3.1節 群論からの準備
著者:梅谷 武
語句:群, 同型写像, 自己同型, 内部自己同型, 半直積
群の作用と自己同型群、半直積についてまとめる。
作成:2009-09-05
更新:2021-03-28
群論の初歩はすでに学んでいるものと仮定しますが、使う用語については簡単に復習しながら進めることにしましょう。
集合
Gが
群ぐん, groupであるとは、その二元
a, bについて乗法
ab ∈ Gが定義されており、次の性質を満たすことをいう。
(結合律)
| 任意の三元a,b,cについて(ab)c = a(bc) |
(単位元)
| 単位元1 ∈ Gが存在し、任意の元aについてa1 = 1a = a |
(逆元)
| 任意の元aについて逆元a-1が存在してaa-1 = a-1a = 1 |
さらに次の可換律を満たすとき
可換群かかんぐん, commutative groupという。
(可換律)
| 任意の2元a,bについてab = ba |
乗法を加法に置き換えた加法群も定義しておきます。
集合
Gが
加法群かほうぐん, additive groupあるいは
加群かぐん, moduleであるとは、その二元
a, bについて加法
a + b ∈ Gが定義されていて次の性質を満たすことをいう。
(結合律)
| 任意の3元a,b,cについて(a + b) + c = a + (b + c) |
(零元)
| 零元0 ∈ Gが存在し、任意の元aについてa + 0 = 0 + a = a |
(逆元)
| 任意の元aについて逆元-aが存在してa + (-a) = (-a) + a = 0 |
(可換律)
| 任意の2元a,bについてa + b = b + a |
これから平面や空間に作用する変換群について考えますが、まず群が集合に作用するということを定義しておきます。この概念は最初にバーンサイドが『有限群論』で抽象的に群を定義したときに用いたもので、群の実相をより具体的に示すものです。
群
Gが集合
Ωに左から作用するとは、
G × Ωから
Ωへの写像
G × Ω Ω, (g,x) g ∘ x
|
が定義されていて、次の性質を満たすことをいう。
(1)
| g ∈ Gを固定したときx ↦ g ∘ xは全単射である。
|
(2)
| 1 ∈ Gと任意の元x ∈ Ωについて1 ∘ x = x |
(3)
| Gの任意の二元g,hと任意の元x ∈ Ωについて(gh) ∘ x = g ∘ (h ∘ x) |
群
Gが集合
Ωに右から作用するとは、
Ω × Gから
Ωへの写像
Ω × G Ω, (x,g) x ∘ g
|
が定義されていて、次の性質を満たすことをいう。
(4)
| g ∈ Gを固定したときx ↦ x ∘ gは全単射である。
|
(5)
| 1 ∈ Gと任意の元x ∈ Ωについてx ∘ 1 = x |
(6)
| Gの任意の二元g,hと任意の元x ∈ Ωについてx ∘ (gh) = (x ∘ g) ∘ h) |
左からの作用と右からの作用の違いに注意してください。可換群、特に加法群については左からの作用と右からの作用の意味が一致します。
集合Ω上の全単射全体の集合は写像の合成により群となりますが、これをS(Ω)と書くことにします。群Gが集合Ωに左から作用するということは、群Gから群S(Ω)への準同型を与えることと同じことです。
群
Kから群
Hの自己同型群
Aut(H)への準同型
ℐが与えられたとしましょう。
ℐ : K Aut(H), k ℐk
|
準同型ですから、
が成り立ち、
Kの
Hへの左からの作用が自然に定義されます。
K × H H, (k,h) k ∘ h := ℐk(h)
|
これを群の群への作用と定義します。群の集合への作用よりも条件が強くなっていることに注意してください。
群の半直積の概念はややわかりにくいのですが、変換群の構造を理解するためには避けては通れない部分ですので、ここでは計算の過程を示しながら説明していきます。
群
Kが群
Hへ左から作用しているとき、直積集合
G = H × Kにおける乗法を上の記号を使って次のように定義します。
(h1,k1)(h2,k2) := (h1 ℐk1(h2), k1 k2 )
|
これが群となることを確かめましょう。結合律を示します。
| | (h1 ℐk1(h2), k1 k2 )(h3,k3) |
|
| | (h1 ℐk1(h2)ℐk1k2(h3), k1 k2 k3 ) |
|
| | (h1 ℐk1(h2) ℐk1ℐk2(h3)), k1 k2 k3 ) |
|
| | (h1 ℐk1(h2 ℐk2(h3)), k1 k2 k3 ) |
|
| | (h1,k1)(h2 ℐk2(h3), k2 k3 ) |
|
| | |
単位元は
(1,1)で、
(h,k)の逆元は
(ℐk-1(h-1),k-1)となります。
| | |
| | (h ℐkk-1(h-1), 1) = (1, 1) |
|
| | (ℐk-1(h-1) ℐk-1(h) , k-1 k) |
|
| | (ℐk-1(h-1 h), 1) = (1, 1) |
|
Hは
Gの正規部分群になっています。
(h,k)(x,1)(ℐk-1(h-1),k-1) |
| | (h ℐk(x), k)(ℐk-1(h-1),k-1) |
|
| | (h ℐk(x) ℐkℐk-1(h-1), k k-1) |
|
| | |
Kは
Gの正規部分群であるとは限りません。
(h,k)(1,y)(ℐk-1(h-1),k-1) |
| | (h ℐk(1), ky)(ℐk-1(h-1),k-1) |
|
| | (h ℐkyℐk-1(h-1), k y k-1) |
|
| | |
ここまでの結果を命題としてまとめておきます。
群
Kが群
Hへ左から作用しているとき、すなわち、群
Kから群
Hの自己同型群
Aut(H)への準同型
ℐが与えられているとき、直積集合
G = H × Kにおける乗法を次のように定義すると群になる。
(h1,k1)(h2,k2) := (h1 ℐk1(h2), k1 k2 )
|
このとき、
Hは
Gの正規部分群で
G/H ≅ Kとなる。群
Gを
Hと
Kの
半直積はんちょくせき, semidirect productといい、
G = H ⋊ Kと書く。
ある群が二つの部分群の半直積になっていることを確認する方法について次に述べます。
群
Gの正規部分群
Hと部分群
Kが次の条件を満たしているとする。
(1)
| G = HK := {hk|h ∈ H, k ∈ K} |
(2)
| H ∩ K = { 1 } |
Kを内部自己同型
Ikにより
Hに作用させて半直積
H ⋊ Kを作ったとき、
H ⋊ K G, (h,k) hk
|
は同型となる。
証明
準同型であること:
(1)は全射であることを意味しているから単射であることを示す。
h1k1=h2k2ならば、
h2-1h1 = k2-1k1 ∈ H ∩ Kであるから、(2)より
h1=h2, k1=k2■
[
3] 原田 耕一郎,
群の発見, 岩波書店, 2001
[
4] 寺田 至, 原田 耕一郎,
群論, 岩波書店, 2006
数 学
群 ぐん, group
可換群 かかんぐん, commutative group
加法群 かほうぐん, additive group
加群 かぐん, module
準同型写像 じゅんどうけいしゃぞう, homomorphism
同型写像 どうけいしゃぞう, isomorphism
同型 どうけい, isomorphic
自己同型写像 じこどうけいしゃぞう, automorphism
自己同型群 じこどうけいぐん, automorphism group
内部自己同型 ないぶじこどうけい, inner automorphism
内部自己同型群 ないぶじこどうけいぐん, inner automorphism group
半直積 はんちょくせき, semidirect product