1.7節 線長論
著者:梅谷 武
語句:線長比, 数比, 有理数, 実数, 平方根
線長比の比例類は線長量上の相似変換を定めること、線長比を対称化したものは有理数を含む実数の部分順序体になることを示す。
作成:2009-08-26
更新:2011-03-08
 ここでは線長量L+を固定して考えます。命題VI-12「与えられた三つの直線に比例する第四の直線を見出すこと。」によって、L+の任意の比a:bと任意の元cを与えたときに、α ∈ a, β ∈ b, γ ∈ cを適当にとれば、a:b=c:dなるδ ∈ d = [δ]を作図することができます。
 これは比a:bL+上の変換を定めていると考えることができます。
φa:b : L+ longrightarrow L+,  c longmapsto φa:b(c) := d
命題V-12より、この写像は半加群としての準同型写像になっています。
φa:b(s + t) = φa:b(s) + φa:b(t),  s,t ∈ L+
命題V-14より、この写像は順序を保存します。
s > t ⇒ φa:b(s) > φa:b(t),  s,t ∈ L+
さらに全単射であり、順序半加群L+としての自己同型写像になっていることもわかります。
 一般に線長量の半加群としての自己同型写像と数比には次の関係が成り立ちます。

補題1.7.1.5 線長量の自己同型写像と数比(I)

線長量L+の任意の自己同型写像φについて、次が成り立つ。
(1.1)
mφ(a)
=
φ(ma),  m ∈
(1.2)
1
n
φ(a)
=
φ(
1
n
a ),  n ∈
(1.3)
m
n
φ(a)
=
φ(
m
n
a ),  m,n ∈

証明

略■

補題1.7.1.7 線長量の自己同型写像と数比(II)

線長量L+の任意の元aと任意の自然数m,n,m',n'について、次が成り立つ。
(1.4)
m'
n'
(
m
n
a )
=
mm'
nn'
a
(1.5)
m
n
a +
m'
n'
a
=
mn'+m'n
nn'
a

証明

略■
 アルキメデス性を用いると線長量の稠密性を証明することができます。

補題1.7.1.10 線長量の稠密性

線長量L+の二元a,ba < bであるとき、任意の元c ∈ L+について自然数m,nが存在して、次が成り立つ。
a <
m
n
c < b

証明

n(b-a) > cなる自然数nをとれば
b >
1
n
c + a
となる。次に自然数の集合
{ k ∈ |
k
n
c > a }
の最小元をmとすると、
m - 1
n
c ≦ a,  
m
n
c > a
であるから
b >
m
n
c > a
 ここまでの準備によって、線長量L+の半加群としての自己同型群Aut(L+)と線長比RL+は一対一に対応するという次の定理を証明することができます。

定理1.7.1.13 線長比は線形変換群を成す

線長比RL+から線長量L+の自己同型群Aut(L+)への埋め込み写像
φ : RL+ longrightarrow Aut(L+),  a:b longmapsto φa:b
は全単射である。

証明

Aut(L+)に属する自己同型写像は一点で一致すれば等しいことを示す。φ1, φ2 ∈ Aut(L+)がある元aについてφ1(a) = φ2(a) = cを満たしているとする。このときある元bについてφ1(b) < φ2(b)であると仮定しよう。稠密性より、自然数m,nが存在して、
φ1(b) <
m
n
c < φ2(b)
となるが、補題より、
φ1(
m
n
a ) = φ2(
m
n
a ) =
m
n
c
であるから矛盾する。任意の自己同型写像φについて、L+の任意の元aをとり、b := φ(a)とすればφ = φb:aとなる。■
 以後、RL+Aut(L+)を同一視し、RL+の元を比と考えるときはa:bと書き、自己同型写像φa:bと考えるときは
b
a
c := φa:b(c),  c ∈ L+
と書くことにします。ここで注意すべきは自己同型写像φa:bが、a:bを慣例上の方法で分数と考えたときの逆比になっていることです。
 線長比は単なる線形変換ではなくて相似変換になっています。

命題1.7.1.17 線長比は相似変換

線長比は線長量L+上の変換として比を保存する。
c:d ∝
a
b
c :
a
b
d,  a,b,c,d ∈ L+

証明

略■
RL+は自己同型群、すなわち写像の合成に関して群になります。単位元は
1 :=
1
1
∈ RL+
で、
b
a
∈ RL+
に対して
a
b
∈ RL+
が逆元になります。これは比でいえば逆比に対応します。

命題1.7.2.2 線長比は可換群を成す

線長比RL+は可換群である。

証明

可換性を示す。a,b,c,d,s ∈ L+とすると、
a:b ∝
a
b
s : s,  c:d ∝
c
d
s : s
である。ここで二つの量の列
(
a
b
(
c
d
s ),
c
d
s, s ),   (
c
d
(
a
b
s ),
a
b
s, s )
は乱比例するから、命題V-23より、
a
b
(
c
d
s ) : s ∝
c
d
(
a
b
s ) : s
命題V-9より
a
b
(
c
d
s ) =
c
d
(
a
b
s )
 線長比RL+に加法を次のように導入します。
(1.6)
(
a
b
+
c
d
)s :=
a
b
s +
c
d
s,  a,b,c,d,s ∈ L+
L+が可差半加群であることから、RL+も可差半加群になります。さらに順序について次が成り立ちます。a,b,c,d ∈ L+とすると
a:b > c:d ⇔
a
b
c
d
a
b
s >
c
d
s, ∃ s ∈ L+
a
b
s >
c
d
s, ∀ s ∈ L+

命題1.7.2.6 線長比は可差半加群を成す

線長比RL+は可差半加群である。

証明

略■

命題1.7.2.8 線長比は分配律を満たす

線長比RL+は分配律を満たす。すなわち、λ,μ,ν ∈ RL+について次が成り立つ。
(1.7)
λ( μ + ν )
=
λ μ + λ ν
(1.8)
( λ + μ )ν
=
λ ν + μ ν

証明

略■

命題1.7.2.10 線長比の積の単調性

線長比RL+の積には次の性質がある。
(積の単調性) 任意の三元λ,μ,νについて λ < μ ⇒ λν < μν

証明

λ=μ+rとするとλν=(μ+r)ν=μν+rνであるからλν < μν

命題1.7.2.12 線長比のアルキメデス性

線長比RL+はアルキメデス的である。すなわち、任意の元λについて、λ < nなる自然数nが存在する。

証明

L+のアルキメデス性による。■

命題1.7.2.14 線長比における数比の稠密性

線長比RL+の二元λ,μλ < μであるとき、自然数m,nが存在して次が成り立つ。
λ <
m
n
< μ

証明

L+の稠密性による。■

系1.7.2.16

線長比RL+の閉包はアルキメデス的可差半環である。
 前小節の結果から、線長比RL+の閉包RL+は可差半環であり、対称化すればアルキメデス的順序環になることがわかりました。これは自然に線長量L+を対称化した順序加群Lの比であると考えることができます。線長量L+を対称化するとL = L+ ∪ {0} ∪ L-となりますが、この中で0でないものをL× = L+ ∪ L-とし、その直積集合を比の集合と考えます。
L× := { a:b | a,b ∈ L× }
そして比例の定義を次のように拡張します。

定義1.7.3.2 対称化無向量における比例関係

二つの比a:bc:dが比例するとは、任意の0でない整数m,nに対して次が成り立つことをいう。
ma > nb
mc > nd
ma = nb
mc = nd
ma < nb
mc < nd
 このような拡張によって、無向量の比に関する命題を自然に対称化無向量に拡張することができます。この比例類の集合をRL×と書くことにしましょう。
 線長比RL+を対称化したときの負の元は
-
a
b
,  a,b ∈ L+
と書くことができますが、これは、比としては
(-a):b = a:(-b) ∈ RL×
に対応し、L×上の変換としては正の部分を負の部分に、負の部分を正の部分に写す符号を反転する変換になります。
RL×の元は線長比の比例類と考えるよりは、その比例類が定める線長量L上の相似変換と考えるのが適切です。
RL := RL× ∪ {0}とおくと、これは線長比RL+の閉包を対称化したアルキメデス的順序環と同じものです。零元以外の元はすべて逆元をもちますから次が得られます。

定理1.7.3.7 線長比はアルキメデス的順序体

線長比RLはアルキメデス的順序体である。
 同じようにして数比+を対称化したものを有理数ゆうりすう, ratinal numberと呼ぶことにすれば次が得られます。

定理1.7.3.9 数比はアルキメデス的順序体

有理数はアルキメデス的順序体である。
 一般にアルキメデス的順序体Rの距離dは、絶対値を使って、
d(x,y) := |x - y|,  x,y ∈ R
と定めます。これは正値性、対称性、三角不等式を満たし、これにより収束概念やCauchy列、完備性を定義できます。実数論を認めれば、完備なアルキメデス的順序体は実数じっすう, real numberが唯一無二のものですから、すべてのアルキメデス的順序体は実数の部分順序体として埋め込むことができます。したがって、線長比RLは有理数を含む実数の部分順序体とみなすことができます。
⊂ RL
 命題VI-13「与えられた二つの直線の比例中項を見出すこと。」は、二つの線長量a,b ∈ L+が与えられたとき、
λ :=
b
a
=
c
a
b
c
,  
c
a
=
b
c
なる比例中項c ∈ L+が常に存在することを意味しています。この比例中項により分解された比を元の比の 平方根へいほうこん, square rootと呼び、
λ :=
c
a
と書きます。
 言い換えれば、線長比RL+の任意の元λについて、代数方程式
X2 = λ
RL+において一意的な解λを持ちます。RLで考えれば-λも解になりますから、解は± λとなります。
[1] 南雲 道夫, 量と実数, 数学セミナー, 1979.1~1979.2
数  学
有理数 ゆうりすう, ratinal number
実数 じっすう, real number
平方根 へいほうこん, square root
 
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