4.1節 複素数
著者:梅谷 武
語句:複素数, 実部, 虚部, 虚数, 共役, 極形式, 偏角, 主値, 1のn乗根
平面比例として複素数を定義し、その性質について述べる。
作成:2009-09-13
更新:2011-03-08
 第2章において直線上のベクトル比の比例類は対称化した線長比×に等しく、対応する相似変換群は一般線形群GL(Vα, )に等しいことを示しました。それではこれを拡張して平面上のベクトル比を考えることはできないでしょうか。ここではそれが可能であり、平面上のベクトル比の比例類は複素数の単元群×と同一視できて、平面図形の向きを保存する相似変換群+ × SO(2)とみなすことができることを示します。この意味で複素数は平面上の相似図形の比であり、複素数論とは平面比例論に他ならないということがわかります。
 平面(E,V2)0でないベクトルの比の集合V := { a:b | a,bV } を考えます。この比例関係を比が定める相似変換が等しいこととして定義することにしましょう。
a,bに属する有向線分として原点Oを始点とするものを選ぶことにしましょう。そうするとOAOBに写す相似変換はOAOBと同一直線上に重ねる回転と長さを一致させる拡大縮小の合成になりますが、回転の向きが時計回りと反時計回りの二種類あります。これを反時計回りのものに決めることにしましょう。
 平面(E,V2)の正規直交基底(O;e1,e2)を定めるとき、この相似変換は次のように書くことができます。
+ × SO(2) = lc72 r lb72
cos θ
-sin θ
sin θ
cos θ
rb72 mid72 r ∈ +,  θ ∈ [0,4∠R) rc72
 平面上のベクトル比の比例類の代表として初項がe1であるようなものを選ぶことができます。これにより比例類集合RV := V / ∝ はベクトル全体の集合と一対一に対応します。
RVV,  [a:b] = [e1:c] longmapsto c
ここで、c = t(x  y),  r = x2 + y2とすると、変換行列は次のようになります。
r lb96
x
r
-
y
r
y
r
x
r
rb96 = lb72
x
-y
y
x
rb72
 ここまでの議論を整理しておきます。

命題4.1.1.8 平面上のベクトル比

Mat() := lc72 lb72
x
-y
y
x
rb72 mid72 x, y ∈ rc72 ⊂ M(2,)
は行列の積によって可換体となる。Mat()×によりMat()から零行列を除いたものを表すことにすれば、平面(E,V2)の正規直交基底(O;e1,e2)を定めるとき、平面上のベクトル比は
Mat()×+ × SO(2)
と表すことができ、図形の向きを保存する相似変換群の原点の固定部分群として平面Eに作用する。
Mat()は次の対応により、平面Eあるいはベクトル空間V2と同一視することができます。
Mat() longrightarrow E,  lb72
x
-y
y
x
rb72 longmapsto lb72
x
y
rb72
このとき、Mat()×は平面Eに行列の積によって原点の固定部分群として作用し、Mat()は平面Eに行列の和によって平行移動群として作用します。
Mat()において、
J := lb72
0
-1
1
0
rb72
とおくとJ2 = - E2が成り立ちます。これを使うとMat() = E2 J と直和分解できますが、E21Jiと形式的に置き換えて := i という直和を作ってみましょう。そうすると1iは実数体上線形独立であり、自然にと埋め込むことができます。この実数を拡大した体複素数ふくそすう, complex numberと呼びます。実部じつぶ, real part虚部きょぶ, imaginary part iの直和ですから、任意の元zは次のように一意的に表現できます。
z = Re(z) + Im(z)i,   Re(z), Im(z) ∈
 さらに平面(E,V2)に正規直交座標系(O;e1,e2)を定めるとき、1e1に、ie2に対応させると、平面の座標表現E → 2を実数から複素数E → に置き換えることができます。
 このように複素数を実数を拡大した数と考えたときの実数ではない数は歴史的に虚数きょすう, imaginary numberと呼ばれてきました。i虚数単位きょすうたんい, imaginary unitと呼ばれます。
 この虚数形式における計算規則を列挙しておきます。z = a + bi, w = c + diとすると、
(1)
          z + w
=
(a + c) + (b + d)i
(2)
z - w
=
(a - c) + (b - d)i
(3)
zw
=
(ac - bd) + (ad + bc)i
z = a + biに対して、z = a - bi共役きょうやく, conjugate複素数といいます。
(4)
z + w
=
z + w
(5)
z - w
=
z - w
(6)
zz
=
zz = a2 + b2
複素数の絶対値を
|z| := a2 + b2
によって定義します。これは実数の絶対値の拡張になっており、複素数をベクトル空間V2と同一視したときのノルムと一致しています。
(7)
                 zz
=
|z|2
(8)
w
z
=
(ac + bd) + (ad - bc)i
zz
 複素数をベクトルと同一視した場合、複素数の加法とベクトルの加法、複素数の減法とベクトルの減法が一致するという利点があります。これを使って平面幾何の問題を複素数の計算に帰着させることができます。
 複素数z,wをベクトルとみなし、平面の原点Oからの有向線分OA,OBをそれらに属するものとするとき、それらの有向線分の和をOCとすると点Cの複素座標はz+wになります。
 ベクトルの差については次が成り立ちます。
[AB] = [OB] - [OA] = w - z
線分ABm:nに内分する点は次のように表すことができます。
mz + nw
m + n
三角形ABCの重心は次のように表すことができます。
z + w + (z + w)
3
=
2z + 2w
3
0でない複素数×は平面上のベクトル比全体であり、平面上の相似変換群とみなすことができ、次のように行列表現されました。
Mat()× = lc72 r lb72
cos θ
-sin θ
sin θ
cos θ
rb72 mid72 r ∈ +, θ ∈ [0,2π) rc72
ここで、三角関数は弧度法を使っています。これを虚数形式で表現すると
× = { r(cos θ + i sin θ) ∣ r ∈ +, θ ∈ [0,2π) }
となります。これを極形式きょくけいしき, polar formと呼ぶことにします。
z = a + biとするとr = |z| = a2 + b2であり、θ
θ = Arg(z),  θ ∈ [0,2π)
あるいは回転量としての領域を制限しないで
θ = arg(z) = Arg(z) + 2nπ,  n ∈
と表し、偏角へんかく, argumentといい、Arg(z)をその主値しゅち, principal valueと呼びます。

命題4.1.3.3

zj = rj(cos θj + i sin θj),  j=1, 2 とすると次が成り立つ。
(9)
z1z2
=
r1r2(cos12) + i sin12) )
(10)
|z1z2|
=
|z1||z2|
(11)
               arg(z1z2)
=
arg(z1) + arg(z2)

証明

略■

命題4.1.3.5

z = r(cos θ + i sin θ) とすると次が成り立つ。
(12)
z-1
=
1
r
(cos(-θ) + i sin(-θ) )
(13)
|z-1|
=
|z|-1
(14)
          arg(z-1)
=
- arg(z)

証明

略■

系4.1.3.7 ド・モアブル

z = r(cos θ + i sin θ) とすると任意の整数nに対して次が成り立つ。
(15)
zn
=
rn(cos nθ + i sin nθ )
(16)
|zn|
=
|z|n
(17)
          arg(zn)
=
n arg(z)
S1 := { cos θ + i sin θ ∣ θ ∈ [0,2π) } は平面上の単位円を表します。自然数nについて
θn =
2π
n
とおくとn個の複素数
cosn + i sinn, k = 0,1,2,⋯,n-1
は単位円周上に等間隔に並び、単位円に内接する正n角形の頂点となります。これらはn乗すると1になることから、1のn乗根1のnじょうこん, n-th root of 1と呼ばれます。
 まず、形式的冪級数環の話から始めます。形式的冪級数環の詳細については『整数論事始』[1]を参照してください。形式的冪級数eX,sin X,cos Xを次のように定義します。
eX :=


n=0
Xn
n!
,   sin X :=


n=0
(-1)nX2n+1
(2n+1)!
,   cos X :=


n=0
(-1)nX2n
(2n)!
そうすると次が成り立ちます。

証明

略■

系4.1.4.4

(19)
sin X
=
eiX - e-iX
2i
(20)
     cos X
=
eiX + e-iX
2
 解析的な議論には深入りしませんが、上の形式的冪級数は複素平面上で絶対収束し、その結果としてオイラーの公式が導かれます。

命題4.1.4.6 オイラーの公式

z ∈ について次が成り立つ。
(21)
eiz = cos z + i sin z

証明

略■

系4.1.4.8

z ∈ について次が成り立つ。
(22)
sin z
=
eiz - e-iz
2i
(23)
     cos z
=
eiz + e-iz
2
 なお、定義域を実数体上に制限して実関数と考えると形式的冪級数として定義したsin, cosは弧度法を使った三角関数に一致します。オイラーの公式を使って、複素数の積公式を書き直しておきます。
(24)
r1eiθ1r2eiθ2
=
r1r2ei12)
(25)
(reiθ)-1
=
r-1e-iθ
(26)
(reiθ)n
=
rnei
 複素平面上の単位円S1 := { z ∈ ∣ |z| = 1 }は乗法群として×の部分群になっています。これはSO(2)を虚数形式で表現したものに他なりません。

命題4.1.5.2

S1 longrightarrow SO(2),  z = a + b i longmapsto lb72
a
-b
b
a
rb72
は位相群としての同型を与える。

証明

略■
[1] 梅谷 武, 整数論事始, pisan-dub.jp, 2006
[2] 片山 孝次, 複素数の幾何学, 岩波書店, 1982
img
 
 
[3] 一松 信, 複素数と複素数平面, 森北出版, 1993
img
 
 
[4] 梅沢 敏夫, 後藤 達生, 複素数と幾何学, 培風館, 1993
数  学
複素数 ふくそすう, complex number
実部 じつぶ, real part
虚部 きょぶ, imaginary part
虚数 きょすう, imaginary number
虚数単位 きょすうたんい, imaginary unit
共役 きょうやく, conjugate
極形式 きょくけいしき, polar form
偏角 へんかく, argument
主値 しゅち, principal value
1のn乗根 1のnじょうこん, n-th root of 1
 
Published by SANENSYA Co.,Ltd.