はしがき
著者:梅谷 武
『ユークリッド原論』のはしがき。
作成:2006-07-12
更新:2024-11-04
 本文書はユークリッド原論の読み易い日本語訳をWeb上で公開することを目標としているものです。底本はPerseus Digital LibraryのJ.L.Heiberg版[1]とT.L.Heathによる英訳[2]ですが、Richard Fitzpatrickによるpublic domainの英訳も参考にしています。
 翻訳は日本語として意味がとおり、なおかつその意味が自分で理解できるようにすることを心がけました。また用語や概念については、既存の和訳を参考にしつつも、原本の考え方をなるべく尊重するようにしています。さらに直訳すると日本語として不自然になる場合には、より日本語らしい表現に直しています。今回の改訂にあたっては、2006年版公開後の解読作業*1や2008年に出版された新訳[8]も参考にして訳の見直しを行なうとともに数学用語の索引を付けました。
 原論は近代数学とは異なる立場をとっているために、翻訳する過程で近代的な解釈により意味が変化してしまうことがあります。この翻訳において、当初はおもに英訳を和訳するというやり方をとっていましたが、最近は少し慣れてきたこともあり、近代数学とは考え方が異なり、直訳が難しい箇所についてはなるべく古典ギリシア語で書かれた原文を読むようにしています。改訂にあたっては、原文を参照する際の手間を省くために、定義・公準・公理・命題の主張については原文対訳形式にしました。但し、証明についてはこの形式にすると論理の流れが読みにくくなるために訳文のみにしています。
 このようなことが可能になったのは、主要なブラウザにおいてギリシア語拡張領域に対応したフォントが標準装備されるようになったことに加えて、Perseus Digital LibraryにおいてUNICODE化された原文が公開されているおかげです。このサイトでは、原文テキストのすべての単語から、ハイパーリンクによりLiddell-Scott-Jonesの古典ギリシア語辞書[Web版]が引けるようになっており、このような便利なツールがなければ、古典ギリシア語の素養がまったくない人間が原文を読むことはなかったでしょう。この場を借りてタフツ大学(Tufts University)殿に感謝申し上げます。*2
 グラフィックスについては、旧サイトのJavascriptによるグラフィックス機能をほぼそのまま踏襲しています。これは2006年当時のクロスブラウザ環境向けに開発したもので、ブラウザ種別を自動判別し、SVGあるいはVMLを切り替えるというものですが、現在のIE8においても互換表示設定により表示させることができます。*3
 今回は新しい訳を付け加えていないので第VI巻までという現状には変わりありません。次の段階としてはVII,VIII,IXの三巻を加えようとしています。
 IE9の公開に伴い、Javascriptによるグラフィックス機能をHTML5準拠のSVGに統一しました。これにより、IE8以前では図を正しく見ることができなくなりました。
 リンク切れを次のような方針で修正しました。
  1. 参考文献のスポンサーサイトへのリンクは有効。
  2. 絶版になっているものはリンク無しで書誌情報のみ記載。
  3. 10年間リンクが変更されていない公的サイトへのリンクは有効。
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 本コンテンツ「ユークリッド原論」において外部リンクを参照しているのは本ページ「はしがき」のみです。
 リンク切れを修正し、文献を追加しました。
[1] Euclid(J.L.Heiberg), Euclidis Elementa, Leipzig. Teubner., 1883-1888
[2] Euclid(T.L.Heath), The Thirteen Books of Euclid's Elements, Digireads.com, 2010
[3] 彌永昌吉, 伊東俊太郎, 佐藤徹, 数学の歴史〈1〉ギリシャの数学, 共立出版, 1979
[4] 中村 幸四郎, 伊東俊太郎, 寺阪英孝, 池田美恵, ユークリッド原論 追補版, 共立出版, 2011
[5] アルパッド・サボー, ギリシア数学の始原, 玉川大学出版部, 1978
[8] 斎藤 憲, 三浦 伸夫, エウクレイデス全集〈第1巻〉原論1‐6, 東京大学出版会, 2008
[9] ベノ アルトマン, 数学の創造者―ユークリッド原論の数学, シュプリンガー・フェアラーク東京, 2002
[10] R.ハーツホーン, 幾何学I 現代数学から見たユークリッド原論, シュプリンガー・ジャパン, 2007
[11] R.ハーツホーン, 幾何学II 現代数学から見たユークリッド原論, シュプリンガー・ジャパン, 2008
[12] 梅谷 武, 幾何学事始, pisan-dub.jp, 2009
註  釈
*1このときの解読作業の結果の一部は『幾何学事始』第1章にまとめてあります。
*2このツールを使うにあたって最低限の語形変化や辞書の読み方等を事前に学習しておく必要がありますが、これについてもWeb上で日本語による情報を得ることができます。
*3HTML5はSVGを標準として採用していることから、HTML5への移行は容易に行なうことができます。また2Dだけでなく3Dグラフィックスの標準化も進められており、立体幾何の図はこの新しい規格で記述することを検討しています。
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Euclid(J.L.Heiberg), Euclidis Elementa, Leipzig. Teubner., 1883-1888