であるような形式的冪級数は、定数項が0の形式的冪級数f(X)によってa0(1-f(X))と書けますので、可逆元になることがわかります。また、R[[X]]の任意の可逆元i=0aiXiについて、その逆元i=0biXiとの積の定数項はa0 b0 = 1となりますから、a0は可逆元です。

系3.6.32

 整域R上の形式的冪級数環R[[X]]の元が可逆元であるかどうかは、その定数項が可逆元であるかどうかで定まる。
 体k上の形式的冪級数環k[[X]]で考えると形式的冪級数が可逆であるかどうかは、その定数項が0かどうかで決まります。k[[X]]の商体をk((X))と書くことにします。これまでの議論からk[[X]]0以外の可逆でない元はある正の整数nが存在してXni=0aiXi, a0≠0と書くことができます。ですから、Xnの逆元をX-nと書くことにすれば、k((X))k[[X]]{X-n | n > 0}を付け加えたものと考えることができます。
k[[X]]の元は(ai)i∈ℕという自然数を添え字とする数列でしたが、k((X))の元は(ai)i∈ℤという整数を添え字とし、ある整数n>0について-nより小さい添え字iについてai=0となるものとみなせば、形式的冪級数環の加法と乗法とを自然に拡張することができます。

命題3.6.35

 体k上の形式的冪級数環k[[X]]の商体k((X))の元は次のように書くことができる。


i=n
aiXi
, n∈ℤ
また、加法と乗法は次のように定義される。


i = n
aiXi
+


i = m
biXi
=


i = m
(ai + bi)Xi
, m ≦ n
(


i = n
aiXi
)(


i = m
biXi
)
=


k = n+m
(
 

i+j=k
aibj
) Xk
k((X))の元を上のように表現したものを形式的ローラン級数けいしきてきろーらんきゅうすう, formal Laurent seriesといいます。
 形式的冪級数f(X)=∑i=0 ai Xi ∈k[[X]]の微分は多項式の微分を自然に拡張するように
(3.4)
f'(X) =


i=1
iaiXi-1
によって定義します。さらに微分の定義を形式的冪級数環k[[X]]からその商体k((X))へ、
(3.5)
lb36
f(X)
g(X)
rb36
'
=
f'(X)g(X) - f(X)g'(X)
g(X)2
によって拡張します。これによりk((X))においても和や積の微分公式が成り立ち、形式的ローラン級数の微分は、
(3.6)
(


i=-n
aiXi
)' =
-1

i=-n
iaiXi-1
+


i=1
iaiXi-1
, n > 0
と書くことができます。
 形式的冪級数の微分に関しても多項式と同じ微分公式が成り立ちます。

命題3.6.39

 体k上の形式的冪級数環k[[X]]の任意の元f,gについて次が成り立つ。
(和) (f+g)' = f'+g'
(積) (fg)' = f'g + fg'
(商)
lb36
f(X)
g(X)
rb36
'
=
f'g - fg'
g2

命題3.6.40

 体k上の形式的冪級数環k[[X]]の任意の元f1,⋯,fnについて次が成り立つ。
(和) (f1 + ⋯ + fn)' = f1' + ⋯ + fn'
(積) (f1 f2 ⋯ fn)' = f1'f2 ⋯ fn + f1 f2' ⋯ fn + ⋯ + f1 f2 ⋯ fn'

命題3.6.41

 体k上の形式的冪級数環k[[X]]の任意の元fと定数項が0である元gについて次が成り立つ。
(代入) (f(g(X))' = f'(g(X))g'(X)

代数方程式

 可換環R上のn変数多項式環R[X1,⋯,Xn]m次多項式f(X1,⋯,Xn)0とおいた方程式
f(X1,⋯,Xn) = 0
nm代数方程式だいすうほうていしき, algebraic equationといいます。f(α1,⋯,αn)=0なる1,⋯,αn)をこの方程式のこん, rootかい, solutionあるいは零点れいてん, zero pointといい、根を求めることを代数方程式を解くといいます。代数方程式が複数あるとき、連立代数方程式れんりつだいすうほうていしき, simultaneous algebraic equationといいます。
f1(X1,⋯,Xn)
=
0            
fr(X1,⋯,Xn)
=
0
連立代数方程式を解くことは各代数方程式の零点の共通部分を求めることです。
 可換環R上の一変数多項式f(X)に定数αを代入することについて考えます。X-α ∈R[X]は単多項式ですから、可換環上の多項式環における除法の原理より、
f(X) = (X - α)q(X) + r,  r ∈k
と書くことができます。両辺にαを代入するとf(α)=rとなり、f(α)f(X)(X-α)で割った余りに等しいことがわかります。特にαf(X)=0の根のときはr=0f(X) = (X - α)q(X)と書くことができます。この性質は一元代数方程式の解法の基本となるものですので定理としてまとめておきます。

定理3.6.44

 可換環R上の一変数多項式f(X)Rの元αについて、αf(X)=0の根であれば(X-α)|f(X)であり、逆に(X-α)|f(X)であればαf(X)=0の根である。
 一変数多項式への代入を計算する際にホーナーHorner, William George, 1786-1837法と呼ばれる算法がよく使われます。この算法ではn次多項式への代入をn回の乗算とn回の加算で計算することができます。なお、この算法は筆算で行うための表記法である組み立て除法と同等です。

算法3.6.46 ホーナー法

f(α) = an αn + ⋯ + a2 α2 + a1 α + a0を計算する。
Step 1. f0 = 0
Step 2. fi+1=fi α + an-ii=0,⋯,nについて繰り返す。
Step 3. f(α) = fn+1として終了する。

証明

 演習とする。■
 ホーナー法による計算例を示しておきます。

sample3.6.17.py

from Poly1 import *
 
a = Poly1( [-1,3,-3,1] )
b = Poly1( [1,1] )
print "a = ", a, ", b = ", b
print "a(-1) = ", a.Horner(-1), ", b(-1) = ", b.Horner(-1)
print "a(0) = ", a.Horner(0), ", b(0) = ", b.Horner(0)
print "a(1) = ", a.Horner(1), ", b(1) = ", b.Horner(1)
print
 
Poly1.SetChar( 'y' )
 
a = Poly1( [Fraction(-3,10), Fraction(1,25), Fraction(1,4)] )
b = Poly1( [Fraction(1,2), Fraction(-3,10)] )
print "a = ", a, ", b = ", b
print "a(-1) = ", a.Horner(-1), ", b(-1) = ", b.Horner(-1)
print "a(1/2) = ", a.Horner(Fraction(1,2)), \
      ", b(1/2) = ", b.Horner(Fraction(1,2))
print "a(0) = ", a.Horner(0), ", b(0) = ", b.Horner(0)
print "a(1) = ", a.Horner(1), ", b(1) = ", b.Horner(1)

sample3.6.17.pyの実行結果

a =  X^3 - 3X^2 + 3X - 1 , b =  X + 1
a(-1) =  -8 , b(-1) =  0
a(0) =  -1 , b(0) =  1
a(1) =  0 , b(1) =  2
 
a =  1/4y^2 + 1/25y - 3/10 , b =  -3/10y + 1/2
a(-1) =  -9/100 , b(-1) =  4/5
a(1/2) =  -87/400 , b(1/2) =  7/20
a(0) =  -3/10 , b(0) =  1/2
a(1) =  -1/100 , b(1) =  1/5

sample3.6.17.rb

require 'mathn'
require './poly1'
 
a = Poly1([-1, 3, -3, 1])
b = Poly1([1, 1])
print "a = ", a, ", b = ", b, "\n"
print "a(-1) = ", a.Horner(-1),
      ", b(-1) = ", b.Horner(-1), "\n"
print "a(0) = ", a.Horner(0),
      ", b(0) = ", b.Horner(0), "\n"
print "a(1) = ", a.Horner(1),
      ", b(1) = ", b.Horner(1), "\n"
print "\n"
 
Poly1.setchar('y')
 
a = Poly1([-3/10, 1/25, 1/4])
b = Poly1([1/2, -3/10])
print "a = ", a, ", b = ", b, "\n"
print "a(-1) = ", a.Horner(-1),
      ", b(-1) = ", b.Horner(-1), "\n"
print "a(1/2) = ", a.Horner(1/2),
      ", b(1/2) = ", b.Horner(1/2), "\n"
print "a(0) = ", a.Horner(0),
      ", b(0) = ", b.Horner(0), "\n"
print "a(1) = ", a.Horner(1),
      ", b(1) = ", b.Horner(1), "\n"

sample3.6.17.rbの実行結果

a = X^3 - 3X^2 + 3X - 1, b = X + 1
a(-1) = -8, b(-1) = 0
a(0) = -1, b(0) = 1
a(1) = 0, b(1) = 2
 
a = 1/4y^2 + 1/25y - 3/10, b = -3/10y + 1/2
a(-1) = -9/100, b(-1) = 4/5
a(1/2) = -87/400, b(1/2) = 7/20
a(0) = -3/10, b(0) = 1/2
a(1) = -1/100, b(1) = 1/5
 次に一変数多項式f(X)の複数の根α1,⋯,αkが与えられた場合について考えます。上の定理により、各X-αi, i=1,⋯,kf(X)は割り切れますが、それらの積(X-α1)⋯(X-αk)f(X)を割る切れるでしょうか。これは係数環が整域という条件で成り立ちます。

命題3.6.54

 整域R上の一変数多項式f(X)の相異なる根α1,⋯,αkについて(X-α1)⋯(X-αk)f(X)を割り切る。

証明

kに関する帰納法による。k=1のときは前定理により成り立つ。k-1のときに成り立つと仮定してkのときに成り立つことを示す。仮定により、
f(X) = (X-α1)⋯(X-αk-1)q(X)
と書ける。これにαkを代入すると
f(αk) = (αk-α1)⋯(αk-αk-1)q(αk) = 0
となるが、整域であるからk-α1)⋯(αk-αk-1)0とは成り得ない。したがってq(αk) = 0となり、前定理により
q(X) = (X-αk)qk(X)
と書ける。これを上の式に代入すると
f(X) = (X-α1)⋯(X-αk-1)(X-αk)qk(X)
となる。■
 これによって整域上の一元代数方程式の根の個数はその次数を超えないことがわかります。

系3.6.57

 整域上の0でない一変数n次多項式は、一元n次代数方程式として高々n個の根しかもたない。
 また、整域上の二つの多項式が一致するかどうかを調べるためには、その大きい方の次数をnとしたときに、n+1個の相異なる点での値が一致することを確かめればいいことがわかります。

系3.6.59

 整域上の0でない次数n以下の二つの一変数多項式は、n+1個の相異なる点での値が一致すれば等しい。

証明

 二つの多項式の差をとるとn+1個の点が根となっている。■
 整域R上で考えます。R上の多項式f(X)(X-α)kで割り切れて、(X-α)k+1で割り切れないときに、α重複度ちょうふくど, multiplicitykの根、k重根kじゅうこん, k-ple root、あるいはk位の零点kいのれいてん, zero point of order kといいます。重複度が1のときを単根たんこん, simple root2以上のときを重根じゅうこん, multiple rootともいいます。

命題3.6.62

 整域R上の一変数多項式f(X)k位の零点は、f'(X)の高々k-1位の零点である。

証明

f(X)=(X-α)k g(X)と書けるから、これに積の微分公式を適用すると
f'(X)
=
k(X-α)k-1 g(X) + (X-α)k g'(X)
=
(X-α)k-1 ( kg(X) + (X-α)g'(X) )
となる。■
 特に整域R上の一変数多項式f(X)の単根は、その導関数f'(X)の根になることはありません。
 多項式の微分の計算例としてルジャンドルの多項式を計算してみましょう。正の整数nに対して、
fn(X) =
1
2n n!
n
∂ Xn
(X2 - 1)n
ルジャンドルの多項式るじゃんどるのたこうしき, Legendre's polynomialといいます。この最初の数項を計算します。

sample3.6.22.py

from Poly1 import *
 
f = Poly1( [-1,0,1] ) 
for n in range( 1, 8, 1 ):
  a = f**n
  fact = 1
  for i in range( 1, n + 1, 1 ):
    fact = fact * i 
  coef = Fraction( 1, 2**n * fact )
  a = Poly1( [ coef ] ) * a.diff( n )
  print n, a

sample3.6.22.pyの実行結果

1 X
2 3/2X^2 - 1/2
3 5/2X^3 - 3/2X
4 35/8X^4 - 15/4X^2 + 3/8
5 63/8X^5 - 35/4X^3 + 15/8X
6 231/16X^6 - 315/16X^4 + 105/16X^2 - 5/16
7 429/16X^7 - 693/16X^5 + 315/16X^3 - 35/16X

sample3.6.22.rb

require 'mathn'
require './poly1'
 
f = Poly1([-1, 0, 1])
for n in 1...8
  a = f**n
  fact = 1
  for i in 1..n
    fact = fact * i
  end
  coef = 1 / (2**n * fact)
  a = Poly1([coef]) * a.diff(n)
  print n, " ", a, "\n"
end

sample3.6.22.rbの実行結果

1 X
2 3/2X^2 - 1/2
3 5/2X^3 - 3/2X
4 35/8X^4 - 15/4X^2 + 3/8
5 63/8X^5 - 35/4X^3 + 15/8X
6 231/16X^6 - 315/16X^4 + 105/16X^2 - 5/16
7 429/16X^7 - 693/16X^5 + 315/16X^3 - 35/16X
人  物
ホーナー Horner, William George, 1786-1837
イギリスの数学者。1819年にホーナー法を発表するが、その150年前の1669年に出版されたアイザック・ニュートン(Sir Isaac Newton, 1642-1727)の著書にすでにその方法が記されている。
 
数  学
導関数 どうかんすう, derived function, derivative
微分する びぶんする, differentiate
微分作用素 びぶんさようそ, differential operator
一変数の微分作用素は通常d/dxと書かれることが多いが、具象数学階梯においては、∂ で微分作用素を表わし、d という記号は接ベクトルの成分や微分形式を表わすときにのみ使用し、二つの概念を明確に区別する。
微分 びぶん, derivation
二階導関数 にかいどうかんすう, second derivative
n階導関数 nかいどうかんすう, n-th derivative
有理関数体 ゆうりかんすうたい, rational function field
形式的ローラン級数 けいしきてきろーらんきゅうすう, formal Laurent series
代数方程式 だいすうほうていしき, algebraic equation
こん, root
かい, solution
零点 れいてん, zero point
連立代数方程式 れんりつだいすうほうていしき, simultaneous algebraic equation
重複度 ちょうふくど, multiplicity
k重根 kじゅうこん, k-ple root
k位の零点 kいのれいてん, zero point of order k
単根 たんこん, simple root
重根 じゅうこん, multiple root
ルジャンドルの多項式 るじゃんどるのたこうしき, Legendre's polynomial
 
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