3.4節 ユークリッド幾何
著者:梅谷 武
語句:合同変換群, 直交行列, 直交群, 特殊直交群, 回転群, 相似変換群, 等積変換群, 特殊線形群
合同幾何・相似幾何・等積幾何を定める合同変換群・相似変換群・等積変換群の構造を決定する。
作成:2009-09-08
更新:2021-03-28
 平面上の距離や付随するベクトル空間のノルムや内積を使って図形を測るような幾何の問題を考える分野全般は、原論で展開される幾何に相当するためにユークリッド幾何ゆーくりっどきか, Euclidean geometryと呼ばれています。
 ユークリッド幾何はエルランゲンプログラムにより、アフィン変換群の部分群である合同変換群・相似変換群・等積変換群にそれぞれ対応する合同幾何ごうどうきか, congruent geometry相似幾何そうじきか, similar geometry等積幾何とうせききか, equivalent geometryに分類されます。ここでは各変換群の構造を決定します。
 平面上の合同変換ごうどうへんかん, congruent transformationとは直線図形を合同な直線図形に写すもののことです。特に平行四辺形は平行四辺形に写しますから合同変換はアフィン変換です。命題I-8「二つの三角形において、二つの対応する辺と底辺どうしがそれぞれ等しければ、等しい辺に挟まれる角どうしはそれぞれ等しい。」により、二つの三角形の合同条件として三辺の線長量がそれぞれ等しいというものがありますから、合同変換は平面上の距離を不変にするアフィン変換として特徴付けることができます。

命題3.4.2.2 合同変換

平面(E,V2)において、アフィン変換f:E → Eが合同変換であるためには次が必要十分である。
d(P,Q) = d(f(P),f(Q)),  ∀ P,Q ∈ E
 アフィン変換fから誘導される線形変換φは、ベクトル空間V2の元aについて、有向線分ABaの端点の像をf(A) = C, f(B) = Dとするとき、有向線分CDによってφ(a) := [CD]と定めることで得られました。
 合同変換は距離を不変にするので、
d(A,B) = d(f(A),f(B)),  A,B ∈ E
が成り立ち、有向線分の長さとして定義されるノルムについても
a
=
φ(a)
,  aV2
が成り立ちます。さらに内積とノルムの関係から、内積についても
a, b 〉 = 〈 φ(a), φ(b) 〉,  a,bV2
が成り立ちます。

命題3.4.2.5

合同変換から誘導される線形変換はノルムと内積を保存する。
 平面(E,V2)上の合同変換全体の集合は写像の合成に関して群を成しますがこれを合同変換群ごうどうへんかんぐん, congruence transformation groupと呼び、Cong(E)と書くことにします。合同変換群はアフィン変換群と同様に平行移動群と原点の固定部分群の半直積として分解されます。

補題3.4.2.7

平行移動群Trans(E)に合同変換群Cong(E)の内部自己同型によって一般線形群GL(V2,)の部分群である原点Oの固定部分群GOを作用させた半直積Trans(E) ⋊ GOCong(E)と同型である。
 このことから、合同変換群の構造も原点Oの固定部分群GOの構造によって決まることがわかります。
 以後、平面(E,V2)において正規直交座標系(O;e1,e2)を固定して考えます。合同変換fから誘導される線形変換φ
A = lb72
a11
a12
a21
a22
rb72
と行列表現され、二つのベクトルa,bが次のように座標表現されているとします。
                      a
=
λ1 e1 + μ1 e2 = lb72
λ1
μ1
rb72
b
=
λ2 e1 + μ2 e2 = lb72
λ2
μ2
rb72
このとき内積は次のように表現されます。
a, b 〉 = ta b = ( λ1   μ1 ) lb72
λ2
μ2
rb72 = λ1 λ2 + μ1 μ2
これに線形変換φを適用すると次のようになります。
          〈 φ(a), φ(b) 〉
=
ta tA A b
=
( λ1   μ1 )
t
lb72
a11
a12
a21
a22
rb72 lb72
a11
a12
a21
a22
rb72 lb72
λ2
μ2
rb72
ここで、特に基底を代入すると、
               〈 φ(ei), φ(ej) 〉
=
tei tA A ej
=
tei
t
lb72
a11
a12
a21
a22
rb72 lb72
a11
a12
a21
a22
rb72 ej
=
2

k=1
aikajk
となり、これは行列の積tA Aの(i,j)-成分を表していますから、φが内積を保存することとei, ej 〉 = δijより、
tA A = E2 := lb72
1
0
0
1
rb72
であることがわかります。tA = A-1からtA A = A tA = E2が成り立ちますが、このような行列は直交行列ちょっこうぎょうれつ, orthogonal matrixと呼ばれます。
 直交行列の全体は一般線形群の部分群を成し、直交群ちょっこうぐん, orthogonal groupと呼ばれ、(2,2)行列の場合、これを
O(2) := { A ∈ GL(2,) ∣ tA A = A tA = E2 }
と書きます。
det (tA A) = det tA det A = (det A)2 = det E2 = 1
より、det A = ± 1が成り立ちますが、det:O(2) → を群準同型と考えるとその像は{ 1,-1 }であり、その核は正規部分群になり、それにより二つの剰余類に分解されます。これを行列式の符号で表します。
               O(2)
=
O+(2) ∪ O-(2)
O+(2)
:=
{ A ∈ O(2) ∣ det A = 1 }
O-(2)
:=
{ A ∈ O(2) ∣ det A = -1 }
O+(2)O(2)の正規部分群であり、特殊直交群とくしゅちょっこうぐん, special orthogonal groupあるいは回転群かいてんぐん, rotation groupと呼ばれ、通常SO(2)と表記されます。O-(2)は部分群にはならず、 回転群SO(2)と鏡映変換の代表元との積で表されます。
 原点を固定する合同変換に誘導される線形変換の行列表現が直交行列になることを示しましたが、その計算は、逆に直交行列が原点を固定する合同変換を誘導することも示していますから、
O(V2) := lc96 lb96
a11
a12
0
a21
a22
0
0
0
1
rb96 mid96 lb72
a11
a12
a21
a22
rb72 ∈ O(2) rc96
とおくと、合同変換群の原点の固定部分群GOは直交群O(V2)に一致することがわかりました。

定理3.4.2.12 合同変換群の構造

合同変換群Cong(E)は、平行移動群Trans(E)に内部自己同型によって直交群O(V2)を作用させた半直積に同型である。
Cong(E) ≅ Trans(E) ⋊ O(V2)
 平面上の相似変換とは直線図形を相似な直線図形に写すもののことです。命題VI-4「等角な三角形において、等しい角を挟む辺どうしは比例し、それらの辺を挟む角が対応している。」と命題VI-5「二つの三角形の辺どうしが比例するとき、それらは等角であり、対応する辺に挟まれる角は等しい。」から、相似変換は「角度を保存すること」そして「線長比を保存すること」によって特徴付けられます。

定義3.4.3.2 相似変換

平面(E,V2)において、平面E上のアフィン変換f相似変換そうじへんかん, similar transformationであるとは、次の条件を満たすことである。
(1) 線長比を保存する。i.e. AB:ACf(A)f(B):f(A)f(C),  ∀ A,B,C ∈ E
(2) 角度を保存する。i.e. ∠ BAC = ∠ f(B)f(A)f(C),  ∀ A,B,C ∈ E
 平面(E,V2)上の相似変換全体の集合は写像の合成に関して群を成しますがこれを相似変換群そうじへんかんぐん, similar transformation groupと呼び、Similar(E)と書くことにします。合同変換は相似変換ですから、相似変換群は合同変換群を部分群として含みます。
 相似変換群はアフィン変換群と同様に平行移動群と原点の固定部分群の半直積として分解されますから、相似変換群の構造は原点Oの固定部分群GOの構造によって決まります。
 相似変換fから誘導される線形変換をφとすると、線長比と角度を保存することから次が成り立ちます。
〈 φ(a), φ(b) 〉
=
〈 λ a, λ b 〉,  λ :=
φ(a)
:
a
+
=
λ2a, b
φの行列表現Aλ-1倍すると直交行列になるので、GOは線長比のなす乗法群+と直交群O(V2)の積に分解できることがわかります。さらに、+はすべてのアフィン変換と可換なのでこの分解は群としての直積になっています。
GO = + × O(V2)

定理3.4.3.6 相似変換群の構造

相似変換群Similar(E)は、平行移動群Trans(E)に内部自己同型によって線長比のなす乗法群+と直交群O(V2)の直積を作用させた半直積に同型である。
Similar(E) ≅ Trans(E) ⋊ (+ × O(V2))

定義3.4.4.1 等積変換

平面(E,V2)において、直線図形の面積を保存するアフィン変換を等積変換とうせきへんかん, equivalent transformationという。
 平面(E,V2)上の等積変換全体の集合は写像の合成に関して群を成しますがこれを等積変換群とうせきへんかんぐん, equivalent transformation groupと呼び、Equiv(E)と書くことにします。 合同変換は等積変換ですから、等積変換群は合同変換群を部分群として含みます。
 等積変換群はアフィン変換群と同様に平行移動群と原点の固定部分群の半直積として分解されますから、等積変換群の構造は原点Oの固定部分群GOの構造によって決まります。
 等積変換fから誘導される線形変換をφとすると、面積を保存することは外積を使って次のように表現できます。
φ(a) ∧ φ(b)
=
ab
これを行列表現すると、
det(Aa, Ab)
=
det A
det(a, b)
=
det(a, b)
となり、
det A
= 1
であることがわかります。直交群と同じように等積変換も行列式の符号で分類します。
               Eq(2,)
:=
{ A ∈ GL(2,) ∣
det A
= 1 }
=
Eq+(2,) ∪ Eq-(2,)
Eq+(2,)
:=
{ A ∈ Eq(2,) ∣ det A = 1 }
Eq-(2,)
:=
{ A ∈ Eq(2,) ∣ det A = - 1 }
Eq+(2,)Eq(2,)の正規部分群であり、特殊線形群とくしゅせんけいぐん, special linear groupと呼ばれ、通常SL(2,)と表記されます。Eq-(2,)は部分群にはなりません。
 これにより
Eq(V2,) := lc96 lb96
a11
a12
0
a21
a22
0
0
0
1
rb96 mid96 lb72
a11
a12
a21
a22
rb72Eq(2,) rc96
が原点を固定する等積変換全体のなす群となります。

定理3.4.4.6 等積変換群の構造

等積変換群Equiv(E)は、平行移動群Trans(E)に内部自己同型によってEq(V2,)を作用させた半直積に同型である。
Equiv(E) ≅ Trans(E) ⋊ Eq(V2,)
[1] 伊原 信一郎, 河田 敬義, 線型空間・アフィン幾何 (岩波基礎数学選書), 岩波書店, 1997
数  学
ユークリッド幾何 ゆーくりっどきか, Euclidean geometry
合同幾何 ごうどうきか, congruent geometry
相似幾何 そうじきか, similar geometry
等積幾何 とうせききか, equivalent geometry
合同変換 ごうどうへんかん, congruent transformation
合同変換群 ごうどうへんかんぐん, congruence transformation group
直交行列 ちょっこうぎょうれつ, orthogonal matrix
直交群 ちょっこうぐん, orthogonal group
特殊直交群 とくしゅちょっこうぐん, special orthogonal group
回転群 かいてんぐん, rotation group
相似変換 そうじへんかん, similar transformation
相似変換群 そうじへんかんぐん, similar transformation group
等積変換 とうせきへんかん, equivalent transformation
等積変換群 とうせきへんかんぐん, equivalent transformation group
特殊線形群 とくしゅせんけいぐん, special linear group
 
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