Fourier変換を学ぶ

梅谷 武
作成:2000-05-20 更新:2005-06-03
Fourier変換の学習記録
IMS:20000520001; NDC:413.66; keywords:Fourier変換;
目  次
1. Fourier解析を学ぶ(2000.6.30)
2. 「フーリエ解析大全」を読む(2000.7.15)
3. 部分群の左剰余類の定義について(2000.7.22)
4. 離散Fourier変換の抽象化(2000.8.18)
参考文献
1. Fourier解析を学ぶ(2000.6.30)
 多倍長整数の高速乗算のために高速Fourier変換の実験をすることが目的だったのですが、その前にFourier解析の基礎から応用までを一通り眺めてみようと思い立ちました。その理由として[A4],[A5],[A6]という魅力的な本を入手することができたことが大きいのですが、以前からディジタル信号処理にかかわる機会が多かったにもかかわらず、じっくり時間をかけて勉強することができずに、少し消化不良になっていたことも影響しています。
 [A1],[A2],[A3]が工学的な応用を意識して書いてあるのに対して、[A4],[A5],[A6]はそれぞれ難易度は異なるにしても論理を積み重ねていく数学の形式をとっているのが気に入っています。
 [A4],[A5],[A6]の難易度は
  1. [A4]:微分積分学を修了した程度(大学1〜2年生)
  2. [A5]:測度論やルベーク積分を修了した程度(大学3〜4年生)
  3. [A6]:関数解析や多様体論の基礎を修了した程度(大学4年生〜大学院生)
となっていて、ちょうどこの順番に勉強していくといいようです。
 [A4]の「フーリエ解析大全」は上下巻合わせて623ページという大作で、初等的な表現で書いてありますがFourier解析のあらゆる成果に言及しているのではないかというくらい内容が豊富です。全体は
  1. フーリエ級数
  2. 微分方程式
  3. 直交級数
  4. フーリエ変換
  5. フーリエ解析の発展
  6. フーリエ解析とその周辺
という6部構成になっており、その下の110項目の主題について講義形式で語っていくというものです。証明や結果の述べ方は数学として厳密に行なわれていますが、その厳密さを問題ごとに適切に使いわけているので大変読みやすくなっています。
 [A4]を7月中旬までに読みきって、8月の休みには高速Fourier変換の実験ができるような状況にしたいと計画しているのですが、仕事との兼ね合いもありますのでどうなるかはわかりません。
2. 「フーリエ解析大全」を読む(2000.7.15)
 なんとか「フーリエ解析大全」(上・下)を読み終えました。といってもだいぶ読み飛ばしたところがあるのですが。読んでみてわかったのですが、この本は微分・積分, 線形代数, 複素関数論, 群論や整数論の演習書としても使えるように書いてあるということです。さらには数学史の本としても読めそうです。Fourierがどういう人であったかはあまり知らなかったのですが、いろいろな数学の本に少しずつ書いてある人物評から思い浮かべていたイメージとはずいぶん違っていました。ガロアほどの悲劇性はないのですが、フランス革命に翻弄され、浮き沈みを繰り返したFourierの生涯には興味をそそられます。
 いくつか印象的だった部分について書いてみます。第T部第2章でフェイェルによるFourier級数の収束定理、すなわちRiemann可積分のとき連続な点でFourier級数のチェザロ極限が収束するという定理の証明で、フェイェル核が次のように書けるという補題をまず証明しています。
Kn(s)=
1
n+1
(sin((n+1)s/2)
sin(s/2)
)2, s≠0
この証明は本文で4行程度で簡単に終わっているのですが、その式変形の中に
n
Σ
r=-n
(n + 1 - |r|)exp(irs)=(n
Σ
k=0
exp(i(k - n/2)s)
)2
という1行がさりげなく書いてあるのですが、これは、
(n
Σ
k=0
exp(i(k - n/2)s)
)2
=
n
Σ
p,q=0
exp(i(p - n/2)s)exp(i(q - n/2)s)
=
n
Σ
p,q=0
exp(i(p + q - n)s)
が成り立ちますが、ここでn>0, -n≦r≦nのときに
p+q-n=rなる組(p,q),0≦p,q≦nの個数はn+1-|r|である。
が成り立つという意味でした。
 第V部第42章の補題42.1には初等解析幾何学と複素関数論による2つの証明が書いてあります。この前者は高校生でもわかるものなのですが、後者については複素関数論の教科書を読み直してやっと理解することができました。
 第Y部第96章から離散Fourier変換についての大変興味深い説明が書いてあります。多倍長整数の高速乗算法についても触れていて、私がやろうとしていた多項式の高速乗算法を利用する方法の説明もあったのですが、その最後に「このやり方自体かなり手間が省けるとはいえ、エレガントとはいえない。」と書いているのに、ストラッセンとショーンハーゲの方法があることを紹介するだけでしめくくられてしまいました。
 全般的に内容はすばらしいのですが、数式の誤植が多いのが残念です。
3. 部分群の左剰余類の定義について(2000.7.22)
 ストラッセン・ショーンハーゲ法を実装するために、多くの本に参考文献として紹介されているクヌースの本を発注しました。本が届く前に少し群論や整数論を復習しておこうと、手元にある本や学生時代の講義ノートを眺めていたのですが、意外なことに気がつきました。それは部分群の左剰余類の定義の左右が本によって異なっているということです。
 鈴木通夫さんの「群論」には群Gの部分群をHとしたときにHxを左剰余類、xHを右剰余類と定義してあります。ところが江沢洋・島和久「群と表現」にはxHが左剰余類であると定義してあるのです。以下に手元にある本で調べた結果をまとめてみます。
[Hx派]
  1. 鈴木通夫, 「群論(上)」, 岩波書店, 1977
  2. 浅野啓三・永尾汎, 「群論」, 岩波全書, 1965
  3. 都筑俊郎, 「群論への入門」, サイエンス社, 1977
  4. 上野健爾, 「代数入門1」, 岩波講座現代数学への入門, 1995
  5. 原田耕一郎, 「群の発見」, 岩波書店, 2001
[xH派]
  1. ファン・デル・ヴェルデン, 「現代代数学」, 東京図書, 1959
  2. Serge Lang, 「Algebra」, Addison-Wesley, 1977
  3. 松坂和夫, 「代数系入門」, 岩波書店, 1976
  4. 近藤武, 「群論I」, 岩波講座基礎数学, 1976
  5. 志賀浩二, 「群論への30講」, 朝倉書店, 1989
  6. 江沢洋・島和久, 「群と表現」, 岩波講座応用数学, 1994
  7. 山崎桂次郎, 「基礎代数」, 岩波講座応用数学, 1994
  8. 日本数学会編, 「岩波数学辞典第3版」, 岩波書店, 1991
 同じ岩波講座で2派に分かれているのが面白いところです。上記の「代数入門1」で上野健爾さんが、岩波数学辞典は「群論の伝統的用法に反している」と述べています。
4. 離散Fourier変換の抽象化(2000.8.18)
 複素数上あるいは整数の剰余環上の離散Fourier変換を統一的に議論できるように、一般の可換環上で離散Fourier変換を定義して、いろいろな性質を整理するという作業を行いました。
「離散Fourier変換」
参考文献
Fourier解析
[A1] 洲之内 源一郎, フーリエ解析とその応用, サイエンス社, 1977
[A2] 小柳 芳雄, フーリエ解析, 培風館, 1979
[A3] 木村 英紀, Fourier-Laplace解析, 岩波書店, 1993
[A4] T. W. Koerner(高橋 陽一郎訳), フーリエ解析大全(上), 朝倉書店, 1996
[A5] T. W. Koerner(高橋 陽一郎訳), フーリエ解析大全(下), 朝倉書店, 1996
[A6] 森本 光夫, 関数解析とフーリエ級数, 朝倉書店, 1996
[A7] 岡本 清郷, フーリエ解析の展望, 朝倉書店, 1997