3.4節 中心極限定理
著者:梅谷 武
語句:弱収束,確率収束,法則収束,特性関数,中心極限定理
Borel確率測度の弱収束と分布の収束について述べる。確率密度のFourier変換である特性関数を使った中心極限定理の証明の概略を示す。
作成:2012-01-25
更新:2012-02-12

定義3.4.1.1 弱収束

 距離空間(S,d)上のBorel確率測度列n}n∈がBorel確率測度μ弱収束じゃくしゅうそく, weak convergentするとは、S上の任意の有界連続関数fに対して次が成り立つことである。
 
lim
n → ∞
 
 
S
f(x)μn(dx)
=
 
 
S
f(x)μ(dx)

命題3.4.1.2

 距離空間(S,d)上のBorel確率測度n}n∈, μについて次は同値である。
(ⅰ) μn → μ(弱収束)
(ⅱ)
 
lim
n → ∞
 
 
S
f(x)μn(dx)
=
 
 
S
f(x)μ(dx)
, ∀ f:有界かつ一様連続
(ⅲ)
 
limsup
n → ∞
μn(F)
≦ μ(F), ∀ F ⊂ S:閉集合
(ⅳ)
 
limsup
n → ∞
μn(U)
≧ μ(U), ∀ U ⊂ S:開集合
(ⅴ)
 
lim
n → ∞
μn(A)
= μ(A), ∀ A ∈ B(S):μ(∂ A) = 0

証明

演習とする。■

命題3.4.1.4

(,B1)上の確率測度n}n∈, μと対応する分布関数{Fn}, Fについて次は同値である。
(ⅰ) μn → μ(弱収束)
(ⅱ)
 
lim
n → ∞
Fn(x)
= F(x), ∀ x ∈ :Fの連続点

証明

演習とする。■

定義3.4.1.6 確率収束

 確率空間(Ω,F,P)上の確率変数列{Xn}n∈が確率変数X確率収束かくりつしゅうそく, convergent in probabilityするとは確率測度Pについて測度収束することである。

定義3.4.1.7 法則収束

n ∈ について確率空間n,Fn,Pn)上の確率変数Xnが与えられ、さらに確率空間(Ω,F,P)上の確率変数Xが与えられているとき、{Xn}X法則収束ほうそくしゅうそく, convergent in distributionするとは対応する分布列Xn}が分布μXに弱収束することである。

命題3.4.1.8

 確率空間(Ω,F,P)上の確率変数列{Xn}n∈が確率変数Xに確率収束すれば法則収束する。

証明

演習とする。■
 同一確率空間上での確率変数列の収束については
概収束 ⇒ 確率収束 ⇒ 法則収束
Lp収束 ⇒ 確率収束 ⇒ 法則収束
が成り立つ。
 概収束、Lp収束、確率収束は一つの確率空間上の問題であるが、法則収束は異なる確率空間上の確率変数列に対しても定義することができる。これについて次の定理により、一つの確率空間内の問題に帰着できることがわかっている。

定理3.4.1.12

 距離空間(S,d)上のBorel確率測度n}n∈, μについて、μnμに弱収束するとき、ある確率空間(Ω,F,P)上の確率変数列{Xn}n∈と確率変数Xが存在して、μn = μXn, μ = μXでかつXnXに概収束する。

証明

演習とする。■
 定数と符号は異なるが実質的に特性関数はFourier変換である。

定義3.4.2.2 特性関数

(d,Bd)上の確率測度μに対して、その特性関数とくせいかんすう, characteristic functionφμを次のように定義する。
φμ(ξ)
 
 
d
eiξxμ(dx)
, ξd

命題3.4.2.3

(d,Bd)上の二つの確率測度μ,νの特性関数φμνについて
φμ(ξ) = φν(ξ), ∀ξd
が成り立つならばμ = νである。

証明

演習とする。■
 確率空間(Ω,F,P)上の確率変数Xについて
E[exp(iξX)] = φμX(ξ), ξ ∈
確率変数X = (X1, ⋯, Xd)について
E[exp(iξx)] = φμX(ξ), ξd
が成り立つ。

命題3.4.2.6

 確率空間(Ω,F,P)上の確率変数列{X1, ⋯, Xn}が独立であるための必要十分条件は任意の1, ⋯, ξn) ∈ nについて、次が成り立つことである。
E[exp(i1X1+⋯+ξnXn))] = E[exp(iξ1X1)]⋯E[exp(iξnXn)]

証明

演習とする。■

定理3.4.2.8

(d,Bd)上の確率測度n}, μについて、μnμに弱収束するための必要十分条件は対応する特性関数が各点収束すること、すなわち次が成り立つことである。
 
lim
n → ∞
φμn(ξ)
= φμ(ξ), ξd

証明

演習とする。■
 どのような分布でもその和をとっていけば正規分布に近づいていくというのが中心極限定理ちゅうしんきょくげんていり, central limit theoremである。

定理3.4.3.2 中心極限定理

 独立で同分布をもつ二乗可積分の確率変数列{Xn}n∈において、m = E[X1], σ2 = V[X1]とする。平均0、分散1に標準化した確率変数のn項までの和をnで割った
Yn
1
n
n

k = 1
Xk - m
σ
は標準正規分布N(0,1)に法則収束する。

証明

 証明の概略を記す。
Xn' =
Xn - m
σ
と変換することにより、m = 0, σ2 = 1の場合に帰着する。独立同分布であることから
E[exp(i1Y1+⋯+ξnYn))] = E[exp(iξ1Y1)]n
が成り立つ。これがN(0,1)の特性関数と等しいことを示せばよい。これはt = ξ1とおいて
 
lim
n → ∞
Ela48explb48i
t
n
X1rb48ra48n
= explb48
t2
2
rb48, t ∈
と書くことができる。この証明は
Ela48explb48i
t
n
X1rb48ra48 = 1 -
t2
2n
+ olb48
1
n
rb48 (n → ∞)
が成り立つことと
 
lim
n → ∞
lb48 1 -
t2
2n
rb48n
= exp
t2
2
による。■

系3.4.3.4

 上の条件のもとでの任意の区間(a,b]で次が成り立つ。
 
lim
n → ∞
Plb48 a <
Sn - nm
σn
≦ b rb48
=
1
b
 
a
exp
t2
2
dt
Sn
n

k = 1
Xk

証明

 区間の境界は測度0集合であるから命題3.4.1.2より。■
数  学
弱収束 じゃくしゅうそく, weak convergent
確率収束 かくりつしゅうそく, convergent in probability
法則収束 ほうそくしゅうそく, convergent in distribution
特性関数 とくせいかんすう, characteristic function
中心極限定理 ちゅうしんきょくげんていり, central limit theorem