3.6節 岩澤分解
著者:梅谷 武
語句:上三角行列, 剪断, 拡大縮小, 岩澤分解
一般線形群を岩澤分解することによって、アフィン変換を分類する。
作成:2009-09-10
更新:2021-03-28
 一般線形群GL(2,)の任意の元に右から回転行列をかけて、上三角行列うえさんかくぎょうれつ, upper triangular matrixにすることができます。
lb72
a
b
c
d
rb72 lb72
cos θ
-sin θ
sin θ
cos θ
rb72 = lb72
e
f
0
g
rb72
このためには
(左辺) = lb72
acos θ + bsin θ
-asin θ + bcos θ
ccos θ + dsin θ
-ccos θ + dcos θ
rb72
より、
c cos θ + d sin θ = 0
なるθを求めればいいのですが、これには次のようにします。
c cos θ
=
-d sin θ
c2 cos2 θ
=
d2 sin2 θ
c2 cos2 θ
=
d2 (1 - cos2 θ)
(c2+d2)cos2 θ
=
d2
cos θ
=
±
d
c2+d2
このθは一意的には定まらず、正弦・余弦の値の正負を選ぶことができます。
 上三角行列は1軸に関する剪断せんだん, shear拡大縮小かくだいしゅくしょう, scalingに分解することができます。
lb72
e
f
0
g
rb72 = lb72
1
r
0
1
rb72 lb72
x
0
0
y
rb72
 1軸に関する剪断行列全体は一般線形群GL(2,)の部分群を成します。これを剪断群せんだんぐん, shearing groupShear(2)と呼ぶことにします。
Shear(2) := lc72 lb72
1
r
0
1
rb72 ∈ GL(2,) mid72 r ∈ rc72
これは加法群としてのに同型です。
lb72
1
r
0
1
rb72 lb72
1
s
0
1
rb72
=
lb72
1
r+s
0
1
rb72
lb72
1
r
0
1
rb72 lb72
1
-r
0
1
rb72
=
lb72
1
0
0
1
rb72          
 拡大縮小行列全体は一般線形群GL(2,)の部分群を成します。1軸あるいは2軸に関する鏡映を含まないようにするために、拡大縮小のための比例倍は正に限ったものを拡大縮小群かくだいしゅくしょうぐん, scaling groupScale(2)と呼ぶことにします。
Scale(2) = lc72 lb72
x
0
0
y
rb72 ∈ GL(2,) mid72 x,y ∈ + rc72
Shear(2) Scale(2)GL(2,)の部分群になっています。
lb72
1
r
0
1
rb72 lb72
x
0
0
y
rb72 lb72
1
s
0
1
rb72 lb72
a
0
0
b
rb72
=
lb72
1
r
0
1
rb72 lb72
x
0
0
y
rb72 lb72
1
s
0
1
rb72 lb72
x-1
0
0
y-1
rb72 lb72
x
0
0
y
rb72 lb72
a
0
0
b
rb72
=
lb72
1
r + sxy-1
0
1
rb72 lb72
ax
0
0
by
rb72
lb72
1
r
0
1
rb72 lb72
x
0
0
y
rb72 lb72
x-1
0
0
y-1
rb72 lb72
1
-r
0
1
rb72 lb72
x
0
0
y
rb72 lb72
x-1
0
0
y-1
rb72
=
lb72
1
0
0
1
rb72
 任意の平面上のアフィン変換は次のように(3,3)正則行列で表現される線形変換と平行移動の積に分解されます。
lb96
a11
a12
t1
a21
a22
t2
0
0
1
rb96 = lb96
1
0
t1
0
1
t2
0
0
1
rb96 lb96
a11
a12
0
a21
a22
0
0
0
1
rb96
ですから、(2,2)正則行列
lb72
a11
a12
a21
a22
rb72
がどのような変換であるかがわかれば、平行移動を合成することによってそのアフィン変換で図形がどのように変換されるかがわかります。
 これまでの結果をまとめると(2,2)正則行列を剪断・拡大縮小・鏡映・回転の積に一意的に分解できることを証明することができます。

定理3.6.2.3 岩澤分解

一般線形群GL(2,)の任意の元は剪断・拡大縮小・鏡映・回転の積に一意的に分解することができる。すなわち、
lb72
a11
a12
a21
a22
rb72 ∈ GL(2,)
とすると、r ∈ ,  x,y ∈ +,  θ ∈ [0,4∠R)が一意的に存在して次のいずれかが成り立つ。
lb72
a11
a12
a21
a22
rb72
=
lb72
1
r
0
1
rb72 lb72
x
0
0
y
rb72 lb72
cos θ
-sin θ
sin θ
cos θ
rb72
lb72
a11
a12
a21
a22
rb72
=
lb72
1
r
0
1
rb72 lb72
x
0
0
y
rb72 lb72
-1
0
0
1
rb72 lb72
cos θ
-sin θ
sin θ
cos θ
rb72
これを岩澤分解いわさわぶんかい, Iwasawa decompositionと呼ぶ。さらに、一般線形群GL(2,)は剪断群Shear(2)、拡大縮小群Scale(2)、鏡映群Ref(2)、回転群SO(2)の直積に位相空間として同相である。
GL(2,) ≅ Shear(2) × Scale(2) × Ref(2) × SO(2)

証明

分解の可能性と一意性はすでに示されている。同相であることの証明は省略する。■
 定理の後半は群としての同型ではないことに注意してください。後の計算の都合上、本来の岩澤分解と逆の順番にしています。また、計算を簡単にするためにGram-Schmidtの直交化法ではなく、Givens回転を使っています。
[1] K. Iwasawa, On some types of topological groups, Ann. of Math., vol.50, 507-557, 1949
[2] 小林 俊行, 大島 利雄, Lie群とLie環(岩波講座 現代数学の基礎17), 岩波書店, 1999
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数  学
上三角行列 うえさんかくぎょうれつ, upper triangular matrix
剪断 せんだん, shear
拡大縮小 かくだいしゅくしょう, scaling
剪断群 せんだんぐん, shearing group
拡大縮小群 かくだいしゅくしょうぐん, scaling group
岩澤分解 いわさわぶんかい, Iwasawa decomposition
 
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