7.1節 線形Lie群
著者:梅谷 武
語句:対称群, 行列式, 正則行列, 一般線形群, 特殊線形群, 直交群, 特殊直交群, ユニタリ群, 特殊ユニタリ群, 線形Lie群
一般の線形空間並びに行列空間の内積・ノルム・行列式を定義する。さらに主要な線形Lie群について述べる。
作成:2009-09-23
更新:2011-03-08
 ここでは、体Kが実数あるいは複素数であるときK上の線形空間について共通することについて述べます。

定義7.1.1.2 線形空間上の内積

K上の線形空間Vについて、写像
V × V longrightarrow K,  (a,b) longmapstoa,b
が準双線形(双線形)かつエルミートえるみーと, Hermitian(対称)、正値であるとき、すなわち、次が成り立つとき、これを内積ないせき, inner productという。ただし、実数のときは共役は恒等写像と考え、用語は括弧内にものに置き換える。
(IN1) a + b, c 〉 = 〈 a, c 〉 + 〈 b, c 〉,  a,b,c ∈ V
(IN2) λ 〈 a, b 〉 = 〈 λ a, b 〉,  a,b ∈ V, λ ∈ K
(IN3) a, b 〉 = b, aa,b ∈ V
(IN4) a, a 〉 ≧ 0a ∈ V
(IN5) a, a 〉 = 0a = 0
 内積が定義された線形空間においてノルムを
a
:= a, a
によって定義します。

命題7.1.1.4

内積が定義されたK上の線形空間V上のノルムは次の性質を満たす。
(N1) a0a ∈ V
(N2) a = 0a = 0
(N3) λ a = λ aa ∈ V, λ ∈ K
(N4) a, ba b,  a,b ∈ V
(N5) a + ba + ba,b ∈ V

証明

略■
KnK上のn次元線形空間と考えたとき、その二つの元a,b
a = lb144
a1
a2
an
rb144b = lb144
b1
b2
bn
rb144
の内積を
(1)
a,b 〉 := ta b =
n

i=1
aibi
により、ノルムを
(2)
a
:= a, a
によって定義します。

命題7.1.1.7

上の定義はK上のn次元線形空間Knの内積とノルムとしての性質を満たす。

証明

略■
 ここでは、K上の(n,n)行列のなす行列環M(n,K)について考えます。
 行列A
A = lb144
a11
a12
a1n
a21
a22
a2n
an1
an2
ann
rb144
せき, traceを次の式で定義します。
Tr(A) :=
n

i=1
aii

命題7.1.2.3

(n,n)行列A,Bの跡に関して次が成り立つ。
(3)
Tr(A+B)
=
Tr(A) + Tr(B)
(4)
Tr(aA)
=
a Tr(A),  a ∈ K
(5)
Tr(AB)
=
Tr(BA)
(6)
Tr(BAB-1)
=
Tr(A)

証明

略■
A転置行列てんちぎょうれつ, transpose matrixtAとは対角成分に関して折り返したものです。
tA := lb144
a11
a21
an1
a12
a22
an2
a1n
a2n
ann
rb144

命題7.1.2.6

転置行列に関して次が成り立つ。
(7)
t(A+B)
=
tA + tB
(8)
t(aA)
=
a tA,  a ∈ K
(9)
t(AB)
=
tB tA
(10)
Tr(tA)
=
Tr(A)
(11)
t(tA)
=
A

証明

略■
A随伴行列ずいはんぎょうれつ, adjoint matrixAとは転置行列の共役です。
A := tA = lb144
a11
a21
an1
a12
a22
an2
a1n
a2n
ann
rb144

命題7.1.2.9

随伴行列に関して次が成り立つ。
(12)
(A+B)
=
A + B
(13)
(aA)
=
a A,  a ∈ K
(14)
(AB)
=
B A
(15)
Tr(A)
=
Tr(A)
(16)
(A)
=
A

証明

略■
 行列環M(n,K)を線形空間と考えて、内積とノルムを次のように定義します。
(17)
〈 A, B 〉 := Tr(AB)
(18)
A
:= 〈 A, A 〉
K = の場合、このノルムは第3章で定義した行列のノルムに一致します。

命題7.1.2.12

上の定義は行列環M(n,K)K上のn2次元線形空間と考えたときの内積とノルムとしての性質を満たし、さらに行列の積に関して次が成り立つ。
(19)
AB
A
B

証明

略■
n個の置換ちかん, permutationとは、n個の数{1,2,⋯,n}の並べ替え
σ = lb48
1
2
n
σ(1)
σ(2)
σ(n)
rb48
のことです。上段と下段は並べ替えの前と後に対応します。これは全単射
σ:{1,2,⋯,n} longrightarrow {1,2,⋯,n},  i longmapsto σ(i)
と同じもので、n個の置換全体の集合は写像の合成に関して群をなし、これを対称群たいしょうぐん, symmetric groupSnといいます。
 対称群Snにおいて互換ごかん, transpositionとは二つの数を入れ替える置換のことです。すべての置換は有限個の互換の積で表現することができます。この表現は一意ではありませんが、その表現を構成する互換の数が奇数か偶数かということは表現によらずに定まります。このとき、互換の数が偶数のものを偶置換ぐうちかん, even permutation、奇数のものを奇置換きちかん, odd permutationといいます。
 置換σに対して、その符号ふごう, signature
sgn(σ) := lc48
1
σが偶置換のとき
-1
σが奇置換のとき
と定めます。
(n,n)行列A = (aij) ∈ M(n,K)について、その行列式ぎょうれつしき, determinantdet A
det A :=
 

σ ∈ Sn
sgn(σ) x1σ(1) x2σ(2) ⋯ xnσ(n)
によって定義します。

命題7.1.3.5

行列式に関して次が成り立つ。
(20)
det tA = det A,  A ∈ M(n,K)
(21)
det (AB) = det A det B,  A,B ∈ M(n,K)

証明

略■
 行列A = (aij) ∈ M(n,K)n個のKnの直積の元と考えることができます。
A = lb144
a11
a12
a1n
a21
a22
a2n
an1
an2
ann
rb144 = (a1,a2,⋯,an)
このとき、行列式はn個のKnの直積上の関数と考えることができます。
det : Kn × ⋯ × Kn longrightarrow K,  (a1,a2,⋯,an) longmapsto det (a1,a2,⋯,an)

命題7.1.3.8

行列式は多重線形交代形式である。すなわち、次が成り立つ。
(22)
det(a1,⋯,aj + bj,⋯,an) = det(a1,⋯,aj,⋯,an) + det(a1,⋯,bj,⋯,an)
(23)
det(a1,⋯,λ aj,⋯,an) = λ det(a1,⋯,aj,⋯,an)
(24)
det(a1,⋯,ai,⋯,aj,⋯,an) = - det(a1,⋯,aj,⋯,ai,⋯,an)

証明

略■
 行列式はKnの元の列の線形独立性の判定に使うことができます。

命題7.1.3.11

Knn個の元について次が成り立つ。
det(a1,a2,⋯,an) ≠ 0 ⇔ (a1,a2,⋯,an)が線形独立

証明

略■
 一般に行列は線形写像と考えることができ、(n,n)行列はn次元線形空間における線形変換と考えることができます。行列式が0でない行列は、基底となるn個の元の列を線形独立なn個の元の列に写すので線形同型写像を引き起こします。したがって、その逆変換を引き起こす逆行列ぎゃくぎょうれつ, inverse matrixが存在します。これは正則行列せいそくぎょうれつ, regular matrixと呼ばれます。正則行列全体のなす群は一般線形群いっぱんせんけいぐん, general linear groupと呼ばれます。
GL(n,) := { A ∈ M(n,) ∣ det A ≠ 0 }
実一般線形群じついっぱんせんけいぐん, real general linear groupと呼ばれ、
GL(n,) := { A ∈ M(n,) ∣ det A ≠ 0 }
複素一般線形群ふくそいっぱんせんけいぐん, complex general linear groupと呼ばれます。これらは行列のノルムが定める距離によって、位相群(さらにはLie群)になっています。
Kn上に内積とノルムが定義されたことによって、Knを形式的に幾何学的空間のように扱うことができるようになります。平面や空間における合同変換は、内積とノルムを保存する線形変換として特徴付けられましたが、Knにおいても内積とノルムを保存する線形変換を定義することができます。

補題7.1.4.2

Kn上の内積において、次が成り立つ。
(25)
〈 Ax, y 〉 = 〈 x, Ay 〉,  a,b ∈ Kn, A ∈ M(n,K)

証明

略■

命題7.1.4.4

A = (a1,a2,⋯,an) ∈ M(n,K)について、次は同値である。
(a) AA = En
(b) 〈 Ax, Ay 〉 = 〈 x, y 〉,  a,b ∈ Kn
(c) Ax = x,  x ∈ Kn
(d) (a1,a2,⋯,an)Knの正規直交基底である。

証明

略■
K = のとき、上の条件を満たす行列を直交行列ちょっこうぎょうれつ, orthogonal matrixといい、直交行列全体のなす群を直交群ちょっこうぐん, orthogonal groupO(n)といいます。
O(n) := { A ∈ GL(n,) ∣ A tA = En }
K = のとき、上の条件を満たす行列をユニタリ行列ゆにたりぎょうれつ, unitary matrixといい、ユニタリ行列全体のなす群をユニタリ群ゆにたりぐん, unitary groupU(n)といいます。
U(n) := { A ∈ GL(n,) ∣ AA = En }
 行列式が1であるという性質をもつ部分群は特殊線形群とくしゅせんけいぐん, special linear groupと呼ばれます。
SL(n,) := { A ∈ GL(n,) ∣ det A = 1 }
実特殊線形群じつとくしゅせんけいぐん, real special linear groupといい、
SL(n,) := { A ∈ GL(n,) ∣ det A = 1 }
複素特殊線形群ふくそとくしゅせんけいぐん, complex special linear groupといいます。
 直交行列で行列式が1のものがなす群を特殊直交群とくしゅちょっこうぐん, special orthogonal groupSO(n)といいます。
SO(n) := { A ∈ GL(n,) ∣ A tA = En, det A = 1 }
ユニタリ行列で行列式が1のものがなす群を特殊ユニタリ群とくしゅゆにたりぐん, special unitary groupといいます。
SU(n) := { A ∈ GL(n,) ∣ AA = En, det A = 1 }
 一般線形群GL(n,),GL(n,)の閉部分群のことを線形Lie群せんけいりーぐん, linear Lie groupといいます。

命題7.1.4.10

O(n),U(n),SL(n,),SL(n,),SO(n),SU(n)は線形Lie群である。

証明

略■
[1] 佐武 一郎, 線型代数学, 裳華房, 1974
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[2] 横田 一郎, 群と位相, 裳華房, 1971
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[3] 小林 俊行, 大島 利雄, Lie群とLie環(岩波講座 現代数学の基礎17), 岩波書店, 1999
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[4] 江沢 洋, 島 和久, 群と表現, 岩波書店, 2009
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数  学
エルミート えるみーと, Hermitian
内積 ないせき, inner product
せき, trace
転置行列 てんちぎょうれつ, transpose matrix
随伴行列 ずいはんぎょうれつ, adjoint matrix
置換 ちかん, permutation
対称群 たいしょうぐん, symmetric group
互換 ごかん, transposition
偶置換 ぐうちかん, even permutation
奇置換 きちかん, odd permutation
符号 ふごう, signature
行列式 ぎょうれつしき, determinant
逆行列 ぎゃくぎょうれつ, inverse matrix
正則行列 せいそくぎょうれつ, regular matrix
一般線形群 いっぱんせんけいぐん, general linear group
実一般線形群 じついっぱんせんけいぐん, real general linear group
複素一般線形群 ふくそいっぱんせんけいぐん, complex general linear group
直交行列 ちょっこうぎょうれつ, orthogonal matrix
直交群 ちょっこうぐん, orthogonal group
ユニタリ行列 ゆにたりぎょうれつ, unitary matrix
ユニタリ群 ゆにたりぐん, unitary group
特殊線形群 とくしゅせんけいぐん, special linear group
実特殊線形群 じつとくしゅせんけいぐん, real special linear group
複素特殊線形群 ふくそとくしゅせんけいぐん, complex special linear group
特殊直交群 とくしゅちょっこうぐん, special orthogonal group
特殊ユニタリ群 とくしゅゆにたりぐん, special unitary group
線形Lie群 せんけいりーぐん, linear Lie group
 
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