3.5節 運動幾何
著者:梅谷 武
語句:回転行列, 回転群, 鏡映, 位相群, 道, 弧状連結, 運動群
位相群を定義し、回転群が直交群の単位元を含む弧状連結成分であることを述べ、運動群の構造を決定する。
作成:2009-09-10
更新:2021-03-28
 前節において合同変換群の原点の固定部分群は直交群O(V2)に一致することがわかりました。ここでは直交群の構造を2次行列表現O(2)で考えます。
O(2) = { A ∈ GL(2,) ∣ tA A = A tA = E2 }
より、
lb72
a
b
c
d
rb72 lb72
a
c
b
d
rb72 = lb72
1
0
0
1
rb72,     lb72
a
b
c
d
rb72 ∈ O(2)
これを成分の関係式にすると
a2 + b2 = 1,  c2 + d2 = 1,  ac + bd = 0
最初の二式から、α, β ∈ [0,4∠R)が一意的に存在して、
sin α = a,  cos α = b,  sin β = c,  cos β = d
となり、最後の式より、
sin α sin β + cos α cos β = cos ( α - β ) = 0
ですから、
α = β + ∠R  or  β + 3∠R
となり、βθと書き直せば
lb72
a
b
c
d
rb72 = lb72
cos θ
-sin θ
sin θ
cos θ
rb72   or   lb72
-cos θ
sin θ
sin θ
cos θ
rb72
が成り立ちます。最初の解は行列式が1であり、図形を反時計回りにθだけ回転させる回転行列かいてんぎょうれつ, rotation matrixです。
 回転行列の全体は直交群の部分群であり、回転群かいてんぐん, rotation groupSO(2)と呼ばれます。
SO(2) = { A ∈ GL(2,) | tA A = A tA = E2,  det A = 1 }
二番目の解は、
lb72
-1
0
0
1
rb72 lb72
cos θ
-sin θ
sin θ
cos θ
rb72
と2軸に関して左右対称に裏返す鏡映きょうえい, reflectionと回転に分解することができます。
 この鏡映が生成する位数2の部分群をRef(2)と書くことにしましょう。直交群は鏡映群と回転群の直積に分解することができます。

定理3.5.1.6 直交群の構造

直交群O(2)は鏡映群Ref(2)と回転群SO(2)の直積に同型である。
O(2) ≅ Ref(2) × SO(2)
 行列を位相群として考えるために、実数上の(n,n)行列全体をM(n,)に 次のようにノルムを導入します。
A
:= i,j aij2,  A = (aij) ∈ M(n,)

命題3.5.2.2 行列のノルム

M(n,)上のノルムは次の性質を満たす。
(N1) A0,  A ∈ M(n,)かつA = 0 ⇔ A = 0
(N2) λ A = λ A,  A ∈ M(n,), λ ∈
(N3) A + BA + B,  A,B ∈ M(n,)

証明

略■
 このノルムにより、M(n,)上に距離を定義することができます。
d(A,B) :=
A - B
,  A,B ∈ M(n,)

定義3.5.2.5 位相群

G位相群いそうぐん, topological groupであるとは、次の性質を満たすことである。
(TG1) Gは位相空間である。
(TG2) G × G → G,  (a,b) ↦ abは連続である。
(TG2) G → G, a ↦ a-1は連続である。
 位相空間という概念を定義していませんが、ここでは距離が定義されていることと考えてかまいません。

命題3.5.2.7

一般線形群とその部分群は位相群である。

証明

略■
 次に位相空間の連結性を定義しますが、ここでは弧状連結性として定義します。多様体上では連結性と弧状連結性が一致することがわかっており、ここで論じている線形Lie群も多様体です。

定義3.5.2.10 道

平面上の線分[A,B]から位相空間Xへの連続写像p:[A,B] → Xを、p(A)p(B)を結ぶみち, pathと呼ぶ。

定義3.5.2.11 弧状連結

位相空間Xの任意の二点を結ぶ道が存在するとき、 X弧状連結こじょうれんけつ, path-connectedであるという。

命題3.5.2.12

Xが弧状連結な位相空間であり、f:X → Yが連続写像ならば、f(X)も弧状連結である。

証明

略■

命題3.5.2.14

X,Yが位相空間であるとき、次が成り立つ。
X × Y は弧状連結 ⇔ X, Y は弧状連結

証明

略■
 平面上において、一点だけからなる集合は弧状連結ですが、二点以上の有限集合は弧状連結ではありません。一般線形群の中で鏡映群Ref(2)は弧状連結ではありません。連続写像
[0,4∠R) longrightarrow SO(2),  θ longmapsto lb72
cos θ
-sin θ
sin θ
cos θ
rb72
は全単射になるので、SO(2)は弧状連結です。
 ユークリッド幾何における運動とは、平面上の図形を合同変換によって連続的に動かすことをいいます。言い換えれば、運動とは合同変換群の単位元からの道のことです。したがって、平面における運動全体の集合、すなわち平面の運動群うんどうぐん, motion groupは合同変換群の単位元を含む弧状連結成分に他なりません。
 平面に付随するベクトル空間の回転群を次のようにおきます。
(3.1)
SO(V2) := lc96 lb96
a11
a12
0
a21
a22
0
0
0
1
rb96 mid96 lb72
a11
a12
a21
a22
rb72 ∈ SO(2) rc96
運動群の原点の固定部分群は回転群SO(V2)に一致します。

定理3.5.3.4 運動群の構造

平面における運動群Motion(E)は、平行移動群Trans(E)に内部自己同型によって回転群SO(V2)を作用させた半直積に同型である。
Motion(E) ≅ Trans(E) ⋊ SO(V2)
[1] 山内 恭彦, 杉浦 光夫, 連続群論入門, 培風館, 1960
[2] 横田 一郎, 群と位相, 裳華房, 1971
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[3] 平井 武, 線形代数と群の表現(I), 朝倉書店, 2001
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数  学
回転行列 かいてんぎょうれつ, rotation matrix
回転群 かいてんぐん, rotation group
鏡映 きょうえい, reflection
位相群 いそうぐん, topological group
みち, path
弧状連結 こじょうれんけつ, path-connected
運動群 うんどうぐん, motion group
 
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