1.8節 線長量の線形代数
著者:梅谷 武
語句:線形空間, 線形写像, 線形形式, 線形独立, 基底, 次元, 座標, 単位, 測定, 双対空間, 双対性
線長量が一次元線形空間であること、単位と測定が双対関係にあることを示す。
作成:2009-08-27
更新:2011-03-08
環
Rと加群
Mにおいて作用
R × M M, (a,x) ax
|
が定められていて、
(1)
| a(x + y) = ax + ay, a ∈ R, x,y ∈ M |
(2)
| (a + b)x = ax + bx, a,b ∈ R, x ∈ M |
(3)
| (ab)x = a(bx), a,b ∈ R, x ∈ M |
(4)
| 1x = x, 1 ∈ R, x ∈ M |
が成り立つときに
Rを
Mの
作用域さよういき, operator domain、
Mを作用域
Rをもつ加群、
R上の加群、あるいは
R-加群といいます。
ここまでの議論によって、線長量Lはアルキメデス的順序体RL上の加群であることがわかりました。R-加群においては慣例としてRの元は係数と呼ばれ、axは係数倍と呼ばれますが、原論の立場ではRLは数ではなく、あくまでも比ですから、それぞれ比、比例倍というような言い方が適切でしょう。
体上の加群は線形空間と呼ばれますが、これを改めて定義します。
体
Kと加群
Vについて、作用
K × V V, (λ,a) λ a
|
が定義され、次の条件が満たされるとき、
Vを
K上の
線形空間せんけいくうかん, linear spaceという。
(LS1)
| 1 a = a, 1 ∈ K, a ∈ V |
(LS2)
| (λ μ)a = λ (μ a),
λ, μ ∈ K, a ∈ V |
(LS3)
| (λ + μ)a = λ a + μ a,
λ, μ ∈ K, a ∈ V |
(LS4)
| λ (a + b) = λ a + λ b,
λ ∈ K, a, b ∈ V |
線形独立な元の列
{ e1, ⋯, ek }, k ∈ ℕの線形結合は一意的な表現である。すなわち、
λ1 e1 + ⋯ + λk ek =
μ1 e1 + ⋯ + μk ek
⇒ λi = μi, i = 1, ⋯, k
|
証明
略■
体
K上の線形空間
Vの
基底きてい, basisとは線形独立な元の列であって、
Vを生成するもののことです。すなわち、
Vの任意の元がその元の列の線形結合として表現されることです。
体
Kの
n個の直積
Kn := { (λ1, λ2, ⋯ ,λn) | λi ∈ K,
i = 1, ⋯, n }
|
に対して、
K上の作用を
μ (λ1, λ2, ⋯ ,λn) :=
(μ λ1, μ λ2, ⋯ ,μ λn)
|
と定めることによって体
K上の線形空間になります。
体
K上の線形空間
Vが
n個の基底を持てば、
Knに同型である。
証明
略■
異なる自然数m,nに対してKmとKnは同型にはなりませんから、上の命題は有限個の基底をもつ線形空間の代数的構造は、基底を成す元の個数によって決定されることを意味しています。
線分の長さを測るとは、単位
u ∈ L+を定めて、測定対象となる線分
a ∈ L+との比
a:uを求めることです。これは自己同型写像として考えると
なる比を求めることです。これがどんな線分についても可能であることを、
L+ = RL+ u := { λ u | λ ∈ RL+ }
|
というように表現します。このことを
L+は
RL+上単位
uによって
生成せいせい, generateされるといいます。これは線長量を対称化してもそのまま成り立ち、
Lは
RL上単位
uによって生成されます。
L = RL u := { λ u | λ ∈ RL }
|
ここまでの結果をまとめます。
線長量
Lは線長比
RL上の一次元線形空間であり、正の元
u ∈ L+を単位とすると、
uは基底となり、
Lは
RL上
uによって生成される。すなわち、次が成り立つ。
証明
略■
単位を定めて線分の長さを測ること、すなわち測定法は次の測定写像で表現することができます。
u-1 : L = RL u RL,
a = | | u u-1(a) = | |
|
線分
aを基底
uで座標表現し、その座標に対応させる写像です。測定写像は
RL-線形形式です。すなわち、次が成り立ちます。
線長量
Lの順序加群としてのノルム
| :L L+, a | |
|
は次のように定義されました。
| = | | | |
|
線長量上のノルムは比例倍を保存する性質がありますので、それを含めてノルムの性質としてまとめておきます。
線長量
Lのノルムについて次が成り立つ。
(正値性)
| a ≧ 0かつa = 0 ⇔ a = 0, a ∈ L |
(比例倍)
| λ a = λ a, λ ∈ RL,
a ∈ L |
(三角不等式)
| a + b ≦ a + b, a,b ∈ L |
証明
略■
単位
u ∈ L+を定めたときに、線長量のノルムに単位
uによる測定写像を合成すると
| :L RL+,
a | |
|
測定値の絶対値となり、これも上のノルムの性質を満たします。単位を定めたときにはこれをノルムと考えることにしましょう。これは通常のノルム概念と一致します。
線長量
Lにおいて単位
u ∈ L+を定めるとき、そのノルムを順序加群としてのノルムに単位
uによる測定写像を合成したものと定める。
| = | | | |
|
単位
uによる測定写像を使うと平面
E上の距離
d : E × E L+,
(P,Q) d(P,Q)
|
を
du : E × E RL+,
(P,Q) du(P,Q)
|
du(P,Q) := | | | |
|
と書くことができます。これは通常の距離概念と一致します。
φ:L → RLを任意の
RL-線形形式とし、
とおくと
ですから、
とおくと
φ = v-1が成り立ちます。このことから
L*で
L上の線形形式全体の集合を表すと
と書くことができることがわかります。言い換えれば、単位と測定法は一対一に対応しています。
次に測定対象となる線分
a ∈ Lを固定して、いろいろな測定法で測ってみることを考えましょう。これは次の写像で表現することができます。
a : L* RL,
u-1 u-1(a) = | |
|
L*は自然に
RL-線形空間となり、これを
Lの
双対空間そうついくうかん, dual spaceと呼んでいます。この写像は
RL-線形形式であり、さらにすべての
L*上の
RL-線形形式はこの形で得られることから、
であることがわかります。この性質を
Lと
L*の
双対性そうついせい, dualityといいます。
[
1] 小島 順, "量の計算"を見直す, 数学セミナー, 1977.8~1978.1
数 学
作用域 さよういき, operator domain
線形空間 せんけいくうかん, linear space
線形写像 せんけいしゃぞう, linear mapping
線形形式 せんけいけいしき, linear form
線形変換 せんけいへんかん, linear transformation
線形結合 せんけいけつごう, linear combination
線形独立 せんけいどくりつ, linearly independent
線形従属 せんけいじゅうぞく, linearly dependent
基底 きてい, basis
次元 じげん, dimension
生成 せいせい, generate
座標 ざひょう, coordinate
双対空間 そうついくうかん, dual space
双対性 そうついせい, duality