1.1 無向量
著者:梅谷 武
語句:線長量,線長比,単位,測定値,座標,測定,分割等積,補充等積,面積量,面積比,回転量,極限等積,体積量,体積比
無向量に関する用語と記号を整理する。
作成:2010-05-10
更新:2011-03-08
 線分の合同による等長類として定義される線長量せんちょうりょう, length quantityL+は、アルキメデス的可差半加群という代数構造を持つ。可差半加群の対称性より、L+を正の部分とする順序加群Lに拡大することができる。
 線長量L+の比である線長比せんちょうひ, length ratioRL+の閉包RL+はアルキメデス的可差半環であり、対称化すればアルキメデス的順序環RLとなる。RLは有理数を含む完備なアルキメデス的順序体であり、代数的には実数と同一視できる。
 線長量Lは実数上の一次元線形空間である。
 線長量L+のある元u単位たんい, unitとして定めるとき、線長比
a
u
∈ RL
aの単位uに関する測定値そくていち, measured valueあるいは座標ざひょう, coordinateという。
 線長量Lにおいて単位u ∈ L+を定めるとき、これによるノルムを次のように定める。
a
= lc144
a
u
,
a
L+
0,
a
=
0
-
a
u
,
a
L-
このとき、線長量Lu = 1であるノルム空間となる。
 単位を定めて線分の長さを測定そくてい, measureすることは次の写像で表現することができる。
u-1 : L longrightarrow ,  a longmapsto
a
u
これは等長類aを基底uで座標表現し、その座標に対応させる写像であり、実線形形式となっている。逆に任意のL上の実線形形式はある単位の測定写像となっている。
 平面上の直線図形について考える。
 二つの直線図形が分割等積ぶんかつとうせきであるとは、それらを適当に直線図形に分割すると、それぞれで分割した図形の集合が一対一に対応し、なおかつ対応する図形どうしが合同等積であるようにすることができることである。
 二つの直線図形が補充等積ほじゅうとうせきであるとは、それらが合同な直線図形から合同な直線図形を引いたものあるいは加えたものに等しいことをいう。さらにこの定義において補充する図形の等積性を補充等積にしたもの、あるいは分割等積における分割図形の等積性を補充等積にしたものも補充等積であるという。
 合同等積ならば分割等積であり、分割等積ならば補充等積である。
 直線図形の等積性を補充等積によって定義する。直線図形の等積類として定義される面積量めんせきりょう, area quantityA+は、アルキメデス的可差半加群であり、A+を正の部分とする順序加群Aに拡大することができる。
 面積量A+の比である面積比めんせきひ, area ratioRA+の閉包RA+はアルキメデス的可差半環であり、対称化すればアルキメデス的順序環RAとなる。RAは有理数を含む完備なアルキメデス的順序体であり、代数的には実数と同一視できる。
 面積量Aは実数上の一次元線形空間である。
 すべての直線図形は長方形に等積変形できる。
 面積量Aは線長量Lの対称テンソル積であり、A = L ⊗ Lと書ける。
 面積量A = L ⊗ Lにおいて、u ∈ L+を定めてu ⊗ uを単位とする。これによるノルムを次のように定める。
a ⊗ b
= lc144
a
u
b
u
,
a ⊗ b
A+
0,
a ⊗ b
=
0
-
a
u
b
u
,
a ⊗ b
A-
このとき、面積量Au ⊗ u = 1であるノルム空間となる。
 単位を定めて面積を測る測定写像は次のようになる。
(u ⊗ u)-1 : A longrightarrow ,  a ⊗ b longmapsto
a
u
b
u
これは等積類a ⊗ bを基底u ⊗ uで座標表現し、その座標に対応させる写像であり、実線形形式となっている。逆に任意のA上の実線形形式はある単位の測定写像となっている。
 角度を定める半直線の回転の度合いにより定義される回転量かいてんりょう, rotational quantityW+はアルキメデス的可差半加群であり、W+を正の部分とする順序加群Wに拡大することができる。
 角度を弧度法により半径と弧の線長比として表わすとき、回転量は実数と同一視できる。特に断らない限り、角度は弧度法により表現し、回転量を実数と同一視する。
 正弦sin θ、余弦cos θ、正接tan θは区間[0,2π)上の線長比として定義されるが、区間外の回転量θについて
θ + 2nπ ∈ [0,2π)
なる整数nを求めて対応する線長比をとるように定義すると、これらを実数上で定義された三角関数とすることができる。三角関数は2πを周期とする周期関数である。
 空間内の立体図形について考える。
 二つの立体図形が分割等積であるとは、それらを適当に立体図形に分割すると、それぞれで分割した立体の集合が一対一に対応し、なおかつ対応する立体どうしが合同等積であるようにすることができることである。
 二つの立体図形が補充等積であるとは、それらが合同な立体図形から合同な立体図形を引いたものあるいは加えたものに等しいことをいう。さらにこの定義において補充する図形の等積性を補充等積にしたもの、あるいは分割等積における分割図形の等積性を補充等積にしたものも補充等積であるという。
 二つの立体図形が極限等積きょくげんとうせきであるとは、それぞれに限りなく近づく立体図形列で、互いに補充等積であるようなものを構成することができることをいう。
 合同等積ならば分割等積であり、分割等積ならば補充等積であり、補充等積ならば極限等積である。
 正四面体は直方体に分割等積ではない。
 多面体が補充等積ならば分割等積である。
 立体図形の等積性を極限等積によって定義する。立体図形の等積類として定義される体積量たいせきりょう, volume quantityD+は、アルキメデス的可差半加群であり、D+を正の部分とする順序加群Dに拡大することができる。
 体積量D+の比である体積比めんせきひ, volume ratioRD+の閉包RD+はアルキメデス的可差半環であり、対称化すればアルキメデス的順序環RDとなる。RDは有理数を含む完備なアルキメデス的順序体であり、代数的には実数と同一視できる。
 体積量Dは実数上の一次元線形空間である。
 すべての多面体は直方体に極限等積である。
 体積量Dは線長量Lの対称テンソル積であり、D = L ⊗ L ⊗ Lと書ける。
 体積量D = L ⊗ L ⊗ Lにおいて、u ∈ L+を定めてu ⊗ u ⊗ uを単位とする。これによるノルムを次のように定める。
a ⊗ b ⊗ c
= lc144
a
u
b
u
c
u
,
a ⊗ b ⊗ c
D+
0,
a ⊗ b ⊗ c
=
0
-
a
u
b
u
c
u
,
a ⊗ b ⊗ c
D-
このとき、体積量Du ⊗ u ⊗ u = 1であるノルム空間となる。
 単位を定めて体積を測る測定写像は次のようになる。
(u ⊗ u ⊗ u)-1 : D longrightarrow ,  a ⊗ b ⊗ c longmapsto
a
u
b
u
c
u
これは等積類a ⊗ b ⊗ cを基底u ⊗ u ⊗ uで座標表現し、その座標に対応させる写像であり、実線形形式となっている。逆に任意のD上の実線形形式はある単位の測定写像となっている。
[1] 梅谷 武, 幾何学事始, pisan-dub.jp, 2009
数  学
線長量 せんちょうりょう, length quantity
線長比 せんちょうひ, length ratio
単位 たんい, unit
測定値 そくていち, measured value
座標 ざひょう, coordinate
測定 そくてい, measure
分割等積 ぶんかつとうせき
補充等積 ほじゅうとうせき
面積量 めんせきりょう, area quantity
面積比 めんせきひ, area ratio
回転量 かいてんりょう, rotational quantity
極限等積 きょくげんとうせき
体積量 たいせきりょう, volume quantity
体積比 めんせきひ, volume ratio
 
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