有理数
著者:梅谷 武
語句:同値関係,同値類,商集合,単元,可逆元,逆元,体,群,可換群,アーベル群
有理数の定義と性質。
作成:2006-04-11
更新:2013-06-14
 整数を拡大して有理数を作るために同値類の概念を導入します。

定義1.3.2 同値関係

 集合における任意の2元の関係∽が次の性質を満たすとき、 同値関係どうちかんけい, equivalence relationという。
(反射律) 任意の元aについてa ∽ a
(対称律) 任意の2元a,bについてa ∽ b ⇒ b ∽ a
(推移律) 任意の3元a,b,cについてa ∽ b, b ∽ c ⇒ a ∽ c
 集合A上に同値関係が定義されているとき、互いに同値な元をすべて集めてAの部分集合を作ります。このような部分集合の全体の集合を考えると、どの部分集合どうしも交わりがなく、なおかつそれらすべてを合併するとAになります。このように同値関係は集合を分割します。これを集合の類別といい、各部分集合を同値類どうちるい, equivalence classと呼びます。同値類全体の集合を商集合しょうしゅうごう, quotient setといい、A/∽と書きます。
 さて、整数ℤと整数から0を除いた集合ℤ-{0}との直積を考えます。
ℤ × ℤ-{0} = { (a,b) | a,b∈ℤ, b≠0 }
この集合の元(a,b)をaを分母、bを分子とする分数と考えて、
Frac(ℤ) ≔ lc36
a
b
 | a,b∈ℤ, b≠0
rc36
とおきます。この集合において
ab' = a'b のとき
a
b
a'
b'
とする同値関係を考え、有理数ℚは次のような集合として定義します。
ℚ ≔ Frac(ℤ)/∽
またa∈ℤ
a
1
と同じとみなすことによってℤ⊂ℚと考えます。上に加法と乗法を次のように定義します。
a
b
+
c
d
=
ad+bc
bd
,
a
b
c
d
=
ac
bd
有理数はこの加法と乗法によって整域となります。
 一般に可換環Rにおいてa∈Rに対してab=ba=1なるb∈Rが存在するとき、a単元たんげん, unitあるいは可逆元かぎゃくげん, invertible elementといい、b逆元ぎゃくげん, inverse elemntといいます。単元は0ではなく、その逆元は一意的に存在します。単元aの逆元をa-1で表すことにします。

定義1.3.6 体

 可換環Kにおいて0以外の元がすべて単元であるときKたい, fieldという。
 有理数は整数を体になるように拡大したものです。

命題1.3.8

 有理数は体である。

証明

0以外の元が単元であることを示せばよいが、それは
a
b
≠ 0 ⇒
a
b
b
a
= 1
であることからわかる。■
 整数を有理数に拡大したやり方は、一般の整域についてもそのまま適用することができます。整域をこのやり方で拡大した体のことを商体と呼びますが、これについては後にもう一度学ぶことになるでしょう。
 ここで前節で触れた乗法群とアーベル群の定義をまとめておきます。

定義1.3.12 群

 集合Gの2つの元a,bについて乗法ab∈Gが定義されていて次の性質を満たすとき、Gぐん, groupであるという。
(結合律) 任意の3元a,b,cについて、(ab)c = a(bc)
(単位元) 1∈Rが存在し、任意の元aについて、a1 = 1a = a
(逆元) 任意の元aについてa-1が存在して、aa-1 = a-1a = 1
Gがさらに次を満たすとき可換群かかんぐん, commutative groupあるいはアーベル群あーべるぐん, abelian groupという。
(可換律) 任意の2元a,bについて、ab = ba
 体の定義から次のことがすぐにわかります。

命題1.3.14

 体Kから零元を取り去った集合K×=K-{0}は乗法に関してアーベル群を為す。特に有理数から零元を取り去った集合×=ℚ-{0}は乗法に関してアーベル群を為す。

証明

 演習とする。■
 整数の順序付けはad≦bcのとき
a
b
c
d
と定義することで有理数に自然に拡張することができます。 順序環が体であるときに順序体といいます。

命題1.3.17

 有理数は順序体である。

証明

 演習とする。■
 順序体では順序環としての性質の他に次の性質があります。

命題1.3.20 順序体の性質

 順序体では次が成り立つ。
(O8) x < y, x > 0, y > 0 ⇒ y-1 < x-1

証明

 演習とする。■
数  学
同値関係 どうちかんけい, equivalence relation
同値類 どうちるい, equivalence class
商集合 しょうしゅうごう, quotient set
単元 たんげん, unit
可逆元 かぎゃくげん, invertible element
逆元 ぎゃくげん, inverse elemnt
たい, field
ぐん, group
可換群 かかんぐん, commutative group
アーベル群 あーべるぐん, abelian group
 
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