1.6節 Fourier解析
著者:梅谷 武
語句:トーラス,Fourier係数,Fourier級数,余弦係数,正弦係数,全変動,有界変動,Dirichret核,Cesàro和,Fejér核,Fourier係数,Fourier級数,Fourier変換,Fourier逆変換,Fourier変換,Fourier逆変換
Fourier解析の全体像を整理する。一変数Fourier級数についてはやや丁寧に、超関数のFourier展開まで述べる。Fourier変換についてはいろいろな関数空間の同型写像としての性質をまとめる。
作成:2012-01-05
更新:2012-02-11
 一次元トーラスとーらす, torusT /2πは加法に関する位相Abel群として、絶対値1の複素数が成す乗法群である単位円と同型である。
T longrightarrow S1 {z∈|
z
=1} ⊂ *, t (mod 2π) longmapsto eit
一次元トーラス上の関数は実数上の周期の関数と同一視することができる。LpノルムはFourier級数を扱いやすいよう次のように定数倍しておく。
f
p lb48
1

 
0
f(t)
pdt
rb48
1
p

定義1.6.1.2 Fourier級数

f ∈ L1(T)に対し、そのFourier係数ふーりえけいすう, Fourier coefficientを次のように定義する。
f(n)
1

 
0
f(t)eintdt
, n ∈
fFourier級数ふーりえきゅうすう, Fourier series展開を次のように定義する。


n = -∞
f(n)eint
 オイラーの公式eit = cos t + i sin tを使うとFourier級数は三角関数で表現できる。

命題1.6.1.4 三角関数表現

f ∈ L1(T)に対し、そのFourier級数と係数は次のように表現できる。


n = -∞
f(n)eint
=
1
2
a0 +


n = 1
an cos nt + bn sin nt
an =
1
π

 
0
f(t) cos ntdt
, n= 0,1,⋯
bn =
1
π

 
0
f(t) sin ntdt
, n= 1,2,⋯
f(0) =
1
2
a0, f(n) =
ani bn
2
, n ≧ 1
an余弦係数よげんけいすう, cosine coefficientbn正弦係数せいげんけいすう, sine coefficientという。

証明

演習とする。■

命題1.6.1.6

f ∈ L1(T)が実数値であれば余弦係数と正弦係数は実数であり、さらにfが偶関数ならば正弦係数は0、fが奇関数ならば余弦係数は0となる。

証明

演習とする。■
 Fourier級数は必ずしも収束するとは限らない。
SN[f](t)
N

n = -N
f(n)eint
=
1
2
a0 +
N

n = 1
an cos nt + bn sin nt
とおいたとき、
f(t) =
 
lim
N → ∞
SN[f](t)
がどのような関数空間で成り立つかということに関して、多くの成果が得られている。
 まず、収束の十分条件については次が成り立つ。

定理1.6.1.10

f ∈ L1(T)のFourier係数f(n)


n = -∞
f(n)
< ∞
を満たせばSN[f]は一様収束する。この条件は余弦係数an、正弦係数bnに関する次の条件と同等である。


n = 0
an
< ∞,


n = 1
bn
< ∞

証明

演習とする。■
 級数の各項は連続であるから、収束すれば連続関数に収束することがわかる。関数への収束についてはLebesgueの仕事が基本となる。

定義1.6.1.13 有界変動関数

 実数の有界閉区間[a,b]上で定義されている関数について、区間[a,b]の分割Δ:x0=a<x1<⋯<xn=bに関する変動
VΔ(f)
n

i = 1
f(xi)-f(xi-1)
の上限
 
sup
Δ
VΔ(f)
を区間[a,b]上のf全変動ぜんへんどう, total variationという。これが有限のとき、fは区間[a,b]上で有界変動ゆうかいへんどう, bounded variationであるという。

補題1.6.1.14

 有界変動関数は二つの単調非減少関数の差として表わすことができる。

証明

演習とする。■

定理1.6.1.16 Lebesgue

f,g ∈ L1(T)が同じFourier級数をもてばほとんど至る所で等しい。
f = g a.e.

証明

演習とする。■

定理1.6.1.18 Jordan-Lebesgue

f ∈ L1(T)が有界変動であれば、各点t ∈ T
 
lim
N → ∞
SN[f](t)
=
f(t+0) + f(t-0)
2
特に連続点では
f(t) =
 
lim
N → ∞
SN[f](t)
が成り立つ。fが区間[a,b]で連続かつ有界変動であれば、その内部(a,b)に含まれる任意の閉区間上でSN[f]fに一様収束する。

証明

演習とする。■

定理1.6.1.20 区分的に滑らか

f ∈ L1(T)が区分的に滑らかであるとき、すなわち、有限個以外の点でC1級で、f'が区分的に連続な関数に拡張できるとき、SN[f]fに一様収束する。

証明

演習とする。■
 一次元トーラスT上のL2空間L2(T)は内積
〈 f, g 〉
1

 
0
f(t)g(t)dt
により定める。L.Carleson(1966)による次のものが、関数の範囲でのFourier級数の収束に関する最終的な結果である。

定理1.6.1.23 L2空間

L2(T)において{eint}n∈は完全正規直交系であり、任意のf ∈ L2(T)についてSN[f]fL2収束し、次が成り立つ。
f
22 =


n = -∞
f(n)
2

証明

演習とする。■

定義1.6.1.25 絶対収束数列

l2() { {cn}n∈ | cn,


n = -∞
cn
< ∞ }
に次のような内積を定義する。
〈 c, d 〉


n = -∞
cn dn

補題1.6.1.26

l2()はHibert空間である。

証明

演習とする。■

定理1.6.1.28

L2(T) longrightarrow l2(), f longmapsto {f(n)}n∈
は内積空間としての同型写像であり、これにより二つの空間はユニタリ同値となる。
L2(T) ≅ l2()

証明

演習とする。■
D(T)TがコンパクトであるからFréchet空間となる。

定理1.6.1.31 C空間

f ∈ D(T)のとき、SN[f]fD(T)の位相で収束する。

証明

演習とする。■

命題1.6.1.33 急減小数列

S() { {cn}n∈ | cn,
 
sup
 
{ (1+
n
)k
cn
| n ∈ }
< ∞, ∀ k > 0 }
l2()の線形部分空間である。

証明

演習とする。■

定理1.6.1.35

D(T)) longrightarrow S(), f longmapsto {f(n)}n∈
は線形同型写像である。
D(T) ≅ S()

証明

演習とする。■

定義1.6.1.37 超関数

超関数T ∈ D'(T)に対するFourier係数を
T(n) 〈 T, eint
により定義する。TのFourier級数展開は次のように定義する。


n = -∞
T(n)eint
f ∈ D(T)を超関数と考えるとき、線形汎関数を次のように定義する。
〈 f, φ 〉
1

 
0
f(t)φ(t)dt
, φ ∈ D(T)
これにより関数としてのFourier展開と超関数としてのFourier展開が一致する。

定理1.6.1.39 超関数

T ∈ D'(T)のとき、SN[T]TD'(T)の位相で収束する。

証明

演習とする。■

命題1.6.1.41 緩増加数列

S'() { {cn}n∈ | cn,
 
sup
 
{ (1+
n
)-k
cn
| n ∈ }
< ∞, ∃ k > 0 }
は線形空間であり、l2()はその部分空間である。

証明

演習とする。■

定理1.6.1.43

D'(T)) longrightarrow S'(), T longmapsto {T(n)}n∈
は線形同型写像である。
D'(T) ≅ S'()

証明

演習とする。■
 Fourier級数を総和法で計算する方法について簡単にまとめる。
DN(t)
1
N

n = -N
eint
Dirichret核でぃりくれかく, Dirichret kernelという。f ∈ L1(T)について次が成り立つ。
SN[f] = DN * f
 Dirichret核のCesàro和ちぇざろわ, Cesàro summation
FN(t)
1
N + 1
N

n = 0
Dn(t)
Fejér核ふぇいえーるかく, Fejér kernelという。

命題1.6.2.3 Fejér核

 Fejér核はt = 1/Nとおくことで総和核になる。

証明

演習とする。■
d次元トーラスTd (/2π)dは単位円S1d個の直積と同型になる。
Td longrightarrow
 

d
S1
, (t1,⋯,td) longmapsto (eit1,⋯,eitd)
d次元トーラス上の関数は実数d上の周期の関数と同一視することができる。LpノルムはFourier級数を扱いやすいよう次のように定数倍しておく。
f
p lb48
1
(2π)d
 
 
Td
f(t)
pdt
rb48
1
p

定義1.6.3.2 Fourier級数

f ∈ L1(Td)に対し、そのFourier係数ふーりえけいすう, Fourier coefficientを次のように定義する。
f(n)
1
(2π)d
 
 
Td
f(t)eintdt
, nd
fFourier級数ふーりえきゅうすう, Fourier series展開を次のように定義する。
 

nd
f(n)eint
 多変数Fourier級数は多重級数になるので、その和のとり方が一変数とは異なる。しかし、上に述べた一変数Fourier級数に関する結果はほぼそのまま成り立つ。

定義1.6.4.1 Fourier変換

f ∈ L1(d)に対し、そのFourier変換ふーりえへんかん, Fourier transformを次のように定義する。
Ff(ξ) f(ξ)
1
()d
 
 
d
f(x)eiξxdx
, ξd

定義1.6.4.2 Fourier逆変換

f ∈ L1(d)に対し、そのFourier逆変換ふーりえぎゃくへんかん, Fourier inverse transformを次のように定義する。
F-1f(ξ)
1
()d
 
 
d
f(x)eiξxdx
, ξd

補題1.6.4.3

f ∈ L1(d)について、
f(ξ) longrightarrow 0 (
ξ
longrightarrow ∞)
が成り立つ。

証明

演習とする。■

命題1.6.4.5

f,g ∈ L1(d)に対し、
f * g(ξ) = ()d f(ξ)g(ξ), ξd
が成り立つ。

証明

演習とする。■

定理1.6.4.7 反転公式

f,f ∈ L1(d)であれば、
f(x) =
1
()d
 
 
d
f(ξ)eixξdξ
a.e.
が成り立つ。

証明

演習とする。■

系1.6.4.9

f,g ∈ L1(d), f = gならばf = g a.e.

命題1.6.4.10

()dF:L1(d) → C0(d)は、畳み込みを積とするBanach環L1(d)からBanach環C0(d)への単射準同型である。

証明

演習とする。■

補題1.6.4.12

f,g ∈ S(d)について次が成り立つ。
(ⅰ) FF-1 f = F-1F f = f
(ⅱ) f * g ∈ S(d)
(ⅲ) f2 = f2
(ⅳ) F[Dαf](x) = iαξαf(ξ)
(ⅴ) F[xαf](x) = iαDαf(ξ)

証明

演習とする。■

命題1.6.4.14

F:S(d) → S(d)は連続な線形同型写像である。

証明

演習とする。■

定義1.6.4.16 緩増加超関数

T ∈ S'(d)に対し、そのFourier変換ふーりえへんかん, Fourier transformを次のように定義する。
FT, φ 〉 T, φ 〉 〈 T, φ 〉, φ ∈ S(d)
さらにFourier逆変換ふーりえぎゃくへんかん, Fourier inverse transformを次のように定義する。
F-1T, φ 〉 〈 T, F-1φ 〉, φ ∈ S(d)

補題1.6.4.17

T ∈ S'(d)について次が成り立つ。
FF-1 T = F-1F T = T

証明

演習とする。■
L2(d)におけるFourier変換は、直接定義しようとしてもFourier積分が収束するとは限らないので、L2(d)で稠密なS(d)の近似列を使って間接的に定義する。この近似列は適当な総和核との畳み込みにより作成する。

命題1.6.4.20

F:L2(d) → L2(d)はHilbert空間としてのユニタリ同型写像である。

証明

演習とする。■
数  学
トーラス とーらす, torus
Fourier係数 ふーりえけいすう, Fourier coefficient
Fourier級数 ふーりえきゅうすう, Fourier series
余弦係数 よげんけいすう, cosine coefficient
正弦係数 せいげんけいすう, sine coefficient
全変動 ぜんへんどう, total variation
有界変動 ゆうかいへんどう, bounded variation
Dirichret核 でぃりくれかく, Dirichret kernel
Cesàro和 ちぇざろわ, Cesàro summation
Fejér核 ふぇいえーるかく, Fejér kernel
Fourier係数 ふーりえけいすう, Fourier coefficient
Fourier級数 ふーりえきゅうすう, Fourier series
Fourier変換 ふーりえへんかん, Fourier transform
Fourier逆変換 ふーりえぎゃくへんかん, Fourier inverse transform
Fourier変換 ふーりえへんかん, Fourier transform
Fourier逆変換 ふーりえぎゃくへんかん, Fourier inverse transform