2.1節 漸近近似の基礎
著者:梅谷 武
語句:低位,高位,高々同位,同位,漸近的減少列,漸近展開,主要部,剰余,Bernoulli数,Bernoulli多項式,Euler-Maclaurinの公式,Eulerの定数
確率論では数値計算のために漸近近似の手法がよく使われる。漸近近似の基本概念であるLandauの記号と漸近展開を定義し、便利な道具であるEuler-Maclaurinの公式について述べる。次節でこの応用例としてStarlingの公式を証明する。
作成:2012-01-14
更新:2012-02-16
dあるいはの領域D上で考える。f,gD上の関数、aDの内点、gD内部のaのある近傍からaを除外した集合上で0ではないとする。このとき、xaに近づけたときの二つの関数の関係を三種類に分類する。

定義2.1.1.2 低位と高位

 
lim
x → a, x ≠ a
f(x)
g(x)
= 0
を満たすならば、
f = o(g) (x → a)
と書き、fgより低位ていい, lower orderである、あるいはgfより高位こうい, higher orderであるという。

定義2.1.1.3 高々同位

 
lim sup
x → a, x ≠ a
f(x)
g(x)
< ∞
を満たすならば、
f = O(g) (x → a)
と書き、fg高々同位たかだかどうい, at most same orderであるという。

定義2.1.1.4 同位

 
lim
x → a, x ≠ a
f(x)
g(x)
= 1
を満たすならば、
f ∼ g (x → a)
と書き、fg同位どうい, same orderであるという。

例2.1.1.5

a > b > 0のとき次が成り立つ。
(ⅰ) log x = o(xb) (x → ∞)
(ⅱ) xb = o(xa) (x → ∞)
(ⅲ) xa = o(ex) (x → ∞)

例2.1.1.6

(ⅰ) sin x ∼ x (x → 0)
(ⅱ) cos x ∼ 1 (x → 0)
(ⅲ) tan x ∼ x (x → 0)
(ⅳ) ex - 1 ∼ x (x → 0)

定義2.1.2.1 漸近的減少列

 関数列k}k=0,1,2,⋯漸近的減少列ぜんきんてきげんしょうれつ, asymptotic sequenceであるとは、次の条件を満たすことである。
φk+1 = o(φk) (x → a), k=0,1,2,⋯

定義2.1.2.2 漸近展開

 関数faにおけるn次の漸近展開ぜんきんてんかい, asymptotic expansionとは、fの漸近的減少列k}k=0,1,2,⋯による次のような展開のことである。
f =
n

k = 0
ckφk
+ o(φn) (x → a)
このとき、c0φ0主要部しゅようぶ, principal partf - ∑kckφk剰余じょうよ, remainderという。

例2.1.2.3 Taylor展開

上の関数faの近傍でn-1回微分可能でf(n)(a)が存在するときのn次のTaylor展開
f(x) =
n

k = 0
fk(a)
k!
(x-a)k
+ o((x-a)n) (x → a)
faにおけるn次の漸近展開である。
Bernoulli数べるぬーいすう, Bernoulli numberとは冪和公式の係数として現れる数であり、漸化式
k

j=0
(k+1
j
)
Bj
= k + 1, k = 0,1,2,⋯
により定義され、関・Bernoulliの冪和公式
n

i=1
ik
=
k

j=0
(k
j
)
Bj
nk+1-j
k+1-j
, k = 0,1,2,⋯
を満たす。この詳細については『整数論事始』第4章を参照のこと。
 Bernoulli数には上のBnのように定義する流儀と(-1)nBnと定義する流儀の2種類があるので注意が必要である。高木貞治たかぎていじ, 1875-1960Donald E.Knuthクヌース, 1938-は著書・論文において後者の定義を使っている。ここでは関孝和せきたかかず, 1642?-1708Jacob Bernoulliヤコブ・ベルヌーイ, 1654-1705による本来の定義を採用している。

定義2.1.3.3 Bernoulli多項式

Bernoulli多項式べるぬーいたこうしき, Bernoulli polynomialとは次式で定義される有理係数多項式のことである。
Bn(x)
n

j=0
(-1)j
(n
j
)
Bjxn-j
, n = 0,1,2,⋯

命題2.1.3.4

(ⅰ) Bn(1) = Bn, n ≧ 0
(ⅱ) Bn(0) = Bn(1) = Bn, n ≠ 1, n ≧ 0
(ⅲ) Bn(x+1) - Bn(x) = nxn-1, n ≧ 0
(ⅳ) Bn'(x) = nBn(x), n ≧ 1
(ⅴ) Bn(1-x) = (-1)nBn(x), n ≧ 0
(ⅵ)


n = 0
Bn(x)
tn
n!
=
text
et - 1

証明

演習とする。■
h(x)を区間[0,1]上のCm級関数(m>1)とし、部分積分の公式
 
 
 
u'vdx
= uv -
 
 
 
uv'dx
u = B1(x), v = h(x)に適用すると
1
 
0
h(x)dx
=
la48 B1(x)h(x) ra48
1
 
0
1
 
0
B1(x)h'(x)dx
=
1
2
( h(1) + h(0) ) -
1
 
0
B1(x)h'(x)dx
右辺の末尾の積分に着目し、u = 1/2B2(x), v = h'(x)に部分積分の公式を適用する。
1
 
0
B1(x)h'(x)
=
la48
1
2
B2(x)h'(x)ra48
1
 
0
1
 
0
1
2
B2(x)h''(x)dx
これを代入して整理する。
1
 
0
h(x)dx
=
1
2
( h(1) + h(0) ) -
1
2
la48 B2(x)h'(x) ra48
1
 
0
+
1
2
1
 
0
B2(x)h''(x)dx
これを繰り返すことにより、次の補題が得られる。

補題2.1.3.7

h(x)が区間[0,1]上のCm級関数(m>1)であるとき、次が成り立つ。
1
 
0
h(x)dx
=
1
2
(h(1)+h(0)) -
m-1

k = 1
Bk+1
(k+1)!
(h(k)(1)-h(k)(0))
+
(-1)m
m!
1
 
0
Bm(x)h(m)(x)dx
 次の定理はEuler-Maclaurinの公式おいらーまくろーりんのこうしき, Euler-Maclaurin's formulaと呼ばれ、Starlingの公式を始めとしてさまざまな和を近似する一般的な方法である。漸近近似や数値計算に利用されている。

定理2.1.3.9 Euler-Maclaurin

a,b∈, a≦b, m∈とし、区間[a,b]上の関数fCm級であるとき、次が成り立つ。
b

n = a
f(n)
=
b
 
a
f(x)dx
+
1
2
(f(a) + f(b)) +
m-1

k = 1
Bk+1
(k+1)!
(f(k)(b)-f(k)(a))
(-1)m
m!
b
 
a
Bm(x-[x])f(m)(x)dx

証明

 補題においてh(x) f(x + n), a ≦ n < bとし、Bm(x-[x])により区間[0,1]における値を使えば次が得られる。
1
2
(f(n+1)+f(n))
=
n+1
 
n
f(x)dx
+
m-1

k = 1
Bk+1
(k+1)!
(f(k)(n+1)-f(k)(n))
(-1)m
m!
n+1
 
n
Bm(x-[x])f(m)(x)dx
これのn = aからn = b - 1までの和に1/2(f(a) + f(b))を足せば結論が得られる。■
f(x)
1
x
にEuler-Maclaurinの公式を適用する。
N

n = 1
1
n
=
N
 
1
1
x
dx
+
1
2
( 1 +
1
N
) +
m-1

k = 1
Bk+1
(k+1)!
(1-
1
Nk+1
)
N
 
1
Bm(x-[x])x-1-mdx
ここで
N
 
1
1
x
dx
= log N
であることから
N

n = 1
1
n
log N
=
1
2
( 1 +
1
N
) +
m-1

k = 1
Bk+1
(k+1)!
(1-
1
Nk+1
)
N
 
1
Bm(x-[x])x-1-mdx
この左辺をn → ∞としたときの極限がEulerの定数おいらーのていすう, Euler's constantである。次の命題はこれが収束することを主張する。

命題2.1.4.2

γ
 
lim
n → ∞
N

n = 1
1
n
log N
は収束する。

証明

 
lim
n → ∞
N
 
1
Bm(x-[x])x-1-mdx
が収束することを示せばよい。Bm(x-[x])[0,1]区間の値であるから有界である。したがって
 
lim
n → ∞
N
 
1
x-1-mdx
が収束するかどうかに帰着するが
 
lim
n → ∞
N
 
1
x-1-mdx
=
 
lim
n → ∞
1
m
lb48 1 -
1
Nm
rb48
=
1
m
である。■
 Eulerの定数についてはよくわかっておらず、無理数かどうかも知られていない。現在は計算機により20000桁以上計算されている。
γ = 0.57721566490153286060651209008240243 ⋯
[1] 梅谷 武, 整数論事始, pisan-dub.jp, 2006
[2] 荒川恒男, 金子昌信, 伊吹山知義, ベルヌーイ数とゼータ関数, 牧野書店, 2001
img
 
 
[3] 高木 貞治, 解析概論 改訂第3版, 岩波書店, 2010
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初版1938年、第2版1943年、第3版1961年。
 
[4] グレアム, クヌース, パタシェニク, コンピュータの数学, 共立出版, 1993
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人  物
高木貞治 たかぎていじ, 1875-1960
Donald E.Knuth クヌース, 1938-
関孝和 せきたかかず, 1642?-1708
Jacob Bernoulli ヤコブ・ベルヌーイ, 1654-1705
 
数  学
低位 ていい, lower order
高位 こうい, higher order
高々同位 たかだかどうい, at most same order
同位 どうい, same order
漸近的減少列 ぜんきんてきげんしょうれつ, asymptotic sequence
漸近展開 ぜんきんてんかい, asymptotic expansion
主要部 しゅようぶ, principal part
剰余 じょうよ, remainder
Bernoulli数 べるぬーいすう, Bernoulli number
Bernoulli多項式 べるぬーいたこうしき, Bernoulli polynomial
Euler-Maclaurinの公式 おいらーまくろーりんのこうしき, Euler-Maclaurin's formula
Eulerの定数 おいらーのていすう, Euler's constant