乗法的関数
著者:梅谷 武
語句:メービウス,乗法的,完全乗法的,完全数,奇素数,メルセンヌ素数
乗法的関数について述べる。
作成:2006-06-15
更新:2021-03-17
第4章で自然数列の
k次の冪和
について考えましたが、この和を
nの約数だけに制限したもの
について考えてみます。乗法的関数を取り扱うときには
は
nの正の約数に関する和を意味するものと約束します。
具体的に計算してみます。
n=2とすると約数は
{1,2}ですから、
σ0(2)=1+1=2, σ1(2)=1+2=3, σ2(2)=1+4=5
|
n=4とすると約数は
{1,2,4}ですから、
σ0(4)=1+1+1=3, σ1(4)=1+2+4=7, σ2(4)=1+4+16=21
|
というようになります。
9以下のσ0,σ1,σ2関数の値を以下に示します。2と3とその積である6のσ0,σ1,σ2の値だけを見ると乗法的になっていることがわかります。
正の整数
nの素因数分解を
n = p1ep1(n)p2ep2(n) ⋯ prepr(n)
|
としたときに、
σk(n)を書き下すことができます。
k=0のとき
σ0(n)は
nの正の約数の個数を意味しますが、
nの正の約数が
{ p1a1p2a2 ⋯ prar | 0≦ai≦epi(n) }
|
で尽くされることから、
(5.1) | σ0(n) = (ep1(n)+1)(ep2(n)+1) ⋯ (epr(n)+1)
|
|
が成り立ちます。
k>0のときは
nの正の約数の集合の各元を
k乗して和をとると、
となります。この右辺は
1+pik+pi2k+ ⋯ + piepi(n)k = | |
|
を
i=1,⋯,rに関して掛けたものに等しいですから、
が成り立ちます。この公式の形から
σk(n)が乗法的であることが自然に導かれます。
もし
2n-1, n > 1が素数ならば、
2n-1(2n-1)は完全数である。
証明
p=2n-1, N=2n-1pとおき、
σ(N)=2Nを示す。
σ(N) = | | ⋅ | | = (2n-1)(p+1) = 2n(2n-1) = 2N.
|
■
この命題によって2n-1の形の素数を見つければ、それに2n-1をかけることによって完全数を得ることができます。したがって、この形の新しい素数を見つければ、それと同時に新しい完全数が見つかることになります。古代ギリシャにおいては6,496,8128という三つの完全数が発見されています。
17世紀中頃のフェルマー、メルセンヌ、フレニクル、デカルト等により交わされた書簡から、当時の科学アカデミーにおいて完全数を含むさまざまな数探しが流行していたことがわかります。
フェルマーは1640年6月のメルセンヌ宛書簡の中で
2n-1の形の素数の探索に関する三つの命題について書いています。一つ目は
2n-1が素数であれば、
nは素数でなければならないということです。これは
n=abと
1より大きい二つの数に分解されれば、
2n - 1 = (2a - 1)(2a(b-1) + 2a(b-2) + ⋯ + 2a + 1)
|
となることからわかります。二つ目は
pが
奇素数きそすう, odd prime numberのとき
p | 2p-1-1となるということです。これは
と書くことができます。三つ目は
pが素数であるとき
qが
2p-1の素因数であれば
p | q-1であるというものです。これは
と書くことができ、既約剰余類群
(ℤ/qℤ)×における
2の位数が全体の位数
q-1の約数であるということを意味しています。その後、フェルマーはこれらの命題をフェルマーの小定理にまで一般化して1640年10月18日付けのフレクニル宛の書簡に書いたことは前節で述べました。
フェルマーは次の例でこの判定法の使い方を説明しています。
qを
237-1の素因数とすれば
37|q-1より、
q=37k+1, k>1ですが、
kが奇数ならば
qは偶数となるので
kは偶数でなければなりません。したがって
q=74k+1, k>1となることがわかります。
k=1のとき
q=75は素数ではありません。
k=2のとき
q=149となり素数ですが、
237-1 = 137438953471 = 922409083 * 149 + 104
|
となり割り切れません。
k=3のとき
q=223となり、これは素数であって
237-1 = 137438953471 = 616318177 * 223
|
と割れますので
237-1は素数ではありません。
メルセンヌは1644年に『Cogitata Physica-Mathematica(物理数学思索)』の中で
2n-1は
n = 2,3,5,7,13,17,19,31,67,127,257
|
に対して素数であり、これ以外の
257未満の正の整数については合成数であると述べました。この記述により
2n-1の形の素数は
メルセンヌ素数めるせんぬそすう, Mersenne prime numberと呼ばれるようになりましたが、この主張には誤りがありました。この範囲では
n = 2,3,5,7,13,17,19,31,61,89,107,127
|
に対して素数になることが実証されたのは計算機が発達した20世紀になってからのことです。
オイラーは偶数の完全数が
命題5.5.8の形のものに限ることを証明しました。
偶数の完全数は
2n-1(2n-1), (n > 1, 2n-1は素数)という形のものに限る。
証明
偶数の完全数
aを
a=2e-1b, (2,b)=1, e>1と分解する。
σ(a) = σ(2e-1)σ(b) = (2e-1)σ(b)
|
である。一方、
σ(a)=2a=2ebであるから、
(2e-1)σ(b)=2ebより、
となる。
e>1より
b/(2e-1)は
bの真の約数であり、
σ(b)は
bのすべての約数の和であったから、
b=2e-1でかつ素数でなければならない。■
この命題により、偶数の完全数はすべてメルセンヌ素数に対応するということがわかりました。しかし、奇数の完全数についてはそれが存在するかどうかもまだわかっていません。
また、オイラーは次の判定法を残しています。
pが
p ≡ 3 (mod 4)なる素数であるとき、
2p+1が素数であることと
は同等である。したがって、
2p+1が素数ならば
2p+1|2p-1となり、
2p-1は素数ではない。
この証明については平方剰余の概念を導入してから述べることにします。
f(n)が乗法的であれば、次式で定義される
g(n)も乗法的である。
証明
(m,n)=1, d|m, e|nとすると、
(d,e)=1であるから、
g(mn) = | | = | |
= ( | | )( | | ) = g(m)g(n).
|
■
f(n)=nkは完全乗法的関数ですから
が乗法的関数であることはこの命題からもわかります。
このメービウス関数を使うことによって次の反転公式が得られます。
正の整数に対して定義されている関数
f(n),g(n)について
ならば、
証明
上式において
は
n=dのときに
1で、それ以外は
0となるから上式は
f(n)に等しい。■
同様にしてこの命題の逆を証明することができます。
正の整数に対して定義されている関数
f(n),g(n)について
ならば、
証明
演習とする。■
オイラーのφ関数については次の式が成り立ちます。
証明
正の整数
nの素因数分解を
n=p1e1p2e2 ⋯ pkekとする。
nの正の約数全体の集合は
{ p1a1p2a2 ⋯ prar | 0≦ai≦ei }であるから、
| = | | = | ∏ i | (1+φ(pi)+φ(pi2)+⋯+φ(piei)) |
|
|
|
ここで
| | 1 + φ(pi) + φ(pi2) + ⋯ + φ(piei) |
|
| | 1 + (pi-1) + pi(pi-1) + ⋯ + piei(pi-1) = piei |
|
が成り立つので結論が従う。■
これにメービウスの反転公式を適用すると次の公式が得られます。
また、
に適用すると次の公式が得られます。
[
1] G.H. ハーディ, E.M. ライト,
数論入門〈1〉, シュプリンガー・フェアラーク東京, 2001
[
2] 中村幸四郎, 伊東俊太郎, 寺阪英孝, 池田美恵 訳,
ユークリッド原論, 共立出版, 1996
人 物
メービウス Möbius, August Ferdinand, 1790-1868
数 学
乗法的 じょうほうてき, multiplicative
完全乗法的 かんぜんじょうほうてき, completely multiplicative
完全数 かんぜんすう, perfect number
奇素数 きそすう, odd prime number
奇数の素数のこと。2より大きい素数と考えてもよい。
メルセンヌ素数 めるせんぬそすう, Mersenne prime number