1.3 平面幾何
著者:梅谷 武
語句:アフィン変換,アフィン変換群,アフィン幾何,ユークリッド幾何,合同幾何,相似幾何,等積幾何,合同変換,直交群,相似変換,等積変換,特殊線形群,運動群,回転群
平面幾何に関する用語と記号を整理する。
作成:2010-05-12
更新:2011-03-08
 平面上の変換、すなわち平面を点集合Eと考えたときのEからEへの全単射が、アフィン変換あふぃんへんかん, affine transformationであるとは、直線が直線に写され、さらに直線図形における辺の平行性が保存されることである。言い換えれば、平行四辺形を平行四辺形に写すことである。
 平面(E,V2)上にアフィン変換f:E → Eが与えられたとき、ベクトル空間V2のベクトルaに属する二つの有向線分AB,CDaにおいて端点の像をf(A)=E, f(B)=F, f(C)=G, f(D)=Hとすれば、有向線分の像はEF,GHとなるが、平行四辺形ABCDの像EFGHは平行四辺形であるから、
EFGH
が成り立つ。そこでφ(a) := [EF]と 定めるとφは有向線分の同値類、すなわりベクトルに対して定義され、 写像φ:V2V2を定める。

命題1.3.1.3

平面(E,V2)上のアフィン変換はベクトル空間V2上の正則な線形変換を誘導する。
 平面(E,V2)上のアフィン変換全体の集合は写像の合成に関して群を成すが、これをアフィン変換群あふぃんへんかんぐん, affine transformation groupと呼び、Affine(E)と書く。アフィン幾何あふぃんきか, affine geometryとはアフィン変換群の構造とアフィン変換で不変な性質について調べることである。
 平面上の並進はアフィン変換であり、並進群V2はアフィン変換群Affine(E)の正規部分群であり、原点Oを固定するアフィン変換全体のなす固定部分群は一般線形群GL(V2)である。

定理1.3.1.6 アフィン変換群の構造

アフィン変換群Affine(E)は、並進群V2に内部自己同型によって一般線形群GL(V2)を作用させた半直積に同型である。
Affine(E) ≅ V2 ⋊ GL(V2)
 アフィン変換を座標を使って表現する。平面(E,V2)において正規直交性をもつアフィン標構(O;e1,e2)を固定する。アフィン変換f:E → Eが与えられたとして、それに誘導される線形変換をφ:V2V2とし、座標原点と基底の像を座標表現する。
            f(O)
=
O + t1 e1 + t2 e2
φ(e1)
=
a11 e1 + a21 e2
φ(e2)
=
a12 e1 + a22 e2
任意の点Pを与え、その点Pと像f(P)を座標表現する。
                    P
=
O + p1 e1 + p2 e2
f(P)
=
O + p1' e1 + p2' e2
このとき、アフィン変換は次のように行列表現される。
lb96
p1'
p2'
1
rb96 = lb96
a11
a12
t1
a21
a22
t2
0
0
1
rb96 lb96
p1
p2
1
rb96
これによりアフィン変換群Affine(E)は次のように行列表現できる。
Affine(E) = lc96 lb96
a11
a12
t1
a21
a22
t2
0
0
1
rb96 mid96 lb72
a11
a12
a21
a22
rb72 ∈ GL(2,),  t1, t2 rc96
ここでGL(2,)は実数上の(2,2)正則行列全体のなす群である。
 同じアフィン変換によって、アフィン標構(O;e1,e2)を座標変換する。
    e1'
=
φ(e1)
e2'
=
φ(e2)
O'
=
f(O)
とおくと、(O';e1',e2')は一般には正規直交性を満たさない。任意の点Pを与え、その(O;e1,e2)による座標を(p1, p2)(O';e1',e2')による座標を(p1', p2')とすると、次が成り立つ。
lb96
p1
p2
1
rb96 = lb96
a11
a12
t1
a21
a22
t2
0
0
1
rb96 lb96
p1'
p2'
1
rb96
これによりアフィン変換を与えたときに、それによる図形変換と座標変換は互いに逆変換になっていることがわかる。
 平面上の距離や付随するベクトル空間のノルムや内積を使って図形を測るような幾何の問題を考える分野全般は、原論で展開される幾何に相当するためにユークリッド幾何ゆーくりっどきか, Euclidean geometryと呼ばれる。ユークリッド幾何はアフィン変換群の部分群である合同変換群・相似変換群・等積変換群にそれぞれ対応する合同幾何ごうどうきか, congruent geometry相似幾何そうじきか, similar geometry等積幾何とうせききか, equivalent geometryに分類される。
 平面上の合同変換ごうどうへんかん, congruent transformationとは直線図形を合同な直線図形に写すもののことである。特に平行四辺形は平行四辺形に写すから合同変換はアフィン変換である。

命題1.3.2.4 合同変換

平面(E,V2)において、アフィン変換f:E → Eが合同変換であるためには次が必要十分である。
d(P,Q) = d(f(P),f(Q)),  ∀ P,Q ∈ E

命題1.3.2.5

合同変換から誘導される線形変換はノルムと内積を保存する。
 原点Oを固定する合同変換全体のなす固定部分群は、内積を保存する線形変換の成す直交群ちょっこうぐん, orthogonal groupO(V2)である。

定理1.3.2.7 合同変換群の構造

合同変換群Cong(E)は、並進群V2に内部自己同型によって直交群O(V2)を作用させた半直積に同型である。
Cong(E) ≅ V2 ⋊ O(V2)
O(2) := { A ∈ GL(2,) ∣ tA A = A tA = E2 }
とおくと、合同変換群Cong(E)は次のように行列表現できる。
Cong(E) = lc96 lb96
a11
a12
t1
a21
a22
t2
0
0
1
rb96 mid96 lb72
a11
a12
a21
a22
rb72 ∈ O(2),  t1, t2 rc96
 平面上の相似変換とは直線図形を相似な直線図形に写すもののことである。相似変換は「角度を保存すること」そして「線長比を保存すること」によって特徴付けられる。

定義1.3.2.11 相似変換

平面(E,V2)において、平面E上のアフィン変換f相似変換そうじへんかん, similar transformationであるとは、次の条件を満たすことである。
(1) 線長比を保存する。i.e. AB:ACf(A)f(B):f(A)f(C),  ∀ A,B,C ∈ E
(2) 角度を保存する。i.e. ∠ BAC = ∠ f(B)f(A)f(C),  ∀ A,B,C ∈ E

定理1.3.2.12 相似変換群の構造

相似変換群Similar(E)は、 並進群V2に内部自己同型によって線長比のなす乗法群+と直交群O(V2)の直積を作用させた半直積に同型である。
Similar(E) ≅ V2 ⋊ (+ × O(V2))
 相似変換群Similar(E)は次のように行列表現できる。
Similar(E) = lc96 lb96
ra11
ra12
t1
ra21
ra22
t2
0
0
1
rb96 mid96 r ∈ +lb72
a11
a12
a21
a22
rb72 ∈ O(2),  t1, t2 rc96
 平面(E,V2)において、直線図形の面積を保存するアフィン変換を等積変換とうせきへんかん, equivalent transformationという。
 等積変換群の原点の固定部分群は、外積のノルムを保存する線形変換の成す群Eq(V2)である。

定理1.3.2.17 等積変換群の構造

等積変換群Equiv(E)は、並進群V2に内部自己同型によってEq(V2)を作用させた半直積に同型である。
Equiv(E) ≅ V2Eq(V2)
               Eq(2,)
:=
{ A ∈ GL(2,) ∣
det A
= 1 }
=
Eq+(2,) ∪ Eq-(2,)
Eq+(2,)
:=
{ A ∈ Eq(2,) ∣ det A = 1 }
Eq-(2,)
:=
{ A ∈ Eq(2,) ∣ det A = - 1 }
とおくと、Eq+(2,)Eq(2,)の正規部分群であり、特殊線形群とくしゅせんけいぐん, special linear groupと呼ばれ、通常SL(2,)と表記される。Eq-(2,)は部分群にはならない。等積変換群Equiv(E)は次のように行列表現できる。
Equiv(E) = lc96 lb96
a11
a12
t1
a21
a22
t2
0
0
1
rb96 mid96 lb72
a11
a12
a21
a22
rb72Eq(2,),  t1, t2 rc96
 ユークリッド幾何における運動とは、平面上の図形を合同変換によって連続的に動かすことをいう。言い換えれば、運動とは合同変換群の単位元からの道のことである。したがって、平面における運動全体の集合、すなわち平面の運動群うんどうぐん, motion groupは合同変換群の単位元を含む弧状連結成分のことである。
 原点Oを固定する合同変換全体のなす固定部分群は、内積を保存する線形変換の成す直交群O(V2)であり、その単位元を含む弧状連結成分は原点Oを中心とする回転群SO(V2)である。

定理1.3.2.22 運動群の構造

平面における運動群Motion(E)は、並進群V2に内部自己同型によって回転群SO(V2)を作用させた半直積に同型である。
Motion(E) ≅ V2 ⋊ SO(V2)
 回転行列の全体は直交群の単位元を含む弧状連結成分であり、回転群かいてんぐん, rotation groupSO(2)と呼ばれる。
SO(2) := { A ∈ GL(2,) | tA A = A tA = E2,  det A = 1 }
運動群Motion(E)は次のように行列表現できる。
Motion(E) = lc96 lb96
a11
a12
t1
a21
a22
t2
0
0
1
rb96 mid96 lb72
a11
a12
a21
a22
rb72 ∈ SO(2),  t1, t2 rc96
 アフィン変換群の部分群の包含関係をまとめると次のようになる。
 
 
Affine(E)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
Equiv(E)
Similar(E)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
Cong(E)
 
 
 
 
 
 
 
 
Motion(E)
 
 
これらの群は並進群V2との半直積になっているので、その剰余群をとると次のようになる。
 
 
GL(V2)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
Eq(V2)
+×O(V2)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
O(V2)
 
 
 
 
 
 
 
 
SO(V2)
 
 
[1] 梅谷 武, 幾何学事始, pisan-dub.jp, 2009
数  学
アフィン変換 あふぃんへんかん, affine transformation
アフィン変換群 あふぃんへんかんぐん, affine transformation group
アフィン幾何 あふぃんきか, affine geometry
ユークリッド幾何 ゆーくりっどきか, Euclidean geometry
合同幾何 ごうどうきか, congruent geometry
相似幾何 そうじきか, similar geometry
等積幾何 とうせききか, equivalent geometry
合同変換 ごうどうへんかん, congruent transformation
直交群 ちょっこうぐん, orthogonal group
相似変換 そうじへんかん, similar transformation
等積変換 とうせきへんかん, equivalent transformation
特殊線形群 とくしゅせんけいぐん, special linear group
運動群 うんどうぐん, motion group
回転群 かいてんぐん, rotation group
 
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