ユークリッド整域
著者:梅谷 武
語句:ユークリッド整域,倍元,約元,同伴,既約,既約元,可約,素元,極大イデアル,素イデアル,一意分解整域,公約元,最大公約元,公倍元,最小公倍元
ユークリッド整域について述べる。
作成:2006-05-18
更新:2013-06-14
 いろいろな計算をしていると整数と体上の多項式環が似ているということに気が付きますが、この似ているということがどういうことであるかを追求していくと次の性質にたどりつきます。

定義3.3.2 ユークリッド整域

 整域Rにおいて、0と異なる元aに対して負でない整数g(a)が対応させられていて次の条件を満たすとき、Rユークリッド整域ゆーくりっどせいいき, Euclidean domainという。
(1) 0でない元 a,b∈Rに対してg(ab) ≧ g(a)
(2) a,b(≠0)∈Rについてa = bq + rを成り立たせるq,r∈Rがただ一組だけ存在し、g(r) < g(b)r = 0である。
 整数や体上の多項式環がユークリッド整域であることはすぐにわかります。定理2.4.23において、整数が単項イデアル整域であることを証明しました。この証明は整数がユークリッド整域としての性質をもつということを根拠にして行われました。したがってこれはユークリッド整域に対しても成り立ちます。

命題3.3.4

 ユークリッド整域は単項イデアル整域である。

証明

I⊂Rを任意のイデアルとする。もしI={0}であればI=(0)であるから単項イデアルである。I≠{0}としよう。I0でない元についてg(b)が最小となるものをbとすると(b)⊂Iである。Iの任意の元aについてa = bq + rを成り立たせるq,r∈Rがただ一組だけ存在し、g(r)<g(b)r=0である。a, bq∈Iよりr=a-bq∈Iとなるが、ここでもしr≠0ならばg(r)<g(b)となり、g(b)が最小であることに矛盾する。したがってr=0である。a=bq∈(b)となり、(b)=Iであることが示された。■
 第2章において、素数という概念を1とその数以外に約数をもたない2以上の整数として定義し、定理2.5.3において素数の特徴付けとして、pを素数とするとp|ab ⇒ p|a または p|bであることを証明しました。これを定理2.4.32の双対性によりイデアルの言葉に翻訳すると、(p)⊊ℤを含むイデアルが自分自身としかないならば、(ab)⊆(p)ならば(a)⊆(p)または(b)⊆(p)が成り立つことを意味しています。
 一般の可換環について素数のような概念を定義することについて考えます。可換環Rの二つの元a,bがある元qによってa = bqと表されるとき、ab倍元ばいげん, multipleである、あるいはba約元やくげん, divisorであるといい、b|aと書くことにします。
 自然数においてはa|b, b|aならばa=bが成り立ち、整数の場合はa|b, b|aならばa=±bが成り立ちました。一般の可換環においてa|b, b|aであるとき、a,bは互いに同伴どうはん, associatedであるといい、a≈bと書くことにします。同伴であるという関係は同値関係になっています。可換環Rの単元はすべての元の約元で、a|ℇa, ℇa|aですからaℇaは同伴です。a|bならば(a)⊃(b)ですから、abが同伴であることと、それらが生成する単項イデアルが等しいこと、つまり(a) = (b)となることは同じことです。
 可換環R0でも単元でもない元aの約元が単元かaの同伴元に限るとき、a既約きやく, irreducibleである、あるいは既約元きやくげん, irreducible elemntであるといい、既約でない元を可約かやく, reducibleであるといいます。0でも単元でもない元pが任意の2元a,b∈Rについてp|abならばp|aまたはp|bであるという性質をもつときp素元そげん, prime elemntといいます。整数においては既約元を素数の定義とし、素数の性質として素元であることを証明しました。また素元が既約元であることも証明することができました。一般の可換環においては既約元と素元の概念は異なりますが、整域においては次のことが成り立ちます。

命題3.3.10

 整域において素元は既約元となる。

証明

 素元pについてp|abとするとp|aまたはp|bである。p|aとするとa=pcなる元cが存在する。p=pbcよりp(1-bc)=0となり、整域であることから1=bcとなりbは単元である。■
 この命題の逆は成り立ちません。例えば素因数分解の一意性が成り立たない例としてあげた ℤ[-5]において、1+-5は既約元ですが素元ではありません。しかし、単項イデアル整域についてはこの逆が成り立ちます。

命題3.3.13

 単項イデアル整域において既約元は素元となる。

証明

 既約元mについてm|abとする。(m,a)=(c)なるcが存在しm=c'cとなる。cmと同伴であるか単元である。同じく(m,b)=(d)なるdが存在しm=d'dとなる。dpと同伴であるか単元である。両方とも単元であるとすると
R = (c)(d) = (m,a)(m,b) ⊂ (m2,ma,mb,ab) ⊂ (m)
となり、mも単元となり仮定に矛盾する。したがってcdのどちらかがmと同伴であり、cが同伴であれば(m,a)=(m)となりa ∈(m)よりm|aとなり、dが同伴であれば(m,b)=(m)となりb ∈(m)よりm|bとなる。■
 一般の可換環RのイデアルM ⊊ Rを含むイデアルが自分自身かRしかないときに極大イデアルきょくだいいである, maximal idealといいます。また、イデアル℘ ⊊ Rが任意のイデアルα,β⊂Rについてαβ⊂℘ならばα⊂℘またはβ⊂℘であるときに素イデアルそいである, prime idealといいます。一般に可換環においてpが素元であることと(p)が素イデアルであることは同じことです。単項イデアル整域においてはmが既約元であることと(m)が極大イデアルであることは同じことです。
定理2.5.3は整数においては極大イデアルが素イデアルであると言い換えることができます。これは一般の可換環においても成り立ちます。整数においてはこの逆、すなわち、素イデアルは極大イデアルであるということも成り立ちますが、一般の可換環においては成り立ちません。上の命題は単項イデアル整域という条件下でこれが成り立つことを意味しています。

系3.3.17

 単項イデアル整域において素イデアルは極大イデアルとなる。
 次に一般の整域において、整数を素因数分解するように、任意の元を素元の積に分解することについて考えます。まず、整域における素元分解は一意的であることを示します。これは同じ元に関する2種類の素元分解p1 p2 ⋯ pr = q1 q2 ⋯ psがあったときに、r=sで適当に順序を入れ替えることによりpiqiが同伴であるようにすることができるということです。p1は素元ですからp1|qiなるqiが存在します。qiq1の番号を付け換えることでp1|q1と考えることができます。q1=u1p1と書けますがq1は整域の素元で既約元であることからu1は単元となり、p1q1は同伴です。これをp2からprから繰り返すことによって素元分解が一意的であることがわかります。

命題3.3.19

 整域における素元分解は一意的である。
0でも単元でもない元が必ず素元分解される整域を一意分解整域いちいぶんかいせいいき, unique factorization domainといいます。次の定理によって整数と同じように体上の多項式環においても素元分解できることがわかります。

定理3.3.21

 単項イデアル整域は一意分解整域である。

証明

 単項イデアル整域R0でも単元でもない元をaとする。もしaが既約元であればそれ自身が素元であるから、素元分解できている。aが既約元でないとすれば、a=stと単元でもなくaと同伴でもない2つの元に分解される。この2つの元のどちらかが既約元でないとしよう。既約元でない方をa1とすれば(a) ⊊ (a1)となる。a1について同様の操作を繰り返すことにより、(a)を含むイデアルの列(a) ⊊ (a1) ⊊ (a2) ⊊ ⋯ができる。この列は有限列である。なぜならばもし無限列であればその和集合∪(ai)はイデアルであり、∪(ai) = (b)なる元bが存在するが、それはある(an)に含まれ無限列であることに矛盾する。aの分解に現われるすべての既約でない元にこれを適用することによってaは有限個の既約元の積に分解され、これらは素元であるから、これが素元分解になる。■
 一意分解整域Rにおける素元全体の集合を同伴であるという同値関係で分割した商集合をPで表すことにしましょう。そうするとRの任意の元aは整数と同様に次のように書くことができます。
a = ℇ
 

p ∈P
pep(a) = ℇp1ep1(a)p2ep2(a) ⋯ prepr(a)
ここでRの単元です。この式でep(a)は素元paの素元分解における指数を表します。積はすべての素元の代表元にわたりますから、いわゆる無限積になりますが、指数が0でないのは有限個ですから実際には有限個の積です。
 整数の場合と同じように、公約元、最大公約元、公倍元、最小公倍元という言葉を定義します。整域R0でない元da,b ∈Rについてd|a,d|bとなっているときda,b公約元こうやくげん, common divisorであるといいます。さらにa,bの任意の公約元がdの約元であるとき、ab最大公約元さいだいこうやくげん, greatest common divisorといい、gcd(a,b)と書くことにします。
 整域R0でない元ma,b ∈Rについてa|m,b|mとなっているときma,b公倍元こうばいげん, common multipleといいます。さらにa,bの任意の公倍元の約元になっているときab最小公倍元さいしょうこうばいげん, least common multipleといい、lcm(a,b)と書くことにします。

命題3.3.26

 単項イデアル整域において、任意の2元a,bについてそれらの最大公約元d=gcm(a,b)、最小公倍元m=lcm(a,b)が存在して、(a,b)=(d),(a) ∩(b) = (m)となる。

証明

 演習とする。■
 整数の場合と同様に単項イデアル整域Rのイデアル全体の集合をℑ(R)で表すと順序集合(ℑ(R), ⊆)はモジュラー束になります。また、単項イデアル整域Rを同伴という同値関係で分割した商集合R/≈は関係|によりモジュラー束になり、整数における双対性は次のように拡張されます。

定理3.3.29

 単項イデアル整域Rにおいて、(R/≈, |)(ℑ(R), ⊆)aに対して(a)を対応させる写像によって1対1に対応する。この写像は順序を逆に写し、二つの束は双対となる。

証明

 演習とする。■
 最大公約元と最小公倍元の関係も次のように一般化されます。

系3.3.32

 単項イデアル整域Rにおける素元全体の集合を同伴であるという同値関係で分割した商集合をPで表す。a,b ∈Rの素元分解を
a = ℇ
 

p ∈P
pep(a)
, b = ℇ'
 

p ∈P
pep(b)
とする。ここでℇ, ℇ'Rの単元であり、p∈Pは代表元をを表している。このとき
ab
=
ℇℇ'
 

p ∈P
pep(a)+ep(b)
lcm(a,b)
=
η
 

p ∈P
pmax(ep(a),ep(b))
gcm(a,b)
=
η'
 

p ∈P
pmin(ep(a),ep(b))
となる。ここで、η, η'Rの単元であり、任意の整数s,tについて
max(s,t) = lc48
s,
s≧t
t,
s<t
, min(s,t) = lc48
s,
s≦t
t,
s>t
としている。この結果、次式が成り立つ。
ab ≈ gcm(a,b)lcm(a,b)
ここでは左辺と右辺が同伴であることを意味している。
 体k上の多項式環k[X]の場合を考えます。k[X]の任意の0でない多項式はその最高次数の係数で割ることにより、単多項式と同伴になります。したがって、単多項式をk[X]/≈{0}でない同伴な類の代表元とすることができます。言い換えれば、k[X]/≈{単多項式∈k[X]}∪{0}と1対1に対応します。

参考文献

[1] 松坂 和夫, 代数系入門, 岩波書店, 1976
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[2] ファン・デル・ヴェルデン, 現代代数学〈1〉, 商工出版社, 1959
[3] 藤崎 源二郎, 体とガロア理論, 岩波書店, 1997
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[4] 堀田 良之, 岩波講座 現代数学の基礎〈9〉環と体, 岩波書店, 2001
数  学
ユークリッド整域 ゆーくりっどせいいき, Euclidean domain
倍元 ばいげん, multiple
約元 やくげん, divisor
同伴 どうはん, associated
既約 きやく, irreducible
既約元 きやくげん, irreducible elemnt
可約 かやく, reducible
素元 そげん, prime elemnt
極大イデアル きょくだいいである, maximal ideal
素イデアル そいである, prime ideal
一意分解整域 いちいぶんかいせいいき, unique factorization domain
公約元 こうやくげん, common divisor
最大公約元 さいだいこうやくげん, greatest common divisor
公倍元 こうばいげん, common multiple
最小公倍元 さいしょうこうばいげん, least common multiple
 
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