1.5節 比例論
著者:梅谷 武
語句:自然数, 整数, 比, 比例, 逆比, 数比, 切断
無向量の比と比例を定義し、比例関係が同値関係であること、比の順序、比例とデデキントの切断の関係について述べる。
作成:2009-08-24
更新:2011-03-08
 この節と次節では第V巻で展開されているエウドクソスの業績と伝えられている比例論を、前節までに準備した概念を使って、なるべくそのままの形で再現します。一見して奇妙に感じますが、自然数だけを使ってあらゆる量の比を論ずることを可能にする巧妙なもので、後の線長論においてこれが実数論に相当するものであるということが徐々に見えてきます。
 今後の準備として自然数について必要となる性質を証明抜きでまとめておきます。ここではこれ以上深入りしません。
 自然数全体の集合={1,2,3,⋯}は次の公理によって特徴付けられます。

公理1.5.2.3 自然数の公理

自然数しぜんすう, natural numberは次の性質をもつ。
(N1) 任意の自然数n,mについて n ≠ m ⇒ n + 1 ≠ m + 1
(N2) 任意の自然数nについてn + 11
(N3) 1を含む任意の部分集合A ⊂ について、もしA + 1 := { n + 1 | n ∈ A } ⊂ Aが成り立つならばA = である。

命題1.5.2.4 自然数はアルキメデス的可差半加群

自然数はアルキメデス的可差半加群である。

命題1.5.2.5 自然数の閉包は可差半環

自然数の閉包は可差半環である。

定義1.5.2.6 整数

自然数の閉包を対称化した順序環を整数せいすう, integerと呼び、で表わす。

命題1.5.2.7 整数はアルキメデス的順序環

整数はアルキメデス的順序環である。

定理1.5.2.8 自然数の整列性

自然数の任意の空でない部分集合は最小元をもつ。

定理1.5.2.9 除法の原理

a,bを任意の整数とし、b ≠ 0とする。このとき、
a = bq + r, 0 ≦ r < |b|
を成り立たせる整数q,rがただ一組だけ存在する。
 自然数は可差半加群に自然に作用します。

命題1.5.3.2 自然数の無向量への作用(I)

自然数は無向量M+へ自然に作用している。すなわち、写像
× M+ longrightarrow M+, (m,a) longmapsto ma
は次の性質を満たす。
(1) m(a + b) = ma + mb, m ∈ , a,b ∈ M+
(2) (m + n)a = ma + na, m,n ∈ , a ∈ M+
(3) (mn)a = m(na), m,n ∈ , a ∈ M+
(4) 1a = a, 1, a ∈ M+

証明

(1)=(命題V-1):
m(a + b)
=
(a + b) + ⋯ + (a + b)  [定義]
=
(a + ⋯ + a) + (b + ⋯ + b)  [可換律,結合律]
=
ma + mb  [定義]
(2)=(命題V-2):略
(3)=(命題V-3):略
(4):[定義]■

命題1.5.3.4 自然数の無向量への作用(II)

自然数の無向量M+への作用において次が成り立つ。
(5) m(a - b) = ma - mb, m ∈ , a,b ∈ M+, a > b, ma > mb
(6) (m - n)a = ma - na, m,n ∈ , m > n, a ∈ M+, ma > na

証明

(5)=(命題V-5):略
(6)=(命題V-6):略■
 可差性をもつ半加群と半環の対称化の理論により、この作用は整数環上の順序加群Mへと拡張することができます。

命題1.5.3.7 整数の無向量への作用(I)

整数は無向量Mへ自然に作用している。すなわち、写像
× M longrightarrow M, (m,a) longmapsto ma
は次の性質を満たす。
(1) m(a + b) = ma + mb, m ∈ , a,b ∈ M
(2) (m + n)a = ma + na, m,n ∈ , a ∈ M
(3) (mn)a = m(na), m,n ∈ , a ∈ M
(4) 1a = a, 1, a ∈ M

証明

略■

命題1.5.3.9 整数の無向量への作用(II)

整数の無向量Mへの作用において次が成り立つ。
(5) m(a - b) = ma - mb, m ∈ , a,b ∈ M, a > b, ma > mb
(6) (m - n)a = ma - na, m,n ∈ , m > n, a ∈ M, ma > na

証明

略■
 「比(会意)」は人が並ぶさまを表し、優劣・相違・善悪などをくらべることを意味します。原論では次のように定義しています。

定義1.5.4.2 (V-3)

ひ、ratioとは、同じ種類の二つの量の大きさに関するある種の関係である。
 無向量M+について、その直積集合M+ × M+の各元(a,b)を単なる順序対ではなく、比として考えるときにはa:bと書き、直積集合を比の集合と考えます。
M+ := { a:b | a,b ∈ M+ }
 次に二つの比が等しいということ、すなわち比例するということを定義します。

定義1.5.4.5 (V-5)

二つの比a:bc:d比例ひれい, proportionするとは、任意の自然数m,nに対して次が成り立つことをいう。
ma > nb
mc > nd
ma = nb
mc = nd
ma < nb
mc < nd
以後、この条件を次のように略記する。
ma ⋛ nb ⇒ mc ⋛ nd
また、a:bc:dが比例するとき、a:b ∝ c:dと書く。

命題1.5.4.6 比例関係は同値関係

比例関係は同値関係である。

証明

(反射律):任意の自然数m,nに対して、
ma ⋛ nb ⇒ ma ⋛ nb
(対称律):任意の自然数m,nに対して、
mc > nd ⇒ ma > nb
が成り立たないと仮定すれば、ある自然数m,nに対して、
mc > nd, ma ≦ nb
となるが、これは仮定に矛盾する。同様にして残りも示すことができる。
(推移律)=(命題V-11):任意の自然数m,nに対して、
ma ⋛ nb ⇒ mc ⋛ nd,  mc ⋛ nd ⇒ me ⋛ nf
が成り立つから、
ma ⋛ nb ⇒ me ⋛ nf
 これにより、無向量M+の比全体の集合M+を比例関係で分割した同値類の集合RM+ := M+/∝を考えることができます。これを無向量M+の比例類の集合と呼ぶことにします。
 比は同じ種類の量に対してのみ定義することができますが、比例関係は異なる種類の量の比に対しても定義できます。これは比例の定義が、量が自然数倍できるという性質にのみ依存しているからです。今後、原則として無向量M+を固定して議論しますが、単に無向量の比例関係について述べる場合は、さまざまな種類の無向量の間の関係としてもそのまま成り立ちます。
 まず比例関係の定義からすぐに導かれる二つの命題を示します。

命題1.5.5.2 (V-4)

二つの比a:b, c:dと任意の自然数m,nについて次が成り立つ。
a:b ∝ c:d  ⇒  ma:nb ∝ mc:nd

証明

m'(ma) ⋛ n'(nb)
(m'm)a ⋛ (n'n)b
(m'm)c ⋛ (n'n)d
m'(mc) ⋛ n'(nd)
 二つの比が比例すれば、それらの前項と後項を入れかえた比も比例しますが、 この操作を逆比ぎゃくひをとるといいます。

命題1.5.5.5 (V-7系)

二つの比a:b, c:dについて次が成り立つ。
a:b ∝ c:d  ⇔  b:a ∝ d:c

証明

ma ⋛ nb ⇒ mc ⋛ nd   ⇔   mb ⋛ na ⇒ md ⋛ nc
 比の順序を定義します。

定義1.5.5.8 比の順序

二つの比a:b, c:dについて、a:b > c:dとは、 ある自然数m,nが存在して次が成り立つことをいう。
ma > nb, mc ≦ nd
 これが比例類の順序を誘導することを示します。

命題1.5.5.10 比例類の順序

比の順序により、比例類の集合RM+に順序が誘導され、これにより全順序集合となる。

証明

まずこの順序が比例類に対して定まっていることを示す。すなわち、a:b > c:d, a:b ∝ a':b', c:d ∝ c':d'ならばa':b' > c':d'が成り立つことを示す(命題V-13)。仮定から、ある自然数m,nが存在して
ma > nb, mc ≦ nd
が成り立つ。このときa:b ∝ a':b', c:d ∝ c':d'より、
ma' > nb', mc' ≦ nd'
が成り立つから、a':b' > c':d'である。
(反射律):略
(反対称律):もしa:b > c:d, c:d > a:bならば、ある自然数m,n,s,tが存在して
ma > nb, mc ≦ nd, sc > td, sa ≦ tb
となる。
mtb ≧ msa = sma > snb
よりmt > nsである。一方、
nsc > ntd = tnd ≧ tmc
よりns > mtとなり矛盾である。
(推移律): a:b>c:d, c:d>e:fならばa:b>e:fを示す。ある自然数m,nが存在して
ma > nb, mc ≦ nd
となるが、このとき、me ≦ nfである。もしそうでないならば、
me > nf, mc ≦ nd
となり矛盾する。
(全順序):等しくなければ定義からある自然数m,nが存在して
  • ma > nb, mc ≦ nd
  • mc > nd, ma ≦ nb
のいずれかが成り立つ。■
 無向量M+の元aと自然数m,nについてma:naという比を考えることができます。このとき、aが何であっても
m > n
ma > na
m = n
ma = na
m < n
ma < na
が成り立つことから、任意の二元a,bについてma:na ∝ mb:nbとなることがわかります。この比は自然数m,nのとり方だけで定まる比例類という意味で[m:n] ∈ RM+と書くことにします。
 自然数はアルキメデス的可差半加群ですから、無向量としてその比の集合を考えることができます。これを数比すうひと呼ぶことにしましょう。
= { m:n | m,n ∈ }
これを比例関係で分割した比例類の集合を
+ := /∝
で表すことにします。このとき、任意の無向量M+について
+ longrightarrow RM+, [m:n] longmapsto [m:n]
は単射で、順序関係を保ちますから、任意の無向量M+の比例類の集合RM+は常に数比の比例類の集合+を含んでいると考えることができます。
 無向量M+の比a:bが与えられたとき、
Q1
:=
{ [m:n] | m:n ≦ a:b }
Q2
:=
{ [m:n] | m:n > a:b }
という二つの+の部分集合の組を考えましょう。これらは次の性質を満たします。
+ = Q1 ∪ Q2,  Q1 ∩ Q2 = ∅,  Q1 ≠ ∅,  Q2 ≠ ∅
[m:n] ∈ Q1, [m':n'] ∈ Q2 ⇒ [m:n] < [m':n']
逆に二つの部分集合の組(Q1,Q2)がこの条件を満たすとき、これを+切断せつだん, cutと呼ぶことにします。切断の概念を使うと比例の定義を次のように言い換えることができます。

命題1.5.6.4 比例と切断

二つの比a:b, c:dが比例するとは、その各々が定める+の切断が一致することである。

証明

略■
 この切断の概念は、デデキントが『数について』[1]において、実数の完備性の根拠を作るために導入したものですが、比の概念を使って言い換えてみるとエウドクソスの比例の定義と同等であることがわかります。デデキントは切断全体の集合に四則演算が矛盾無く定義できることを示し、これを実数の定義としました。この場合、Q1が最大元をもたず、かつQ2が最小元をもたない場合の切断が無理数に相当します。
[1] デーデキント, 数について―連続性と数の本質 (岩波文庫), 岩波書店, 1961
数  学
自然数 しぜんすう, natural number
整数 せいすう, integer
ひ、ratio
比例 ひれい, proportion
逆比 ぎゃくひ
数比 すうひ
切断 せつだん, cut
 
Published by SANENSYA Co.,Ltd.