7.3節 空間比例としての四元数
著者:梅谷 武
語句:三次元単位球面, シンプレクティック群
四元数の単位球面が特殊ユニタリ群SU(2)と同型であり、回転群SO(3)を二重被覆することを示す。これにより、四元数論が空間比例論であると結論される。
作成:2009-09-25
更新:2021-03-28
 四元数の単位球面
S3 := { a
a
= 1 }
は乗法群として×の部分群になっていますが、これは三次元単位球面さんじげんたんいきゅうめん, 3 dimensional unit sphereあるいはシンプレクティック群しんぷれくてぃっくぐん, symplectic groupSp(1)と呼ばれます。
Mat()の元AについてAAを計算してみましょう。
lb48
u
-v
v
u
rb48 lb48
u
v
-v
u
rb48 = lb48
uu+vv
0
0
uu+vv
rb48 = (det A) E2
となり、行列式が1Mat()の元Aはユニタリ行列であることがわかります。逆にSU(2)の元Aについて
A = lb48
a
b
c
d
rb48,  A = lb48
a
c
b
d
rb48
とすると、逆行列は
A-1 = lb48
d
-b
-c
a
rb48
なので、d = a, c = -bであり、
A = lb48
a
b
-b
a
rb48
と書くことができます。ですからAMat()の元になっています。

命題7.3.1.3

(7.1)
SU(2) = { A ∈ Mat() ∣ det A = 1 }
 このことによって、次の定理が証明できました。

定理7.3.1.5

Mat:Mat()S3SU(2)の群(さらにはLie群)としての同型を与える。
(7.2)
S3 ≅ SU(2)
 四元数a = a0 e + a1 i + a2 j + a3 kについてMat(a)の行列式を計算してみます。
a0 + a1i
-a2 - a3i
a2 - a3i
a0 - a1i
=
(a0 + a1 i)(a0 - a1 i) + (a2 + a3 i)(a2 - a3 i)
=
a02 + a12 + a22 + a32
したがって、次の命題が成り立ちます。

命題7.3.1.7

四元数aについて次が成り立つ。
(7.3)
a
2 = det (Mat(a))
 四元数上の直交群は内積を保存する線形変換のなす群O()として定義されます。これは行列表現すると
               O()
:=
{ A ∈ GL(4,) | tA A = A tA = E4 }
=
O+() ∪ O-()
O+()
:=
{ A ∈ O() ∣ det A = 1 }
O-()
:=
{ A ∈ O() ∣ det A = -1 }
となり、これまでと同じようですが、四元数上に積が定義されていることにより、通常の線形群とは異なる様相を示します。
a,b ∈ S3とするとき、
φa,b: longrightarrow x longmapsto axb
φa,b: longrightarrow x longmapsto axb
は、ノルムを保存する線形変換ですから直交変換になります。逆にすべての四元数上の直交変換はこれで尽くされています。

定理7.3.2.3 Cayley

四元数上の直交変換について次が成り立つ。
(1) O+()の任意の元はa,b ∈ S3によって φa,bと書ける。
(2) O-()の任意の元はa,b ∈ S3によって φa,bと書ける。

証明

略■
 空間に付随するベクトル空間Im 上の直交変換Aは直交直和分解
= eIm
により、
A' := lb48
1
0
0
A
rb48
と一意的に拡張することができます。A' ∈ O+()であれば、a,b ∈ S3が存在して、直交変換としてA' = φa,bが成り立ちますから、A'(e)=eより、
aeb = ab = e  ⇒  b = a-1 = a
となり、A' = φa,aと書くことができます。A' ∈ O-()のときは-A' ∈ O+()ですから、A' = -φa,aと書くことができます。
 これにより次の定理が成り立つことがわかりました。

定理7.3.2.7 Hamilton

空間に付随するベクトル空間Im 上の直交変換について次が成り立つ。
(1) O+(Im )の任意の元はa ∈ S3によって φa,aと書ける。
(2) O-(Im )の任意の元はa ∈ S3によって a,aと書ける。
 三次元単位球面S3から回転群SO(Im )への写像
φ:S3 longrightarrow SO(Im ),  a longmapsto φa,a
について考えます。
 まず、xIm についてx = -xが成り立つので、
(a x a) = a x a = - a x a
より、axaIm であり、 φa,a ∈ SO(Im )がわかります。
a,b ∈ S3について、
φa,a ∘ φb,b(x) = a b x b a = a b x ab = φab,ab
より、φは群準同型になっています。また、前小節の結果からこれは全射です。
a ∈ S3について、φa,aが恒等写像であるとすると
axa = xax = xa
が任意のxIm について成り立ちますから、特にi,j,kについて成り立ち、aeであり、a = ± eであることがわかります。

定理7.3.3.5

三次元単位球面S3から回転群SO(Im )への写像
φ:S3 longrightarrow SO(Im ),  a longmapsto φa,a
は群の全射準同型であり、その核は{e,-e}となる。これにより群同型
S3 / {e,-e} ≅ SO(Im )
が誘導される。さらにこれはLie群としての同型を与えている。

証明

略■
 実際にaxaを計算してみましょう。
a = a0 e + a1 i + a2 j + a3 k ∈ S3x = x1 i + x2 j + x3 kIm
とすると
          axa
=
(a0e + Im(a))x(a0e - Im(a))
=
(a0e + Im(a)) ( 〈 x, Im(a) 〉 e + a0x - x × Im(a) )
=
( a0x, Im(a) 〉 - 〈 Im(a), a0x - x × Im(a) 〉 ) e
+ a02 x - a0x × Im(a) + 〈 Im(a), xIm(a)
- a0x × Im(a) - Im(a) × (x × Im(a))
ここで、実部はすでに0になることがわかっていますが計算しても0になります。虚部をベクトル積の公式
a × (b × c) = 〈a,cb - 〈a,bc
を使って展開・整理すると次が得られます。
(7.4)
axa = (2a02 - 1)x + 2Im(a), xIm(a) + 2a0 Im(a) × x
この各項を(3,3)行列で表現します。
(2a02 - 1)x
=
lb96
(2a02 - 1)
0
0
0
(2a02 - 1)
0
0
0
(2a02 - 1)
rb96 lb96
x1
x2
x3
rb96
2Im(a), xIm(a)
=
lb96
2a12
2a1a2
2a1a3
2a1a2
2a22
2a2a3
2a1a3
2a2a3
2a32
rb96 lb96
x1
x2
x3
rb96
2a0 Im(a) × x
=
lb96
0
-2a0a3
2a0a2
2a0a3
0
-2a0a1
-2a0a2
2a0a1
0
rb96 lb96
x1
x2
x3
rb96
これらをまとめます。
axa = lb96
(2a02-1)+2a12
2a1a2-2a0a3
2a1a3+2a0a2
2a1a2+2a0a3
(2a02-1)+2a22
2a2a3-2a0a1
2a1a3-2a0a2
2a2a3+2a0a1
(2a02-1)+2a32
rb96 lb96
x1
x2
x3
rb96

命題7.3.3.8

a = a0 e + a1 i + a2 j + a3 k ∈ S3についてφa,a ∈ SO(Im )の行列表現は次のようになる。
(7.5)
lb96
2(a02+a12)-1
2(a1a2-a0a3)
2(a1a3+a0a2)
2(a1a2+a0a3)
2(a02+a22)-1
2(a2a3-a0a1)
2(a1a3-a0a2)
2(a2a3+a0a1)
2(a02+a32)-1
rb96 ∈ SO(3)
0でない四元数×+ × S3と同一視することができますから、この結果から
× / {e,-e} ≅ + × SO(3)
であることがわかり、この意味で四元数は立体図形の向きを保存する相似変換であるということができます。これにより、四元数論とは空間比例論であるという結論に到達できました。
[1] L.S.ポントリャーギン, 数概念の拡張, 森北出版, 1995
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[2] H.D.エビングハウス, 数 (上), シュプリンガー・フェアラーク東京, 1991
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[3] H.D.エビングハウス, 数 (下), シュプリンガー・フェアラーク東京, 1991
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数  学
三次元単位球面 さんじげんたんいきゅうめん, 3 dimensional unit sphere
シンプレクティック群 しんぷれくてぃっくぐん, symplectic group
 
Published by SANENSYA Co.,Ltd.