6.5節 ユークリッド幾何
著者:梅谷 武
語句:合同変換群, 直交行列, 直交群, 特殊直交群, 回転群, 相似変換群, 等積変換群, 特殊線形群
空間の合同幾何・相似幾何・等積幾何を定める合同変換群・相似変換群・等積変換群の構造を決定する。
作成:2009-09-17
更新:2021-03-28
空間上の合同変換とは多面体を合同な多面体に写すもののことです。特に平行六面体は平行六面体に写しますから合同変換はアフィン変換です。多面体が合同であるとは各面が合同であることですから、各面の合同条件から合同変換は空間上の距離を不変にするアフィン変換として特徴付けることができます。
空間
(U,V3)において、アフィン変換
f:U → Uが次の条件を満たすとき、合同変換という。
(6.1) | d(P,Q) = d(f(P),f(Q)), P,Q ∈ U
|
|
平面幾何と同じ論法でノルムと内積の保存性が証明できます。
合同変換から誘導される線形変換はノルムと内積を保存する。
空間(U,V3)上の合同変換群Cong(U)もアフィン変換群と同様に平行移動群と原点の固定部分群の半直積として分解され、この固定部分群により構造が決定されます。
正規直交座標系
(O;e1,e2,e3)を固定して考えます。合同変換
fから誘導される線形変換
φが
A =
| | | |
|
と行列表現され、二つのベクトル
a,bが次のように座標表現されているとします。
a = λ1 e1 + μ1 e2 + ξ1 e3
|
b = λ2 e1 + μ2 e2 + ξ2 e3
|
このとき内積は次のように表現されます。
〈 a, b 〉
=
ta b
=
( λ1 μ1 ξ1 )
| | | |
=
λ1 λ2 + μ1 μ2 + ξ1 ξ2
|
これに線形変換
φを適用すると次のようになります。
ここで、特に基底を代入すると、
となり、これは行列の積
tA Aの(i,j)-成分を表していますから、
φが
内積を保存することと
〈 ei, ej 〉 = δijより、
tA A = E3 :=
| | | |
|
であり、直交行列であることがわかります。直交行列の全体は直交群をなし、これを
O(3) := { A ∈ GL(3,ℝ) | tA A = A tA = E3 }
|
と書きます。これを行列式の符号で分類します。
O+(3)は特殊直交群あるいは回転群と呼ばれ、通常
SO(3)と表記されます。
O-(3)は部分群にはならず、回転群
SO(3)と鏡映変換の代表元との積で表されます。
原点を固定する合同変換に誘導される線形変換の行列表現が直交行列になることを示しましたが、その計算は、逆に直交行列が原点を固定する合同変換を誘導することも示していますから、
は、合同変換群の原点の固定部分群に一致することがわかりました。
合同変換群
Cong(U)は、平行移動群
Trans(U)に内部自己同型によって直交群
O(V3)を作用させた半直積に同型である。
Cong(U) ≅
Trans(U) ⋊ O(V3)
|
空間上の相似変換とは多面体を相似な多面体に写すもののことです。多面体の相似性は各面の相似性によって定義されているために、平面幾何の相似性の定義と同様に線長比と平面角の保存によって特徴付けられます。
空間
(U,V3)において、空間
U上のアフィン変換
fが相似変換であるとは、次の条件を満たすことである。
(1)
| 線長比を保存する。i.e.
AB:AC ∝ f(A)f(B):f(A)f(C),
∀ A,B,C ∈ U
|
(2)
| 角度を保存する。i.e.
∠ BAC = ∠ f(B)f(A)f(C),
∀ A,B,C ∈ U
|
空間(U,V3)上の相似変換全体は群を成し、これを相似変換群Similar(U)と書くことにします。相似変換群は合同変換群を部分群として含み、平行移動群と原点の固定部分群の半直積として分解されます。
相似変換
fから誘導される線形変換を
φとすると、線長比と角度を保存することから次が成り立ちます。
| | 〈 λ a, λ b 〉, λ :=
| | : | | ∈ ℝ+ |
|
| | |
φの行列表現
Aを
λ-1倍すると直交行列になるので、
GOは線長比のなす乗法群
ℝ+と直交群
O(V3)の積に分解できることがわかります。さらに、
ℝ+はすべてのアフィン変換と可換なのでこの分解は群としての直積になっています。
相似変換群
Similar(U)は、平行移動群
Trans(U)に内部自己同型によって線長比のなす乗法群
ℝ+と直交群
O(V3)の直積を作用させた半直積に同型である。
Similar(U) ≅
Trans(U) ⋊ (ℝ+ × O(V3))
|
空間
(U,V3)において、多面体の体積を保存するアフィン変換を等積変換という。
空間(U,V3)上の等積変換全体の集合は群を成し、これを等積変換群Equiv(U)と書くことにします。等積変換群は合同変換群を部分群として含み、平行移動群と原点の固定部分群の半直積として分解されます。
等積変換
fから誘導される線形変換を
φとして、合同変換群の場合と同じ記号を使うことにします。体積を保存することは外積を使って次のように表現できます。
これを行列表現すると、
となり、
det A = 1であることがわかります。直交群と同じように等積変換も行列式の符号で分類します。
| | |
| | |
| | { A ∈ Eq(3,ℝ) ∣ det A = 1 } |
|
| | { A ∈ Eq(3,ℝ) ∣ det A = - 1 } |
|
Eq+(3,ℝ)は
Eq(3,ℝ)の正規部分群であり、特殊線形群と呼ばれ、通常
SL(3,ℝ)と表記されます。
Eq-(3,ℝ)は部分群にはなりません。
これにより
が原点を固定する等積変換全体のなす群となります。
等積変換群
Equiv(U)は、平行移動群
Trans(U)に内部自己同型によって
Eq(V3,ℝ)を作用させた半直積に同型である。
Equiv(U) ≅
Trans(U) ⋊ Eq(V3,ℝ)
|
[
1] 伊原 信一郎, 河田 敬義, 線型空間・アフィン幾何 (岩波基礎数学選書), 岩波書店, 1997