1.10節 角度論
著者:梅谷 武
語句:余弦, 正弦, 正接, 三角法, 円周率, 弧度法, 三角関数
ピュタゴラスの定理の拡張、三角法、弧度法について述べる。
作成:2009-08-28
更新:2021-03-21
直角三角形において、直角に対する辺上の正方形は直角を挟む辺上の正方形の和に等しい。
これは平面上の点
Oを始点とする線分
OPと線分
OQが直交するとき、線長量
a = [OP], b = [OQ],c = [PQ]の間に
という面積量の関係式が成り立つことを意味しています。
第II巻ではこれが拡張されます。命題II-12は鈍角三角形の場合です。
鈍角三角形において、鈍角に対する辺上の正方形は、鈍角を挟む二辺上の正方形の和より、鈍角を挟む一つの辺とその辺の延長へ下ろされた垂線までの延長部分によって定まる長方形の二倍だけ大きい。
これは平面上の点
Oを始点とする線分
OPと線分
OQのなす角
∠ POQが鈍角であるとき、
QRを
Qから
OPを
Pから
Oへ向かう方向へ延長した直線上へ下ろした垂線としたとき、線長量
a = [OP], b = [OQ], c = [PQ], d = [OR]の間に
c ⊗ c = a ⊗ a + b ⊗ b + 2 ( a ⊗ d )
|
という面積量の関係式が成り立つことを意味しています。
原論の証明は、
e = [QR]としたとき、
(a+d) ⊗ (a+d) = a ⊗ a + d ⊗ d + 2 (a ⊗ d)
|
の両辺に
e ⊗ eを加えると、ピュタゴラスの定理により、左辺は
c ⊗ cに等しく、右辺における
d ⊗ d + e ⊗ eは
b ⊗ bに等しいので求める関係式が成り立つ、となっています。
命題II-13は鋭角三角形の場合です。
鋭角三角形において、鋭角に対する辺上の正方形は、その鋭角を挟む二辺上の正方形の和より、鋭角を挟む一つの辺とその辺へ下ろされた垂線により分割される部分によって定まる長方形の二倍だけ小さい。
これは平面上の点
Oを始点とする線分
OPと線分
OQのなす角
∠ POQが鋭角であるとき、
QRを
Qから
OP上へ下ろした垂線としたとき、線長量
a = [OP], b = [OQ], c = [PQ], d = [OR]の間に
c ⊗ c = a ⊗ a + b ⊗ b - 2 (a ⊗ d)
|
という面積量の関係式が成り立つことを意味しています。
原論の証明は、命題II-7「直線が任意に分割されるとき、全体の直線上の正方形と一つの部分上の正方形の和は、全体とその部分が定める長方形の二倍と残りの部分上の正方形の和に等しい。」を使って、
d ⊗ d + a ⊗ a = 2 (a ⊗ d) + (a - d) ⊗ (a - d)
|
を導き、
e = [QR]とおいて両辺に
e ⊗ eを加えるとピュタゴラスの定理により、右辺における
(a-d) ⊗ (a-d) + e ⊗ eは
c ⊗ cに等しく、左辺における
d ⊗ d + e ⊗ eは
b ⊗ bに等しいので求める関係式が成り立つ、となっています。
ピュタゴラスの定理を鈍角あるいは鋭角に拡張するとき、
という面積量は正方形の和の過不足を補うものです。ここで
dという線長量は線長比
b:dを使って
と書くことができます。この比は角
∠ POQによって定まり、線長量
bには依存しません。この比のことを
余弦よげん, cosineといいます。同じように角度によってのみ定まる線長比
b:eを
正弦せいげん, sine、線長比
d:eを
正接せいせつ, tangentといいます。角度を
θで表わしたとき、正弦を
sin θ、余弦を
cos θ、正接を
tan θと書きます。
この記法を使うと
と書くことができますが、この面積量は角度
θと線長量
a,bの両方の要素を一度に合わせて表現できる便利なもので、後に二つのベクトルの関係性を測る内積へと拡張されることになります。
円は半径と円周と同じ長さの線分が直角を挟む辺となるような直角三角形に等しい。
証明
略■
アルキメデスの証明は原論の体系を踏襲していますので、原論を継承・発展させたものと認めることにし、円周や円弧の長さはアルキメデスの議論において定義されるものとします。
二つの円の半径を
r1, r2、円周を
l1, l2とし、面積の双線形を使うと
となり、円周が半径に比例することがわかります。
角θが与えられたとき、その頂点を中心とする半径rの円を描き、その円と角θの領域との交線である円弧をlとします。このとき、円周が直径に比例することと同じ論法によって同じ角度を挟む円弧が直径に比例することが証明できます。
したがって、角
θによって定まる線長比
r:lは半径
rのとり方によらずに定まります。角度をこのようにして定まる線長比によって表現する方法を
弧度法こどほう, circular methodといいます。弧度は直角を
∠Rで表すとき、
4∠Rが円周率
πで表されることを利用して、
πを基準にして表現されます。
1.1節において角度は半直線の組によって囲まれた領域であると定義しました。しかし、命題I-23『与えられた直線上に、与えられた直線角を作図すること。』により、二つの角度の加法を定義すると和が一回転を超えてしまうという問題が起こります。これは直角を∠Rで表すことにすると、和が4∠Rを超える場合があるということです。
このため角度そのものではなく、角度を定める半直線の回転の度合いを量W+として考えます。そうするとWはアルキメデス的可差半加群となり、代数的には線長量L+や面積量A+と同じ構造を持ちます。W+を対称化したものをWと書くことにしましょう。
角度を回転量に対応させるために、まず角度を定める半直線の一方を平面の正規直交基底の最初の軸の原点から正方向に合わせます。もう一方の半直線が反時計回りに回転する方向を正、その逆の時計回りに回転する方向を負と定めます。こうすると回転量Wの区間[0,4∠R)が図形としての角度と一対一に対応します。
正弦
sin θ、余弦
cos θ、正接
tan θは回転量
Wから線長比
RLへの関数と考えることができます。これらを
三角関数さんかくかんすう, trigonometric functionと呼びます。区間
[0,4∠R)内については角度としての線長比をとり、区間外の回転量
θについては
なる整数
nを求めて対応する角度の線長比をとるようにします。この定義から三角関数は
4∠Rを周期とする周期関数になることがわかります。
後で必要になる三角関数の公式をまとめておきます。
証明
略■
回転量Wも一次元線形空間になります。
回転量
Wは線長比
RL上の一次元線形空間であり、直角
∠Rを単位と定めると次のように表すことができる。
証明
略■
回転量を弧度法で表すこともできます。この場合は三角関数は線長比RLから線長比RLへの関数であり、2πを周期とする周期関数になります。三角関数を角度で表すか弧度法で表すかはそのときの文脈で決めるものとします。
人 物
ピュタゴラス Pythagoras, 前572頃-前494頃
アリスタルコス Aristarchus, 前310頃-前230頃
アルキメデス Archimedes, 前287頃-前212
数 学
余弦 よげん, cosine
正弦 せいげん, sine
正接 せいせつ, tangent
三角法 さんかくほう, trigonometry
円周率 えんしゅうりつ, circle ratio
弧度法 こどほう, circular method
三角関数 さんかくかんすう, trigonometric function